この記事を含めて5つに分かれていた記事を1つにまとめました。
このブログ「博士の品質マネジメント」では、中小企業のモノづくりメーカーを想定して、品質マニュアルと関連規定、ISOならではのマネジメントレビューや内部監査ガイド、プロジェクト・マネジメントなどについてまとめています。
マネジメントシステムについてのISO要求事項は同じですが、品質マニュアル1つとっても会社各様で、品質マニュアルに限らずこれまでに様々な質問をいただいています。
ベイジの枌谷さんの「オウンドメディアに関する27の質問に2万字で回答します」の記事が、ISO(品質マネジメント)とも共通する部分が多い事に驚き、オウンドメディアをISOや品質マネジメントに置き換えてまとめまています。
以下の5つに分けて公開していきます。
その1:目的・意義・戦略
その2:目標・指標 ⇐ ここです。
その3:企画・題材
その4:運用体制
その5:その他
私の経験や考え方にもとづく内容なので偏りがあるかとは思いますが、ISOやマネジメントの振り返りや見直しなどの参考になれば幸いです。
Q6.ISO(品質マネジメント)のKPIはどう設定すればいいですか?
ISOの効果を得るための目標には、例えば次のように様々なものがあります。
- 集客
- 人材の確保
- 暗黙知の共有
- 教育・訓練
- 会社や製品のブランディング
- 組織づくりなど
ISO(品質マネジメント)の方針や目標は、品質方針、品質目標と呼ばれますが、ISOの品質とはモノの品質だけではありません。経営品質と考えても大きな間違いにはならないと考えています。
大企業はさておき、このブログの品質マニュアルなどで想定している20名規模のモノづくりメーカーであれば、会社の品質目標は顧客満足の向上や継続的改善のような文言になりますが、例えば、営業部署の品質目標となれば、より具体的に、現実的には自部署の予算達成を品質目標と考えることもあります。
言葉を替えると、営業予算を達成できるということは、顧客も満足していると考えることができるからです。
つまり、大抵毎月行われている営業会議で、会社の予算達成のために、必然的に営業部署の目標は「営業予算の達成」になりますし、他の部署は営業予算を達成するために何をすればよいのかを考え、目標に設定すればよいことになります。
何のためにというのが会社(社長)のビジョンですし、どのようにが方針になり、目標が全社予算達成であり、例えば各部署の目標は次の様になります。
- 営業は、営業予算の達成
- 技術は、誤りや情報不足のない図面を、適時作成・提供する
- 調達(外注・購買)は、図面通りのモノづくりを納期までに入手する。
- 製造(工場)は、安定した品質、コスト低減
この際、目標に複数の目的(意味合い)を持たせると、KPIはどうしても複雑になります。
この複雑さを嫌い「あえてKPIも置かない」という考え方もあるそうですが、ここでは一般的なKPIを使うことを前提に説明します。
- KPI=Key Performance Indicator=重要業績評価指標
- どの程度目標を達成しているか評価するため指標
- 目標を達成までに設定する中間目標
KPIを難しくする理由の1つに、品質マネジメントで成果を上げる、社長が狙った目的や効果が見えてくるまでには時間がかかるということがあります。「成果が見えにくい期間が短くない」ということです。
例えば、モノづくりメーカーを例にすると、
- 営業からは製品開発が遅い(売れるものがないから、受注が伸びない)とクレームの様に言われている。
- 技術(設計・開発部署)は、既存製品をなんとか製造し販売するのに手一杯で、黙々と目の前の仕事を処理するので精一杯。
このため、営業・技術とも社内的には閉塞感があり、笛吹けど踊らずといった状況になっている。
社内的には、
- 現状を何とか変えたい。
- 世の中の変化、顧客の変化に営業も技術も適応させたい。
という気持ちはある。そこで、
- 製品ライフサイクルを考慮した設計・開発と製造を続けるモノづくりメーカーになるため、品質マネジメントを利用する。
ことを考えてみます。
もちろん、一足飛びにこの様な変化を起こすのは現実的ではなお、階段を登るような段階を経ていく必要があります。例えば、次の3つのステップで進めます。
まずは、短期開発で新製品を出す(量、新製品リリース数重視)
まずは、量、新製品をリリースすることを最優先にします。全くの新製品でなくても構いません。むしろ既存製品の改良などを含め次の様な視点を重視します。
- 目先を変える。新規性というより視点を変えた目新しさ。
- 社内リソースがないので、既存製品流用。社外を利用。
- 商品企画としては、原価率が上がるがこれは受容する。
- 主力商品ほどの利益は狙わない。
- 試作でもいいから形を見せることを最優先にする。
このためのポイントは、
PDCAを早く回し短納期・低予算で新製品を出す!
ことを最優先する、形を速く見せることがポイントです。
理由は、「従来通り」とは違う変化を強いることでもあるため、変化を嫌う力が大きくなる前に「まず結果を出すこと」が重要だからです。
極論になりますが、短納期で製品を出さるのであれば、次の事は許容するというこです。(社内的にどの様に持ち出し扱うかは工夫の余地があります。)
- 損をしなければ新製品開発をやってみる。
- 売れなければ短期間で製造中止とする。
短期開発により主力商品の商品企画、設計・開発の時間を作る。(質、主力商品の基本設計、製造、利益)
既存製品のメンテナンスやサポートで技術が疲弊している場合、
- 製品ラインの整理、統合
に、手を付けられる状態ではありません。
新製品の要求と言う顧客要望と言われる営業からの要求に対し、社内のリソースを極力使わずに新製品を開発することで、技術にも考える時間が生まれます。
技術の中に「自分たちで全部やらなくてもよいのであれば、新製品開発に手をつけることができるかもしれない。」と思う人が出てくればしめたものです。
閉塞感から逃れるきっかけを与え、変化の兆しが見えてきたということです。
ここまで環境ができてこないと、主力商品の基本設計、製造、利益確保を狙った質を求める段階に進めないと考えています。
主力製品の具体的な検討が始めるということは、既存製品を含めた製品ラインナップをどうしていくかについて避けることができません。
例えば、
- 電子部品の製造中止
- ソフトウェアのアップデート
- パソコンやOSのバージョンアップ対応等
についても3年程度の期間でどうなるかはある程度予想できますし、これを前提に既存製品に投入するリソースがどの程度必要で、どこまで実施するかなども考え始めることができます。
私の経験では、ここあたりまで進んでくると、社内の多数が同じ方向を向き動き出すようです。
なお、製品ラインナップの整理・統合においては、
- 既存製品の維持を最優先にしない。
ことが、技術の疲弊を防ぎ、利益を確保するために必須だと考えています。
ほとんどのメーカーにおいて、自社製品及び製造設備などの全てを自社で賄うことはできなくなっていると考えています。
製品ライフサイクルを考慮した商品企画、技術開発、設計・開発、製造
既存製品の整理・統合、主力製品群のリプレイスを進める段階です。
今や業界の垣根さえあいまいになってきますので、この段階にまで進むことは必要なことはご理解いただけると考えています。
そして、本当に難しくなってくるのがこの段階からの製品開発、製品供給です。
正解がありませんので、変わりゆく時代や顧客、外部環境、内部環境に適応して適時KPIを設定・変更して活動を進めていきます。
この様に、新製品の開発ができない状態から、新製品を出すという量をクリアし、次に、主力製品を含めた製品開発の質の問題をクリアし、モノづくりメーカーとして存続するための成果を得るための問題を解決することができると考えています。
量から質へ、質からから成果へと進むに伴い、KPIも当然変えていく必要があります。
会社として成長する段階に合わせてKPIを設定していくことで、成果が出ないと社内で評価され、道半ばにもかかわらず突然中止といったことが減るのではないでしょうか。
Q7.KPIの合格ラインとなる具体的な数字の基準があれば教えてください。
モノづくりメーカーが、KPIとして新製品のリリース数を選んだ場合、粗製濫造(そせいらんぞう)、価格は安いが品質も低い製品を数多くリリースする会社は、経営的にプラスの成果を出していると言えるでしょうか?
むしろお客様に対してマイナスイメージになっているのではないでしょうか?
ちなみに、百均は粗製濫造ではありませんし、絶対に売れると確信を持った商品のみ販売している会社があっても不思議ではありません。
また、会社の目標、KPIは、同業他社と比較できたとしても、ほぼほぼ参考になることはないと考えています。
大事なのは、KPIとして数字の基準を知ることより、自社でやりたいことから逆算して、その会社なりの目標の数字を決めることです。
新製品であれば、次の様な項目が考えられます。この中で、何を優先するかを考えていくと、自ずとKPIは絞り込まれ、KPIの優先順位が見えてきませんか?
- 開発予算
- 開発期間
- 社内開発主体とするか、社外を主体とするか
- 開発する商品の位置づけ
- 主力製品のモデルチェンジ、フルモデルチェンジ
- 市場を探るためのチャレンジ製品
- 製品ラインナップを整理・統合するための製品
- 価格帯
- 何でもできるが高価
- 標準的な価格
- 入門向けにお手頃な価格
数値を決める際には、あまり悩まず(時間をかけず)、仮の数値目標を設定することが有効です。言葉は悪いのですが、始めの内は雑な計算でかまわないのです。
設定した仮の数値目標は、実際に運用しながら数字を上下させて様子をみたり、現実的な数字に変更していきます。
こうすることで、やがて現実的な目標値が見えてきますし、社内的な合意も得やすくなります。
どんなに精緻な計算をしても、机上の空論で得た数値はあくまでも参考値です。
実際の目標では生きている数値が必要になります。まずはざっくりとした数値目標を設定してみて、運用しながら改善していく方法がよいと考えています。
Q8.ISO(品質マネジメント)の成果はいつごろ出ますか?
「品質マネジメントの成果はいつ頃出るのか?」という質問の答えは難しいのですが、次の様に説明するようにしています。
まずは、些細なことでかまわないので、短期(3ヵ月、できれば1ヵ月)で達成できる目標を作って、次のように進めます。
- 短期で成果の出る小さな目標を設定する。
- PDCAは、Doを重視する。
- 目標を達成するために小さなPDCAを速く回す。
こうすることで、小さい目標、身近で具体的な目標を立てて実行することで、PDCAとはどの様なものなのかを体感することができます。
この際、結果は成功でも失敗でも構いません。
成功したら、次の目標を立て、失敗したら失敗しないように原因を考えて再度実行すればよいからです。小さい目標からできるだけ早く結果を見せるとを重視します。
例えば、
- 技術の疲弊、既存製品のメンテナンスで社内開発が現実的に無理な状態が続いている。
- 新製品が出ないので、営業からの「お客様が望んでいる」という、根拠はないが強い声で新製品開発への圧力が高まる。
現実的た対策(計画)としては、
- 社内の開発リソースは使えないので社外開発を選択する。
- 機能は絞り込み今までにない低価格帯の製品とする。
営業からの要求は、次の2つがあります。
- 競合他社と同等の機能で価格は安い製品A
- 今までにない思い切った低価格の製品B
この時は、結果を出す(=製品を出す)ことを最優先するため、新製品Bを短納期で出すことにしました。
そして、新製品Bを出すことで、技術が考える時間を作り出すことにつながり、主力製品の後継機種を開発できるようになりました。
文章にすれば数行ですが、この様にいきなりできたわけではありません。既存製品の洗い出しから製品ラインナップの整理・統合を「製品開発ロードマップ」として作り始め、3年間のロードマップが形になってきた頃に上記の社外開発で機能を絞り込んだ低価格帯製品の新規開発を始めることができました。
「時の運」、タイミングというのはありますが、その運をつかむためには事前に準備をしておかなければなりません。
余談ですが、モノづくりには時間がかかります。上記製品開発でも私の見積では6ヵ月だったのですが、結局1年かかりました。
どんなに準備をしていても、会社全体の製品開発サイクルの様なものがあり、試作品でも実物をお客様に見せる時期がある程度決まっていて、そこに合わせて開発を進めることになったからです。モノづくりは1人ではできないということも改めて学びました。
Q9.問合せ(流入)は増えたものの受注に繋がらず、社内評価が上がりません。どう改善すれば売上に繋がりますか?
例えば新製品の問い合わせが増えたのに受注に繋がらない理由には、2つあります。
- 本当に受注に繋がっていない場合
- 受注に繋がっていることが分からない場合
理由1.本当に受注に繋がっていない
新製品が受注に結びつかない理由には、次の様なことが考えられます。
- 製品を知る人が増えていない。
- PR不足
- 興味を持つお客様が最初から絞り込まれている。
- 特定のお客様向けに企画したのが外れている。
- 入門機なのに、ベテラン向けに紹介をしている。
同じ製品紹介でもお客様は様々です。
お客様が使う計測器として分類すると、これまでは高価な専用機でしか計測できなかったのですが、
- FFTアナライザーで音や振動を測る ⇐ 従来製品
- 機能を絞り込むと単機能の騒音計や振動計 ⇐ 新製品
- 簡易的ならスマホアプリでも ⇐ 簡易的な製品
これを、お客様のニーズとして分類すると、
- 施設内の騒音がどこでどの程度出ているのか調べたい。 ⇐ 音の計測
- ある特定の音がどこから出ているか調べたい。 ⇐ 音源探査
といった様に、同じ製品を紹介するにもかかわらず、お客様にとっての入り口は実に様々です。
予想外、想定外は、ひとまず例外として横に置いておくとしても、製品の使われ方については、社内に限らず自由な発想で、白紙的に考えてみることが有効だと考えています。
ISO9001:2015での組織の知識に関連する、暗黙知、社内では気付いていない強みである場合も珍しくありません。
そてい、1度だけではなく何度でも、必要であれば定期的に意見を交換できる場を作るのもよいと考えています。この場合は、無理なく続けられるやり方に変えていくことがポイントです。
大切なことは、「受注に直結する」お客様、見込み客に直接響く製品紹介をすることです。そうすることで、いつ、どこで、媒体は、内容はなどを決めて製品紹介(営業活動、販促活動)を進めることができ、受注に直結することが見えてくるのではないでしょうか。
お客様のニーズ、製品の使い方を調査・分析していくことで、
「ベテランの営業だから受注できた。」から、
「あるニーズに新製品のこの部分が響いたので注文がきた。」
と分析できるようになるのではないかと考えています。
理由2.受注への影響が把握できていない(成果が出ていることが分からない)
これは、「実際には成果が出ているのですが、それに気づいていない」という場合です。
受注に結びつかない理由には、問い合わせた製品が良くも悪くもお客様の思った通りで、当たり前ですがお客様の都合で予算化や執行が進み、なにがきっかけとなったのが、選定理由など全く分からない場合があります。
この様な場合には、問い合わせ、見積依頼、受注といった主要な結節点で、お客様にヒアリングしてデータを積み重ねていくことが必要です。
ここでは、新製品リリースが受注に繋がっているのですが、次の様な新製品が成果に繋がっている情報を持っていない、あるいは、情報はあるのに気づいていない場合について説明します。
- 新製品のリリースと問い合わせ(引き合い)
- 見積件数
- 受注内容
- 製品を選んだ理由
- 購入した理由
- 受注までの過程
- 上記情報の見方や関連性が分かっていない。
この様な場合には、新製品と受注(成果)との関連性が分からないからといって、成果が出ていないと短絡的に決めつけず、様々な角度から分析する必要があります。
前例がないことをやっているのであればなおのこと、様々な角度、視点から分析し、どのようなデータや指標が必要なのかを考え続けることが大切です。
客観的なデータがない状態では、どれだけ個別の案件を並べても、一例の範囲を超えることはありません。このため、関係者で合意できる内容(推測を含めた新製品と受注との因果関係)に落とし込むことはできないと考えています。
まとめた人の苦労や達成感は、とても大きなものとなり、その人個人にとっては貴重な経験となるのですが。
まとめ
ベイジの枌谷さんの「オウンドメディアに関する27の質問に2万字で回答します」の記事が、ISO(品質マネジメント)とも共通する部分が多い事に驚き、オウンドメディアをISOや品質マネジメントに置き換えてまとめてみました。
ここでは、27の質問のうち「目標・指標」についての4つの質問について以下の項目でまとめました。
- Q6.ISO(品質マネジメント)のKPIはどう設定すればいいですか?
- まずは、短期開発で新製品を出す(量、新製品リリース数重視)
- 短期開発により主力商品の商品企画、設計・開発の時間を作る。(質、主力商品の基本設計、製造、利益確保)
- 製品ライフサイクルを考慮した商品企画、技術開発、設計・開発、製造
- Q7.KPIの合格ラインとなる具体的な数字の基準があれば教えてください。
- Q8.ISO(品質マネジメント)の成果はいつごろ出ますか?
- Q9.問合せ(流入)は増えたものの受注に繋がらず、社内評価が上がりません。どう改善すれば売上に繋がりますか?
- 理由1.本当に受注に繋がっていない
- 理由2.受注への影響が把握できていない(成果が出ていることが分からない)