「JISQ19011マネジメントシステム監査のための指針」は、QMSだけでなく他のマネジメントシステムの監査や複数のマネジメントシステムの監査にも共通する内容となっています。
「JISQ19011マネジメントシステム監査のための指針」の付属書A(参考)をヒントに、QMS(品質マネジメントシステム)の内部監査の改善や活用のヒントとして振り返りました。
- 付属書Aは、組織構造(会社の組織)、リーダーシップ及びコミットメント、仮想監査(リモート内部監査)、順守、サプライチェーンなどの(新しい)概念を監査する手引です。
ここでは、内部監査の事前準備とインタビューについて説明します。
内部監査の事前準備とインタビュー
内部監査リーダーには、限られた時間の中で内部監査対象部署とコミュニケーションをとりながら、インタビューを進め、必要な記録を残すことが求められます。
内部監査で必ず確認することには、
- 前回ISO審査の観察事項のフォローアップ
- 前回内部監査の是正や観察事項のフォローアップ
- 内部監査対象部署の外部・内部の環境の変化、現在の状況、品質目標の進捗状況、教育・訓練の進捗状況など
があり、これらについて、1時間の内部監査であれば、15分程度でインタビューすることになります。
- 最初のインタビューにおいて、内部監査リーダーは、内部監査対象部署長のレベル(力量)に合わせて、必要があれば説明を加え、後で確認することを含めい必要な記録(メモ)を残します。
実務に関しては、業務フローとISO規定類で定められた記録等の確認、文書等の管理状況や現場確認を行います。
内部監査員(リーダー、メンバー)は、これらのことを行いながら、記録等の客観的な証拠を確認し、確認したことが分かる記録を残すことが求められます。
そこで、チェックリストなどの資料を準備すると、確認すべきことの抜け漏れを防ぎ、記録を効率的に残すことができます。
内部監査のために準備する資料には、次のようなものがあります。
- 前回のISO審査結果
- 前回の内部監査報告書とチェックリスト
- 前期の品質目標実施計画の実績
- 今期の品質目標実施計画の実績
- チェックリスト(部署共通、各部署用)
このうちチェックリストは、どの程度まで詳細に作るかという問題があります。
内部監査員のレベル(力量)に合わせて作るのは当然なのですが、次のようなリスクもあります。
- 量(項目数)が多すぎると、チェックリストを読み上げるインタビューになる。
- 量(項目数)が少なすぎると、確認すべきことが理解できず、結果として、必要な確認ができない。
このため、内部監査責任者は、内部監査員の教育・訓練を含めてチェックリストを準備する必要があります。
- チェックリストは、内部監査毎に見直しをします。
また、内部監査において記録を残す方法には、
- チェックリスト等を印刷して、紙に記録(メモ)する方法
- PC等のチェックリストに直接記録していく方法
とがあります。
どちらの方法でもよいと思いますが、私は、誤操作で一瞬にしてデータが消えるPCをつかった直接入力は避け、紙を使います。
- PCでのデータ消失を防ぐには、エクセルよりワードを使うという対応もあります。
内部監査における情報源
内部監査の情報源となるものを以下に列挙します。
内部監査員には、内部監査の目的で定められた範囲内で、情報源について状況に応じ判断することが求められます。
- 現場などでのインタビュー
- 現場作業、周囲の作業環境など(観察)
- 全社の品質方針・品質目標、部署の品質目標・品質計画、作業手順、業務に必要な規格類、作業指示、使用するソフト等のライセンス管理、必要な許認可、仕様書や図面、契約書や受発注に関する記録(伝票や基幹システムのデータ)
- 検査記録、会議の議事録、各種報告書、製造に関する記録など
- データの種類、分析、パフォーマンスに関する指標
- 内部監査対象部署のサンプリングに関する情報(確認数量など)
- 関連する部署や外部からの情報や報告。例えば、顧客からのフィードバック、外部機関による調査結果など
- 使用しているデ-タベース(基幹システム等)やウェブサイト
- シミュレーションやモデリングのデータや結果
内部監査における現場確認の注意点
内部監査で現場確認を行う際は、「現場の作業が内部監査より優先する」ことが原則です。
このため、内部監査前に、現場確認について事前に検討し、現場確認をする内部監査対応部署との事前調整と合意が必要です。
現場訪問の計画
現場訪問を計画する際の考慮事項を列挙します。
- 訪問する現場は、内部監査の範囲内とし、現場への立ち入り許可と方法について事前に調整し合意を得ます。
- 現場訪問をする内部監査員に対し、内部監査責任者は必要な情報(セキュリティ、健康状態、労働安全衛生に関すること、業務時間、現場でのルールなど)を周知・徹底します。
- 現場訪問時に個人用保護具(ヘルメット等)が必要な場合には、内部監査員の分について事前に確認します。
- モバイル機器やカメラによる情報収集(写真、音声、動画などの収録)について、セキュリティ及び機密保持を考慮し、事前に内部監査対象部署と調整し合意します。情報を記録には、場所、設備等の写真やスクリーンショットを含むコピー、作業やインタビューの様子なども含まれます。
- 現場訪問の際には、事前に現場対応者を含む現場の人々に対し、内部監査の目的及び範囲について周知します。
現場訪問時の行動
現場訪問での考慮事項を列挙します。
- 現場の業務を妨げるようなことは避けます。
- 個人用保護具等が必要な現場では、内部監査員も着用します。
- 緊急時の対応(非常口や集合場所)について、内部監査員に周知します。
- 現場確認や内部監査の中断を最小限にするために必要なコミュニケーション(確認や調整)をとります。
- 現場訪問する内部監査員、案内役などの人数は、現場の業務への影響を考慮して決めます。
- 現場訪問時、内部監査員は、事前の許可がない限り、いかなる機器にも触れたり操作もしないことを徹底します。内部監査員にその機器を操作する力量や資格がある場合でも例外ではありません。
- 現場訪問時にインシデントが生じた場合、内部監査リーダーは、内部監査対応部署(長)と共に状況確認とレビューを行い、内部監査の中断、再スケジュール、継続について調整し合意します。内部監査リーダーは、適時内部監査責任者に報告します。
- 記録等のコピーをとる場合には、セキュリティと機密保持について考慮し、必ず事前に許可を得ます。事前に合意していても、実際にコピーをとる際には、再度許可を得ます。
- メモをとる場合、内部監査の目的や監査基準に定められていない限り、個人情報の収集は避けます。
リモート内部監査
リモート内部監査での考慮事項を列挙します。
- リモート内部監査で使用する機材について事前確認、及び、内部監査時に確実に使用できるようにします。
- 文書等のスクリーンショットをとる場合には、セキュリティと機密保持について考慮し、必ず事前に許可を得ます。個人を記録する(写真、音声、動画など)ことは、事前に許可を得ます。
- リモート内部監査時にインシデントが生じた場合、内部監査リーダーは、内部監査対応部署(長)と共に状況確認とレビューを行い、内部監査の中断、再スケジュール、継続について調整し合意します。内部監査リーダーは、適時内部監査責任者に報告します。
- 必要に応じ、リモートで内部監査を行う場所の間取り図等の情報をします。
- 内部監査の休憩時間においても、プライバシーを尊重します。(リモートの画像や音声を切るなど)
- リモート内部監査で得た情報や監査証拠の取扱い、処分について考慮します。特に、不要になった場合の処置について内部監査対象部署と調整し合意します。
リモート内部監査の考慮事項
リモート内部監査を行う際の考慮事項について列挙します。
- 内部監査員が、必要な装置(PCやソフトウェア等)を含め、リモート内部監査が行えることを事前に確認します。
- リモート内部監査では、通信トラブルなどの不測の事態の可能性があります。また、対面よりはコミュニケーション(質疑応答等)の時間を要します。このため、対面の内部監査よりも内部監査時間を長くするよう内部監査計画に反映します。
内部監査員には、次のような知識や力量が必要になります。
- リモート内部監査で使用する機材に関する技術的な知識及び対応ができること
- リモートでの内部監査や会議をする経験
- リモート内部監査の実施場所におけるバックグラウンドのノイズ(雑音など)への対応
- 文書等のスクリーンショットをとる場合には、セキュリティと機密保持について考慮し、必ず事前に許可を得ます。個人を記録する(写真、音声、動画など)ことは、事前に許可を得ます。
- 内部監査の休憩時においては、マイクやカメラを切るなど、機密保持やプライバシーに配慮します。
- セキュリティや機密保持については、基本は「Need to Know」の原則を適用します。
インタビューの実施
インタビューは、内部監査において情報を収集するための重要な手段です。
対面や現場訪問など、その場の状況やインタビューの相手に合わせるようにします。
内部監査員がインタビューで考慮することを列挙します。
- インタビュ-は、内部監査の範囲内で、業務をしている人々の中から適切な役職や役割(作業内容)の人を選びます。
- インタビュ-は、通常の就業時間中に、インタビュー対象者の通常の就業場所(現場)で行います。
- インタビュー開始前に、インタビューを行う理由を説明します。メモを取る場合、その理由(インタビューしたことについてメモをしておかないと記録に残せない。記録に残せないとインタビューしたことが残らないことなど)を説明します。
- インタビューをはじめてからも、インタビュ-対象者が緊張しないよう配慮します。対象者の業務について説明を求める方法もあります。
- メモをとるのであればその理由を説明することが望ましい。
- 質問をする際には、どのような答えを期待しているのかを意識して質問を選びます。質問の種類には、自由質問、選択質問、誘導質問などがあります。
- リモートの場合には、言葉でのコミュニケーションが対面より劣るため、客観的な証拠につながるような質問をするようにします。
- インタビューの結果をまとめて、インタビュー対象者に説明し内容を確認(レビュー)します。
- インタビューへの協力に対して、言葉で謝意(インタビューに協力して頂きありがとうございました。など)を示します。
まとめ
「JISQ19011マネジメントシステム監査のための指針」は、QMSだけでなく他のマネジメントシステムにも共通する内容となっています。
「JISQ19011マネジメントシステム監査のための指針」の付属書A(参考)をヒントに、QMS(品質マネジメントシステム)の内部監査の改善や活用のヒントとして振り返りました。
ここでは、内部監査の事前準備とインタビューについて、以下の項目で説明しました。
- 内部監査の事前準備とインタビュー
- 内部監査における情報源
- 内部監査における現場確認の注意点
- 現場訪問の計画
- 現場訪問時の行動
- リモート内部監査
- リモート内部監査の考慮事項
- インタビューの実施