ISO9000では、特に人が関係しているミスはヒューマンエラーと呼ばれています。モノづくりに限らず、会社の規模や業界に限らずミスは多かれ少なかれあるものです。QCD(品質、コスト、納期)を守るために日々苦労しているケースも多いと思います。
ヒューマンエラーは人によるミスのことです。人はミスをしますので、人によるミスをゼロにすることは難しいものです。
そこで、ミスを減らすためには、「ミスが起きたから今後同じミスをしない。」と考えるのではなく、「ヒューマンエラーによるミスは発生する。」ことを前提として考えることがポイントです。
そして、品質・コスト・納期のバランスを見ながら、ミスの発生率を下げたり、発生したミスに早く気づき速やかに対応できる仕組みを作り上げていくことが重要です。
以下、モノづくりにおいてミスを少なくする取り組みの1つとして、「ダブルチェックやクロスチェックを利用する」について説明します。
ダブルチェックとクロスチェック
何か作業をした時、間違い(ミス)がないかどうか、複数人でチェックする方法には、次の2つがあります。
ダブルチェック | 複数の人で同じことをチェックする方法 |
---|---|
クロスチェック | 複数の人でチェックしますが、チェックする観点が違う方法 |
ミスの種類にもよるのですが、人に原因があるヒューマンエラーの場合、そもそも1人でやっている作業でミスが防げないから、ダブルチェックやクロスチェックをするようになります。
ヒューマンエラーを防ぐには、人に依存する部分を自動化したり、人が関与しないようにするしかないのですが、自動化にはコストがかかりますので、必然的に人のミスを人でチェックするダブルチェックしか手がないということになりがちです。
しかし、人が確認する以上、ミス(ヒューマンエラー)は起こります。
つまり、ヒューマンエラーを少なくすることはできますが、ゼロにはできないということです。
なお、作業者が自らチェックする場合は、セルフチェックといいます。
セルフチェックができていないとダブルチェックもクロスチェックも本来の効果を期待できないものです。セルフチェックにはチェックシートが有効です。
自分用のチェックシートを作るところから始めてはいかがでしょうか?
QC7つ道具、まずはグラフとチェックシートから使ってみることをおすすめします。
ダブルチェックの例
例えば、製品出荷を例に、誰が何をするのか時系列で列挙してみます。
プロセス | 作業内容 |
---|---|
お客様の注文 | 製品Aを1個、12月23日18時までに、現場に届けて欲しい。 |
出荷指示者 | 出荷伝票(製品A、1個、配送日時、配送場所)を作成、出荷担当者に送る。 |
出荷担当者A | 出荷伝票を見て、製品が保管されている場所から、製品Aを1個取り出す。 |
出荷担当者B | 出荷伝票通りの製品、個数を確認する。 |
梱包担当者A | 梱包前に、出荷伝票通りの製品、個数、配送日時・場所(運送会社の伝票)を確認する。 |
梱包担当者B | 出荷伝票通りの製品、個数、配送日時・場所(運送会社の伝票)を確認し、梱包する。 |
梱包担当者B | 出荷品置場に移動する。 |
出荷 | (出荷=運送会社の引き取り) |
配送担当者 | 出荷されたことを確認する(運送会社の伝票の控えを出荷支持者に戻す)。 |
この例では、以下のダブルチェックをしています。
- 出荷する製品の種類、個数をダブルチェック
- 梱包前に、種類、個数、出荷先(出荷伝票)をダブルチェック
作業手順書は作業者が作ると効果的
ヒューマンエラーとダブルチェックを意識させる方法の1つは、チェックリストや作業手順書を作業者自身が作ることです。
作業手順書を自分で作ると何をするかが具体的になり、ミスをした経験があればミスを少なくする対策を考え始めますし、ミスしやすい作業や理由も明確になってきます。
作業手順書を自分で作ることには、次の様なことを自ら考え始める効果があります。
- なぜミスをするのか
- 間違えないためにはどうするか
- ダブルチェックをなぜやるのか
作業手順書を自ら作ることで、理屈や指示ではなく、ミスの原因について考え、現場作業における確認(チェック)の必要性なども理解するようになります。
また、対策を決めたら、それを忘れずに続けられるように、上長などが繰り返し注意喚起をしていくと、ダブルチェックが当たり前のことになり、習慣化させることができます。
これは、
- ミスしない方法を作業者が考え、決めた対策を続けること
につながります。
しかし、ミスした直後はまだしも、時間の経過とともに注意しようとする意識が小さくなっていったり、元のやり方に戻ってしまったりと、なかなか続けられないようです。
ミスの対策(再発防止策)がなぜ続かないのか?
ミスの再発防止策がなぜ続かないのか、上記の出荷の例で考えてみます。
出荷作業は、出荷品ごとに毎日実施します。
出荷品を確認する時間は慣れてくればある程度は短くなります。しかし、次のようなことが起きると出荷ミスが発生します。
- 割り込みの仕事などが入り、(間に合わなくなるからと)ダブルチェックを省略してしまう。
他にも、担当者間のなれ合い(ある意味都合のよい思い込み)により、
- 担当者Aさんは、ダブルチェックは担当者Bさんがするから大丈夫だろうとチェックを省略する。
- 担当者Bさんは、担当者Aさんがチェックしたから大丈夫だろうとチェックを省略する。
といった場合にも出荷ミスが発生します。
つまり、起こるべくしてミスは繰り返されているということです。
クレーム発生時の注意喚起について
出荷ミスなどでクレームとなった場合には、次のような主旨の話をします。
何度でも繰り返される場合には組織的な要因もあったりして対応に困ることも珍しくはないようです。
- 「Aさんだから大丈夫」という考え方は、「Aさんがチェックしたから大丈夫、ダブルチェックしなくてよい」とBさんが個人的に(独自に)判断したことと同じことになります。
- 出荷関連のミスは、ヒューマンエラーが多く、ヒューマンエラーは、完全になくすことができない、ゼロにすることができないものです。だからミスの対策は根気よく続けることが重要です。
- 出荷ミスは、お客様からの(会社としての)信頼を一瞬で失うことにつながります。
さらに、
- 「忙しいから、面倒だから」とか言い訳せずに、例えば急いでいて(時間がなくて)ダブルチェックできないのであれば、「現場で判断せず上長に相談する」とか、「担当者間で作業分担などについて考えてみる」とかしませんか?
と話すこともあります。
ミスが繰り返される現場の共通点
ミスが繰り返される現場に共通しているのは、「ミスを防ぐために自分たちで決めたことさえ、続けていくのが難しいという現実」があることです。
掲示や手順書の作成に加え、毎朝の作業指示の際、リーダーや上司などにより繰り返し注意喚起をすることが必要なのですが、どうも続けることが苦手な場合が多いようです。
ヒューマンエラーを防ぐためには、ダブルチェックやトリプルチェックなどに頼るのではなく、複数人でのチェックをしなくて済む方法(プロセスを見直し、ミスをみつけやすくするなど)に変えていくのが望ましいと考えています。
「現場だけで、ミスを少なくする対策や改善を進めることが難しいという現実」は、受入れるしかありませんが、少しでもミスを少なくしたいといった現場の声があると、何とかしたい、手伝えることはないかなど考え始めることができます。
現場のミスは現場が動くこと、ヒューマンエラーは人が自ら動くことで改善することができると考えています。
まとめ
ISO9000では、特に人が関係しているミスはヒューマンエラーと呼ばれています。モノづくりに限らず、会社の規模や業界に限らず、ミスは多かれ少なかれあるもので、QCD(品質、コスト、納期)を守るために日々苦労しているケースも多いと思います。
ヒューマンエラーは人によるミスであり、人はミスをしますので人によるミスをゼロにすることは難しいものです。
ここでは、モノづくりにおいてミスを少なくする取り組みの1つとして、「ダブルチェックやクロスチェックを利用する」について、以下の項目で説明しました。
- ダブルチェックとクロスチェック
- ダブルチェックの例
- 作業手順書は作業者が作ると効果的
- ミスの対策(再発防止策)がなぜ続かないのか?
- クレーム発生時の注意喚起について
- ミスが繰り返される現場の共通点