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技術系内部監査員の育て方

技術系内部監査員の育て方 内部監査の活用と監査員教育

内部監査員は、品質保証部が主体となっていることが多いかと思いますが、他部署の監査員を育てることも必要です。

内部監査員候補としては、

  • 営業業務フローを知っている人ということで、営業や営業サポート担当者
  • 技術系では、設計・開発業務や技術サポートの担当者
  • 品質保証の担当者(検査員)

が考えられます。

ここでは、技術系の内部監査員の教育・訓練(育て方)について、「営業系内部監査員の育て方」と共通する部分も含め、私の経験を踏まえてご紹介します。監査員教育もモノづくり同様、「習うより、慣れる」がポイントだと考えています。

品質保証の担当者については、また別の機会にまとめてみようと思います。

はかせ
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ISO9001の2015年版になり、品証の担当者は適任者ではないようなイメージを持っています。仕事柄なのでしょうがモノの品質から離れられないことに自分自身で気付いていないようなイメージです。

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ISO19011:マネジメントシステム監査のための指針について

ISO19011の日本語版(JIS Q 19011)が発行されたのでざっと読んでみました。

「JIS Q 19011:2019マネジメントシステム監査のための指針」について

ISO19011で求められている、「望ましい」と書いてあることは、監査員だけでなく実社会においても確かに望ましいことばかりで、まさにあるべき姿なのだと感じました。

あるべき姿と共に、内部監査の責任者としての自分と監査員メンバーの顔、あるべき姿が遠すぎてという現実も目の前に広がります。

監査の原則にしても実際にやるとなると、今の位置から一歩づつ歩んでいくしかないとの思いを再確認しました。

はかせ
はかせ

監査の7原則については、今のところ監査員候補者に説明できるようにしたいと考えてはいますが、なかなか筆が進みません。

内部監査責任者として監査員に繰り返し伝えるようにしていることは、

  • 内部監査において発言するときには、エビデンスのあること(根拠を示せること)を話すこと

ということです。

自分で100%できているかと問われれば、心がけていますとしか言えませんが、日々の業務の中でも頭の片隅に置くようにしています。

監査員としての適性(力量)判断について

監査員教育は、候補者の選定から始まります。まずは、監査員としての適性があるかないかを判断することが、監査責任者としては重要になります。

監査員としての適性(力量)判断には、営業系であれ、技術系であれ大きな違いはありません。

ただし、技術系の中でも、お客様と接する機会の少ない技術者については、特に配慮が必要だと考えています。

はかせ
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技術者として優秀であるがゆえに、営業を含め周りがフォローしているのですが、そのことに本人が全く気付いてないこともあります。

例えば、次のような人には、内部監査員候補者としての教育以前に、内部監査に必要なコミュニケーションが取れるように様々な機会を利用して、教育や訓練をしていく必要があると考えています。

  • お客様や同じ会社の社員でも普段接することのない人の前で過度に緊張してしまう人
  • 技術者、専門家としてはスペシャルなのですが、自分の意見を主張してしまう人

とはいえ、他に候補者がいなければ育てるしかなく、根気よく続けるしかありません。

教育レポートによる判断

ここの内容は営業系も技術系も同じですが、自分の言葉でまとめて期限までに提出できるかどうかを確認します。

私は、監査員教育の初めから、教育後にレポート(所感)を提出するように指示し、この提出状況で適性を判断しています。

所感の内容や教育の理解度を判断するのではなく、指示されたレポートを期限までに提出できるか、できないかを見ています。

期限までにレポートを提出しない場合には、適性がないと判断しています。提出状況は1回だけで判断するのではなく、これから続いていく教育・訓練の中で継続してみています。

レポートを期限までに提出しない監査員候補者は、チェックリスト作成を指示しても期限までに提出できない、監査報告書についても同様に出てこないことが多いようです。

監査責任者としては、期限までに提出できないことが予想される場合には、リスク対策として内部監査報告書をまとめるために必要な情報を得るために、同席する場合は自ら記録を取っておく、あるいは他のメンバーにも記録させるよう指示して、保険(リスク対策)としています。

その他の適性を判断するための情報

技術系の場合は、設計・開発業務の中で、

  • なぜそのような形状に設計したのですか?

などと、理由を問われた際に、考え方を説明する機会が多かれ少なかれあると思います。

「自分の考え」をもって設計・開発をしているかどうかが試される機会でもあります。

ただし、監査員教育を始めて、「自分はこう考えているから」と言って、説明したり指示したことを結果的にやらない候補者の場合には、困ったことになります。

この様な候補者には、実際の内部監査を担当させず、記録を取らせるなどの補助的な役割までしか与えない、任せられないことがほとんどです。

また、会社によりますが、監査させる(質問をさせる)と、

  • 社内で営業が強い会社では営業が
  • 技術が強い会社では技術が
  • 品証が強い会社では品証が

偉そうな態度(上から目線)になってしまう場合もあります。

これについては、監査員自身が自ら直そうとしない限り、残念ながらどうにもなりません。素直さや謙虚さが少しでよいから欲しいなと思うことが多いです。

ISO9001も2015年版になり、特に内部監査ではいわゆるISOの過去の知識や経験が役立つことはほぼないと思います。記録の有無をチェックする、規定との相違を指摘するだけでは、3年もすれば、業務上困っていること、全社的な問題点や課題などを聞き出したり、見つけたりすることは難しいのではないかと考えています。

この様な理由(考え方)で、内部監査員の適性を判断し育てているのですが、その具体的な内容について説明します。

内部監査員としての基礎知識

ここでの目標は、内部監査などでISO9000シリーズ(品質マネジメント)や品質マニュアルに関する質問にある程度答えられるようになることです。

はかせ
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技術系の監査員候補者については、設計・開発とお客様・営業、製造などとどのような関係があるのかを意識させるように配慮しています。

実際に教育する内容は、品質マネジメントの全体像をつかむことで、次の通りです。

組織図と品質マネジメントシステム体系図による各部署の役割

品質マニュアルの組織図と品質マネジメントシステム体系図を使い、会社全体のマネジメントシステム、仕事の流れを、各部署の役割と共に説明します。

監査員候補者が所属する部署だけでなく、会社全体の中での各部署の役割(プロセス)を知ることがポイントです。

品質マネジメントシステムと関連規定との関係

品質マネジメントシステム体系図の各プロセスと関連規定との関係を説明します。

各部署の役割と、それを実行するためのルール(規定)がどの規定に書かれているのか、主要な業務(営業、外注・購買、設計・開発、製造など)と規定との関係を説明します。

自部署の業務フローを知り基本となる軸を作る

自部署の業務が会社全体の中でどのような役割となっているかを説明します。

会社全体の中での自部署の位置づけ、役割を知る

自部署の業務を品質マネジメント(品質マニュアルと規定)の中でどのように書かれているか説明します。

会社全体の流れ、各部署の役割などを理解できたら(この段階では、監査員候補者自身がおおむね理解したような気がする程度で十分です)、次にすることは、自分の部署の仕事の流れ、営業であれば営業管理規定の概要を営業業務フローを使い説明します。

ここでのポイントは、次の内容についてまずは知ることです。

  • 規定に書いてあることと実務との違い
  • 規定は作業手順書ではないので、実務のすべてについて定められているわけではないこと
  • 同じ営業でも同じことをやっているとは限らないこと(顧客、業界によっても違いはある)

規定と実務との違いに気付けば、それは、内部監査員としてどのように判断するのか、ルール通りか、許容される範囲なのか、指摘する必要があるのか等、自分自身で考え判断するきっかけとなります。

監査員としていきなり、

  • 設計・開発全体をどの様に管理、マネジメントしていくか
  • 顧客満足が予算達成なら、設計・開発はどの様にして予算達成に協力するのか。
    • 計画、実行、進捗を確認(振り返り)して、次のアクションへ

といったことへの考え(イメージ)は持てないかもしれませんが、自分自身の担当業務についてより広い範囲から考えたり、分からないことをどの様に質問するのか考えることが大切です。

折角の内部監査です。各部署や会社全体がよくなるように活用したいと私は考えています。

監査員候補者として行うこと

品質マニュアルと関連規定(技術なら設計・開発理規定)と自分が担当している業務について知りました(まずは、知っている、次に分かる)。

次は、内部監査員教育を始めて3ヵ月、半年、1年と仕事をしながら、気づき(疑問に思ったこと)、教わったことを記録することです。

記録する内容は、年月日、誰から、何を、なぜ質問したのか、注意・指導されたこと、何を思い、どんなコトを感じたか、気づいたかなどなど。自分のための記録なので、記録を残し続けることがポイントです。

なぜ疑問に思ったりしたことなどを記録に残すのか?

記録を残す理由の1つは、忘れるから。そして、もう1つは、同じことを繰り返すと慣れてしまい感じなくなるからです。

また、記録は、監査現場で、質問されたり、説明したり、教えることになった際にきっと役立ちます。

さらに、記録を取り続けることにより、監査中に素早く必要な情報を記録に残すスキルの向上につながります。

記録を残すことを設計・開発においても、共通の手順とその会社独自の手順やノウハウがあります。

作業手順書を例に説明すると、その流れは次のようになります。

  1. 箇条書きのメモから、体裁を整えて手順書にまとめる。
  2. 手順書を作ったら、その作業をする人とで共有し改善(修正)していく。
  3. 図表などを加えて分かりやすくする。
手順書のない作業を減らすため、箇条書きメモでもよいので手順書作成を横に広げていくことがポイントです。

内部監査員として1人で監査を実施する

内部監査ガイド」を使い、内部監査で何をするか流れをつかみます。

ここまでくると、監査員候補者のやる気(取り組み姿勢)が表に出てきます。

少々極端な例ですが、ざっくり分けると次のようになります。

  • 指示したことだけやって自ら考えない候補者
  • とまどいながらも自分で考えやってみようとする候補者

初めての内部監査

ここでの目標は、内部監査で監査責任者のフォローを受けながら、既存のチェックリストで監査ができることです。

監査責任者のポイントとしては、まずは記録の有無の確認などを中心に、監査対応ができるか、コミュニケーションが取れるか、自分で進められるかを見極めながらOJTをすることです。

いきなり、監査員としてやることすべてをさせるのは、少々無理があるので、私は次の段階を踏むようにしています。

  • 最初は、監査責任者の隣に座らせて、雰囲気に慣れる。
  • 監査責任者の隣に座らせて、質問内容などをチェックリストなどに記録させる。
  • 2度、3度やって見せて、何度かやってみないかと声をかけ、少しでも本人の意思(チャレンジするかどうかです)があればやらせています。

なお、監査責任者としては、何があってもフォローできるように対象部署などは選びます。

そして、監査終了後、感じたことや反省点をレポート(所感で十分です)にまとめさせています。

初めての内部監査で感じたこと、思ったこと、反省したことなどを忘れないよう記録に残すことが重要です。

次年度の監査はチェックリストの準備から

次年度の監査は、監査の事前準備(チェックリストを含む)からやらせています。チェックリストは、既存のものを利用しています。

自分でやってみないと、チェックリストが役に立っているか、使いやすいかさえ分からない、気づかないものです。

ましてや、チェックリストをどうしたらよいかまで、考えが及ばないものです。

これは監査責任者としての課題でもあるのですが、いつまでたってもチェックリストを最初から読み上げる監査員がいます。

繰り返し(毎年)、時間の使い方などを指導するのですが、変わりません。

はかせ
はかせ

人は変わることができますが、変えることはできないなと。自分の力量?不足と考えています。

このような場合には、次のような指示を事前(内部監査の準備段階)及び直前(内部監査実施前日)に与えるようにしています。

  • 今回の内部監査で確認したいポイントを具体的に説明し、指示する。
  • 最低限集めなければいけないエビデンスを確認する。

内部監査を1人で対応することを意識させる

内部監査員候補者が実際の監査に同席するようになると、自分が知らないことに気づくようです。

監査員候補者が自分ごととして内部監査に取り組むための1つの方法に、

  • 「内部監査に1人で対応すること」を具体的な目標に設定しておくと

があります。

様子を見ながら実際の監査対応に慣れさせる前に、意図せず「1人で内部監査ができるようになること」を伝えていたのですが、これが意外に効果があったようです。

技術系の内部監査員候補者ですが、事前に準備はしていたのですが、営業の内部監査に同席してみると、実際の営業業務については営業や営業事務をしている人に聞かないと分からないことに気づき、次回の監査に向けて教えてもらっていました。

はかせ
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内部監査責任者としては、「話を通す必要があれば言ってね」とは伝えていましたが、結果的に何もせずにすみました。

コミュニケーションが取れる人なら大丈夫な1例かもしれません。

そして次の段階にレベルアップ

ここの内容は、営業系と同様です。
はかせ
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技術系の監査員については、ISO9001の求める内容とうまく取り入れ、自社の設計・開発の簡素化などにも取り組んで欲しいと願っています。

力量のある監査員は、担当部署の監査にあたり、前回報告書、自分の反省点などをどうするか考え、自分が使いやすいチェックリストにするなど、何らかの手を打ってくるものです。

この段階になってくると、次のようなことをどうやって実行するか考え始めます。

  • 今回の内部監査のポイント(内部監査計画に明記している)
  • 必ずエビデンスを確認すること
  • 業務改善(内部監査の目的の1つ)のために、現状を聞き出すこと。この際、監査の流れの中で。品質目標計画や観察事項などを含め幅広く質問すること

をどうやって実行するか(聞き出すか)を考え始めます。

ここまでレベルアップしてくると、会社全体の課題なども本人なりに見えてくるようです。教育担当者としてはうれしい反面、打つ手がない場合も多いため、監査責任者としては悩みも深くなる面もありますが、仲間が増えたようでうれしくもあります。

他に、他部署、技術系なら購買系や製造系の内部監査を経験させるようにしていきたいと考えていますが、中小企業ならではの社内事情や本人の意思確認も必要ですし、こちらは道半ばといったところでしょうか。

監査責任者としての思い:内部監査で継続的改善を実現したい

ここの内容は営業系と同様です。

正直なところ内部監査責任者やISO事務局をやってきて、

  • 監査責任者だからと思い直し、気持ちを切り替え次の監査に向かう。
  • ほとんどできあがった監査報告書を、思い直して書き直す。
  • 外部審査で正論だけで無理だろうと感情的になるのを抑える。

といった嫌な経験もあります。

嫌な経験をしたときに感情的にならずに済んだのは、内部監査に限らず苦労したこと、困っていた時に嫌な顔一つせず助けてくれたこと、現場で頑張っている姿や笑顔が思い浮かんだからだと思います。

モノづくりの現場では、任された仕事はきちんとすることが当たり前に行われ、かつ、必要なのだと思います。

例えば、「今回だけはいいか」と思った時に思い浮かぶのは、お客様や共に働く同僚の笑顔だけではないでしょう。両親、家族、お世話になった知人など、守りたい人、励まされ、助けられてきたことなど、一言で言うなら感謝ということなのかもしれません。

だいぶ脱線しました。

私が内部監査を活用したいと考える理由は、内部監査という仕組みでPDCAを良い方向に回し続けることができると考えているからです。

一人でも多くの社員が、あるべき姿を目指し少しづつでもより良くしていく、今日よりは明日が、1ヶ月、3ヶ月、半年、1年と、まずは小さなことから行動を起こし、続けることが大切だと考え、応援したいと考えています。

この様な取り組み姿勢が全社に定着し習慣となるまでには、内部監査は外部審査(認証取得や顧客からの監査)の為に必要なことであり、認証維持や顧客関係の維持(お客様として)にも必要であることを背景にして、ある程度の強制力を持たせた指摘や助言をすることがあっても良いと考えています。

まとまりがなくなってしまいましたが、次の項でくじけそうになったときに思い出すようにしている言葉を紹介します。

くじけそうになったら:教えるということの本質的なこと

ここで紹介するのは、山本五十六の言葉です。

はかせ
はかせ

何となく技術系は頑固者が多いというイメージがありますが、そんな時にも気晴らしになっています。

内部監査員教育に限らず、何かを教える場合には、この言葉を前提にするようにしています。

やってみせ

言って聞かせて

させてみて

ほめてやらねば

人は動かじ

出典元:山本五十六-ウィキペディア(Wikipedia)

次のような経験を聞いたことはありませんか?

何か指示すると、いちいちその理由を聞いてくる。さらに、できない理由を説明し始める。「いいから、やれ!」が通用しない。

これが続くと負の連鎖が始まります。

  • 面倒になって頼まなくなる
  • いつまでたってもできるようにならない
  • さらに面倒になる

そう言えば、私自身にも思い当たる節が・・・。昔の私みたいのがそこら中にいるということか。確かに面倒になっていく気持ちは分かる気がします。しかし、放置していても何も変わらないばかりか、むしろ時が過ぎると共に、おかれた状況は厳しくなっていくのでしょう・・・。

そして、次の山本五十六の言葉が心に響いてきます。

苦しいこともあるだろう

云い度いこともあるだろう

不満なこともあるだろう

腹の立つこともあるだろう

泣き度いこともあるだろう

これらをじっとこらえてゆくのが 男の修行である

出典元:山本五十六-ウィキペディア(Wikipedia)

まとめ

内部監査員をどのように育てていくかは、会社により様々ですすが、ISO9000シリーズが2015年版となり品質保証部主体ではなく経営寄りの視点を持った内部監査が必要かつ有効だと考えています。

ここでは、中小企業の技術系内部監査員の育て方について、以下の項目で説明しました。

  • 監査員としての適性(力量)判断について
  • 内部監査員としての基礎知識
  • 自部署の業務フローを知り基本となる軸を作る
  • 内部監査員として1人で監査を実施する
  • そして次の段階にレベルアップ
  • 監査責任者としての思い:内部監査で継続的改善を実現したい
  • くじけそうになったら:教えるということの本質的なこと
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