モノづくりや品質管理で避けて通ることができないのがヒューマンエラーです。
不具合の原因が人(ヒューマン)にあるので、ゼロにすることが現実的にはできませんが、だからと言ってヒューマンエラー対策をしなくてよい理由にはなりません。
航空・宇宙のモノづくりですが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の1つに「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。
ここでは、ヒューマンエラー対策の考え方のヒントとして、ヒューマンエラーが発生した背景を含めて考えるm-SHELモデルについて、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」から説明します。
m-SHELモデルとは
下図のm-SHELモデルとは、ヒューマンエラーが生じる要因を表したものです。
図1 m-SHELモデル
出典:JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトのJAXA共通技術文書「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」(p.6)より(変更しています)
m-SHELモデル(Lは2つあります)について、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の「5.2 ヒューマンファクターズの概念」を参考にして説明します。
ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトには、JAXA共通技術文書が公開されています。
JAXA共通技術文書の中から、「2.技術要求・ガイドライン文書」の「1.共通」の1つに文書に、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。
m-SHELモデルの各要素について
L:Liveware(ライブウェア)
- 図1の中央のL、人(本人)
- 例示:
- 身体的状況
- 心理的・精神的状況
- 能力(技能・知識) 等
S:Software(ソフトウェア)
- 例示:
- マニュアル
- 手順書
- 教育・訓練用教材 等
H:Hardware(ハードウェア)
- 例示:
- マン・マシン・インタフェース
- 機械・器具、装置等の設計、配置 等
E:Environment(環境)
- 例示:
- 作業環境(温湿度、照明、騒音等)
- 作業特性(緊急作業等)
- 雰囲気等社会的環境
L:Liveware(ライブウェア)
- 図1の下側のL、周りの人
- 例示:
- コミュニケーション
- リーダーシップ
- チームワーク 等
m:management(管理)
- 例示:
- 組織・管理・体制
- 職場の雰囲気、風土、安全文化の醸成、管理的要素 等
m-SHELモデルのm(管理)の役割
m-SHELモデルでは、各要素の関係は以下の様になっています。
- 中央のL(人、本人)を中心に、S(ソフトウェア)、H(ハードウェア)、E(環境)、L(周囲の人)が囲んでいる。
- m(管理)が、L(人、本人)を中心に、S(ソフトウェア)、H(ハードウェア)、E(環境)及びL(周囲の人)の周りを回っている(マネジメントしている)。
また、m(管理)が他の要素の外側を回っているのは、次の様な意味を持っています。
- マネジメントは全ての基盤であること
- 全体のバランスを考えながら各要素間の関係を最適にする役割
m-SHELモデルのポイント
m-SHELモデルのポイントは、次の2つです。
- 中心に本人(L)を置いていること
- 各要素の周辺が波線で表現されていること
各要素の波線は、次の様な意味があります。
- 各要素の特性や限界を表している。
- 本人(中心のL)と各要素の波線が合っていないことは、本人と各要素とがうまくかみ合っていないことを意味する。
- 結果的に、本人と各要素がうまくかみ合わないと、ヒューマンエラーが発生しやすくなる。
ヒューマンエラー防止の考え方
ヒューマンエラーの発生を防ぐためには、m-SHELモデルの各要素の波線が合わせる(うまくかみ合う)ようにします。
このための2つの方法を紹介します。
本人の力量向上を図る方法(教育・訓練で使いこなす)
ヒューマンエラーを防止するために、人間側から設備や手順書に歩み寄るという方法です。
言葉を換えると、既にあるシステムや手順書を訓練や教育で使いこなす方法です。
従来は、こちらの考え方が主流でした。
本人の力量に合わせる方法
ヒューマンエラーを防止するために、設備や手順書側から本人(作業者)に歩み寄る方法です。
言葉を換えると、人間としての特性を考慮した設備設計、わかりやすい手順書表記などをする方法です。
現在主流となっている考え方であり以下のことを前提としてヒューマンエラー対策を考え禹ことが重要です。
- 設備や手順書に人間のパフォーマンスを十分に発揮させない何らかの問題があると考える。
- 設備や手順書でヒューマンエラーを発生させない工夫が必要であるとの前提に立ち考える。
m-SHELモデルから分かること
m-SHELモデルからヒューマンエラーについて次のことが分かります。
- ヒューマンエラーを引き起こした本人だけが悪いわけではない。
- 本人を取り巻く他の要素に隠れていた何らかの問題が表面化して、ヒューマンエラーを引き起こしたと考えられる。
このため、ヒューマンエラーの対策は、
- ヒューマンエラーを引き起こした本人だけの責任追及には意味がない。
- 本人を取り巻く周囲の状況の不適切さにも目を向ける必要がある。
ことが分かります。
なお、ヒューマンエラー自体がいつも不具合につながるとは限りません。
それどころか、多くのヒューマンエラーは、本人(自分自身)や周りの人が気づいて、リカバリーできることも少なくありません。
リカバリーできない重大な不具合等については、以下の記事をご参照ください。
まとめ
モノづくりや品質管理で避けて通ることができないのがヒューマンエラーです。
不具合の原因が人(ヒューマン)にあるので、ゼロにすることが現実的にはできませんが、だからと言ってヒューマンエラー対策をしなくてよい理由にはなりません。
ここでは、ヒューマンエラー対策の考え方のヒントとして、JAXAの「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」を参考に、ヒューマンエラーが発生した背景を含めて考えるm-SHELモデルについて、以下の項目で説明しました。
- m-SHELモデルとは
- ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
- m-SHELモデルの各要素について
- L:Liveware(ライブウェア)
- S:Software(ソフトウェア)
- H:Hardware(ハードウェア)
- E:Environment(環境)
- L:Liveware(ライブウェア)
- m:management(管理)
- m-SHELモデルのm(管理)の役割
- m-SHELモデルのポイント
- ヒューマンエラー防止の考え方
- 本人の力量向上を図る方法(教育・訓練で使いこなす)
- 本人の力量に合わせる方法
- m-SHELモデルから分かること