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JAXA共通技術文書「品質保証プログラム標準(基本要求 JISQ9100)」

航空宇宙のモノづくり

ISO9100の認証取得目的ではなく、ISO9001のQMS改善のヒントになるかと思い作り始めたISO9100版の品質マニュアルと関連規定が一通り完成しました。

ISO9100版の品質マニュアルと関連規定を、以下のページにまとめています。

そこで、航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」から品質保証プログラム標準を紹介します。

「品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」は解説書もありますので、航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなるのではないでしょうか。

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JAXA共通技術文書とは

JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトには、JAXA共通技術文書が公開されています。

JAXA共通技術文書のページの紹介文が、JAXAのモノづくりの考え方の一端を表していると感じましたので引用します。(見やすくするため改行を追加しています。)

JAXAの開発経験を役立ててください

安全・信頼性推進部では衛星・ロケット・探査機等、様々な宇宙機を開発する際の道しるべとなるよう多くの共通文書を整備しています。

これらは、より効率的な開発を進めるため、より成功確率を高めるため、長い年月をかけて追加や見直しされながら出来上がった、所謂「虎の巻」です。

成り立ちとしてJAXA内部利用が主であったことから、体裁として「~すること」「~しなげればらない」といった表現になっていますが、この中にはベンチャー企業にとっても役立つ情報が必ずあります。

出展:JAXA安全・信頼性推進部 JAXA共通技術文書

以下、JAXA共通技術文書について紹介します。

JAXA共通技術文書の構成

JAXA共通技術文書は、大きくプログラム管理要求文書と技術要求・ガイドライン文書に分かれています。

1 プログラム管理要求文書

2 技術要求・ガイドライン文書

2-1 共通

2-2 ロケット

2-3 宇宙機

2-4 地上設備

例えば、人工衛星を飛ばす場合、地上設備、宇宙まで運ぶロケット、人工衛星、そして、これらをつなぐ様々なソフトウェアやシステムが必要であること、非常に幅広い技術分野にまたがっていることがうかがえます。

品質に関するJAXA共通技術文書

JAXA共通技術文書の文書名に「品質」が含まれる文書は、以下の通りです。

プログラム管理要求文書では、以下の2つ。

  • 「JMR-005 品質保証プログラム標準」
  • 「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」

技術要求・ガイドライン文書は、共通は以下の4つと、

  • 「JERG-0-017 品質保証プログラム標準 解説書」
  • 「JERG-0-050 海外部品品質確保ハンドブック」
  • 「JERG-0-051 海外コンポーネント品質確保ハンドブック」
  • 「JERG-0-059 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)解説書」

地上設備に以下の1つがあります。

  • 「JERG-3-001 地上設備・装置品質プログラム標準」

そこで、「品質」と「基本要求 JIS Q 9100」とある、以下の2つから読むことにしました。

  • 「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」
  • 「JERG-0-059 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)解説書」

「品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」について

「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」のPDFは全33ページ、同解説書のPDFは全139ページあります。

そこで、品質保証プログラム標準を読み進めながら気になる部分について「JERG-0-059 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)解説書」を参照していきました。

以下、ISO9001と違う点、個人的に気になった点を列挙します。

品質保証プログラム標準の目的

品質保証プログラム標準の目的は、

  • 対象は、JAXAが開発、製作するロケット・人口衛星等
  • 品質保証プログラム標準は、JAXAと契約を結んだ方が提出
  • 標準は、基本要求(JIS Q 9100)とJAXA固有要求で構成

であり、

JAXAが品質保証プログラムを求める理由は、次の通りです。

  • JAXAのロケット・人工衛星等のミッション成功には、JAXAの契約相手方が実施する設計、製作、試験に関する品質保証活動が不可欠

テーラーリング

テーラーリングについて「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」から引用します。

1.2.3 テーラリング

(1)機構は、対象とするプロジェクトの目的、機能、重要度、コスト等に応じて、 この標準の機構固有要求事項を契約毎にテーラリングすることがある。

(2) 契約の相手方は契約に係わる協議の過程において、適切なテーラリングの提案を行うことができる。テーラリングの提案は、対象とするプロジェクトの目的、機能、重要度、コスト等に関連する要素を検討の上で行い、機構の了承を得ること。

出典:JAXA「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」の「1.2.3 テーラーリング」より

「JERG-0-059 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)解説書」からテーラーリングの説明」を以下に引用します。

開発、製作するものの目的(実用、実験など)、重要度(フライト用、地上用等)、開発のフェーズ(EM、PM、FM 等)、複雑さ、経済性等によって、この標準の固有要求を全面的に適用すべきものと標準の固有要求を軽減し適用するか、あるいは一部書き直すかして適切な要求に直して適用する方法がある。これをテーラリングという。

出典:JAXA「JERG-0-059 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)解説書」の「1.2.3 テーラーリング」より

正確な表現ではないと思いますが、

  • 品質保証プログラム標準について、対象となるプロジェクトの目的、機能、重要度やコスト等に応じたJAXAの固有要求事項の変更(テーラーリング)を、契約方(受注側)が提案できるし、JAXAは認めることができる。

ということです。

はかせ
はかせ

要は、品質保証プログラム標準は、絶対に変更してはいけないものではなく、プロジェクトの目的、機能、重要度やコスト等に応じて変更(テーラリング)できるということです。

基本要求と固有要求

品質保証プログラム標準には、基本要求と固有要求とがあります。

基本要求とは、JIS Q 9100の認証取得が必要なことです。

固有要求については、次の3点が求められています。

  • 2.2.1項から2.2.9項に示す固有要求を満足すること
  • 要求の実施にあたってはJIS Q 9100に基づく品質マネジメントシステムを効果的かつ効率的に活用すること。
  • 固有要求に対してテーラリングが行われる場合はその内容を優先すること

JIS Q 9100の活用については、QMSで対応できることはQMSで対応することだと考えています。

2.2.1項から2.2.9項の項目を以下に列挙します。

  • 2.2.1 品質保証プログラム
  • 2.2.2 識別管理及びトレーサビリティー
  • 2.2.3 設計・開発
  • 2.2.4 購買管理
  • 2.2.5 製造管理
  • 2.2.6 不具合管理
  • 2.2.7 データの活用
  • 2.2.8 物品の履歴管理及び文書パッケージ
  • 2.2.9 品質記録の保管

以下、「2.2.3 設計・開発」、「2.2.5 製造管理」、「2.2.6 不具合管理」の項目を紹介します。

はかせ
はかせ

品質プログラム標準の全文を読み込んではいませんが、何か特別なことが求められているのではなく、ミッション成功に必要なことを、当たり前に確実に実施するため、プロセスを明確にして要求していると考えています。

2.2.3 設計・開発

品質保証プログラム標準「2.2.3 設計・開発」の項目です。

2.2.3.1 各種審査会における品質保証部門の責務

2.2.3.1.1 設計審査

2.2.3.1.2 認定試験後審査

2.2.3.1.3 出荷前審査

2.2.3.2 既開発物品の使用

2.2.3.3 変更管理

2.2.3.3.1 変更管理システム

2.2.3.4 認定試験

2.2.3.4.1 認定試験を受ける物品の管理

2.2.3.4.2 再認定試験

2.2.3.4.3 類似性に基づく認定

2.2.3.4.4 認定試験等の報告書

2.2.3.4.5 試験前後の確認

2.2.5 製造管理

品質保証プログラム標準「2.2.5 製造管理」の項目です。

2.2.5.1 工程品質評価

2.2.5.2 特殊工程の管理 (※新規に追加)

2.2.5.3 有効寿命を有する物品等の管理

2.2.5.4 清浄度管理

2.2.5.5 静電気放電管理

2.2.5.6 仮組付け品の管理

2.2.5.7 製造工程の確立、維持等

2.2.5.8 検査等の実施

2.2.6 不具合管理

品質保証プログラム標準「2.2.6 不具合管理」の項目です。

  • 品質保証プログラム標準「付録-5 不具合処理の各区分について」に、不具合処理の各区分についての説明があります。
  • 品質保証プログラム標準「付録-6 不具合の背後要因分析について」には、バリエーションツリー分析となぜなぜ分析の説明があります。

2.2.6.1 全般

2.2.6.2 不具合の文書化

2.2.6.3 初審(PR)

2.2.6.4 機構の検査員等による確認

2.2.6.5 再審委員会(MRB)

2.2.6.5.1 委員

2.2.6.5.2 責務

2.2.6.5.3 MRB による処置の決定

2.2.6.6 機構への申請

2.2.6.7 処置実施の確認

2.2.6.8 不具合の是正処置

2.2.6.9 重大な品質問題の再発防止対策

2.2.6.10 供給者のMRB

付録-1 用語の定義

「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」の用語について、「付録-1 用語の定義」から、気になった言葉、

  • 重大な品質問題
  • 重要品質特性
  • 重要加工パラメータ
  • 不具合

の定義を引用します。

重大な品質問題:

①納期延長や運用(打上げや追跡管制)事故・不具合の原因(推定又は確定)に設計・製造・運用プロセスの著しい欠落又は見落としがあった場合。

②「信頼性・品質保証監査」あるいは「システム要素評価」で品質システムに重欠点があった場合。

③ 納入前後に発見されたものでデータねつ造等意図的な行為によって発生した不具合の場合。

重要品質特性:

製品、部品又は材料の特性で、そのばらつきが製品の性能、寿命、ミッション達成などに極めて重大な影響を与えるもので、製品及び半製品の特性。

ベアリングユニットにおける潤滑油の含浸量、エンジン組立における各種バルブの作動タイミングや漏洩量などがある。

重要加工パラメータ:

加工上の制御可能な要因(パラメータ)のうち、製品の重要品質特性に重大な影響を与えるもの。

ろう付時の温度及び加熱時間、アーク溶接時の電流値及び溶接速度などがある。

不具合:

一つ以上の特性が要求と合致しない又は異常な物品の状態。故障、偏差、欠陥、不足及び機能不良を含む。

出典:JAXA「JMR-013 品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」の「付録-1 用語の定義」より

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まとめ

航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」から「品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」について、以下の項目で説明しました。

  • JAXA共通技術文書とは
    • JAXA共通技術文書の構成
    • 品質に関するJAXA共通技術文書
  • 「品質保証プログラム標準(基本要求 JIS Q 9100)」について
    • 品質保証プログラム標準の目的
    • テーラーリング
    • 基本要求と固有要求
    • 2.2.3 設計・開発
    • 2.2.5 製造管理
    • 2.2.6 不具合管理
    • 付録-1 用語の定義
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