就業規則は会社のルールの1つです。法律(労働基準法)では、常時10人以上の従業員がいる場合には、就業規則を作成し、外部(労働基準監督署)に提出しなければなりません。
今ではテレワークも珍しいものではなくなりつつあり、テレワークを考慮した就業規則についてまとめています。
テレワーク就業規則の情報:厚生労働省のテレワークモデル就業規則
この記事は、2021年3月現在、以下のWebサイトの「<参考資料3>テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」を引用しています。
厚生労働省の「テレワークモデル就業規則」が以下のWebサイトに公開されています。
- 「テレワークモデル就業規則」は、在宅勤務を中心の説明となっています。
- サテライトオフィス勤務とモバイル勤務については、必要と思われる規定を併せて例示されています。
テレワークとは何か
まずは、テレワークの定義(言葉の意味)から説明します。
テレワークとは、「テレ(Tele)離れたところで」と、「ワーク(Work)働く」をあわせた造語です。
ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方の1つです。
例えば、インターネットなどのICTを利用することで、本来勤務する場所から離れ、自宅などで仕事をすることができます。
テレワークでの働き方は、在宅勤務とサテライト・オフィス勤務(施設利用型勤務)、モバイル勤務に分けることができます。
在宅勤務
会社(オフィス)に出勤しないで、自宅を就業場所とする勤務形態のことです。
オフィスに出勤したり、顧客訪問や会議参加などによって外出したりすることがなく、1日の業務の全てを自宅の執務環境の中で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用することができます。
実際、通勤がないと始業までの時間を自由に使えますし、終業後もすぐに仕事以外のことを始めることができました。
サテライト・オフィス勤務(施設利用型勤務)
自分が所属する会社のオフィス以外の他のオフィスや、リモート勤務用の施設を就業場所とする働き方です。
例えば、所属するオフィス以外の他のオフィスが従業員の自宅の近くにある場合、そのオフィス内にテレワーク専用の作業スペースを設けることで、職住近接の環境を確保することができ、通勤時間も削減することができます。
また、遊休施設や空き家などを活用して行う遠隔勤務には、組織の活性化や地方創生など、多様な期待が寄せられています。
サテライトオフィスには、オフィススペースの契約形態により次の専用型と共用型に分類することができます。
- 専用型
- 自社・自社グループ専用で利用する。
- 従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中である場合などに立ち寄り仕事ができるオフィススペース。
- 共用型
- 複数の企業がシェアして利用するオフィススペース。
モバイル勤務
移動中(交通機関の車内など)や、カフェなどを就業場所とする働き方です。
営業など頻繁に外出する業務の場合、様々な場所で効率的に業務を行うことにより、生産性向上の効果があります。
モバイル勤務が広がれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなくなるので、無駄な移動時間を削減することができます。
テレワークにより就業規則の変更が必要になる理由
通常勤務とテレワーク勤務において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。
テレワーク勤務に限り発生することの一例
実際にテレワーク勤務をする、次の様なテレワーク勤務に限って発生するようなことがあります。
例えば次のような場合、就業規則の変更が必要となります。
- テレワークでは必須となる通信費用を従業員に負担させる。
テレワークとフレックスタイムの併用
テレワーク勤務にフレックスタイム制を採用したい場合には、既存の就業規則にその規定が定められていなければ、就業規則の変更(フレックスタイムに関する規則の追加)が必要となります。
テレワーク勤務を導入する場合、就業規則に次のルール(規定)を定めます。
- テレワーク勤務を命じることに関する規定
- テレワーク勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定
- 通信費などの負担に関する規定
併せて、次の様なことに注意が必要です。
- 就業規則を変更した場合
- 従業員代表の意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届出する。
- 従業員に周知する。
- 法的に就業規則の作成の義務がない会社の場合でも、以下の様にすることが望ましいとされています。
- 前述のことについて就業規則に準ずるものを作成する。
- 労使協定を結ぶ。
【参考】労働基準法:就業規則の作成及び届出の義務
就業規則に関する労働基準法の関連部分を以下に抜粋します。ここでは、就業規則の作成及び届け出の「義務」と明記されています。
【労働基準法】(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
(第2号~第4号略)
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項(作成の手続)
第90条使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。(法令等の周知義務)第106条使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(略)を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
引用先:労働基準法
テレワークに関する労働基準関係法令について
テレワークを導入する場合、次の様な労働基準法などの法的な要求があります。
テレワーク勤務に関連するの労働基準関係法令などは、次の通りです。
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
テレワークによる労働条件の変更と合意について
テレワークにより労働条件が変わります。
労働条件の変更については、
「労働者と個別合意」が原則
となっています。
また、合意による変更の場合でも、就業規則に定める労働条件よりも下回ることはできません。
なお、就業規則の変更によって労働条件を変更することも可能ですが、その場合には、次のことが必要です。
- 労働者に変更後の就業規則を周知させること
- 就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度などを勘案して合理的であること
【参考】労働契約法:労働契約の内容の変更
(労働契約の内容の変更)
第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則の定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
(就業規則違反の労働契約)
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。
この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
引用先:労働契約法
法律特有の文章表現で、普段法令等に接する機会のない私には、
- 文章の章立てや条文の前に条文のタイトルがある
- 独特の文体でとても文章の意味をつかみにくい
のですが、総務など慣れている人にとってはISOの規定の方が読みにくいという話を聞いたことがあります。
テレワークによる労働条件の明示
テレワークを導入する場合、次の様な労働基準法の法的な要求があります。
労働条件の変更に当たり「労働条件の明示」については、労働基準法の適用があることに注意が必要です。
具体的には、次のようになります。
労働契約を締結している者に対して新たに在宅勤務を行わせることとする場合には、就業の場所として、労働者の自宅を明示した書面を交付します。
【参考】労働基準法:労働条件の明示
労働条件の明示に関する労働契約法の関連部分を以下に抜粋します。
(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用先:労働基準法
就業規則とテレワーク勤務規定との関係(まとめ)
ここまで、テレワークに伴う就業規則についての変更点について説明してきました。
実際に、テレワーク勤務を導入で就業規則の変更が必要となった場合、次の様な進め方があります。
- テレワーク勤務に係る定めを就業規則本体に盛り込む。
- 新たに「テレワーク勤務規程」を作成する。
上記のどちらにするのかは、個々の会社で判断することになりますが、分りやすさを重視すると、
- テレワーク勤務に係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成する。
こと推奨されています。
「就業規則」と「テレワーク規定」の組み合わせは、
- 規定を作る側にとっては管理しやすい。
- 使う方(見る方)からすると2つを見比べながらで分かりにくい
と思います。
使いやすさでは、
- テレワーク勤務については「テレワーク勤務規定」を見ればよい。
と言う方が分かりやすいからだと考えています。
就業規則とテレワーク規定の関係を図示すると下図の様になります。テレワーク規定は、就業規則の一部です。
「就業規則」とは:
労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称
図 就業規則とテレワーク規定の関係
なお、厚生労働省の「テレワークモデル就業規則」は、在宅勤務を中心の説明となっています。サテライトオフィス勤務とモバイル勤務については、必要と思われる規定を併せて例示されています。
まとめ
就業規則は会社のルールの1つです。労働基準法では、常時10人以上の従業員がいる場合には、就業規則を作成し労働基準監督署に提出する必要があります。
今ではテレワークも珍しいものではなくなってきたので、テレワークを考慮した就業規則について以下の項目でまとめました。
- テレワーク就業規則の情報:厚生労働省のテレワークモデル就業規則
- テレワークとは何か
- 在宅勤務
- サテライト・オフィス勤務(施設利用型勤務)
- モバイル勤務
- テレワークにより就業規則の変更が必要になる理由
- テレワーク勤務に限り発生することの一例
- テレワークとフレックスタイムの併用
- 【参考】労働基準法:就業規則の作成及び届出の義務
- テレワークに関する労働基準関係法令について
- テレワークによる労働条件の変更と合意について
- 【参考】労働契約法:労働契約の内容の変更
- テレワークによる労働条件の明示
- 【参考】労働基準法:労働条件の明示
- 就業規則とテレワーク勤務規定との関係(まとめ)