内部監査責任者として監査員を育て始めてみると、プレゼンやスピーチの様に人前で話をしなければならないときのメモのような心の支えの様なものが必要だろうと考え、「内部監査ガイド」としてまとめ始めました。
「内部監査ガイド」は、初めて内部監査を担当する監査員が、内部監査とはどの様なものなのか、準備することや実際に何をするかの参考や現場での心の支えになれば幸いです。
なお、実際の内部監査員教育では、組織図、品質マネジメントシステム体系図、及び、内部監査規定を併用し、監査員自身が関係する業務をイメージできるように配慮しています。
このページは、このブログで公開している「内部監査ガイド」を1つにまとめたものです。また、内部監査に関連する記事をまとめてKindle本にまとめています。
- はじめに:内部監査員教育の流れ
- 1. 監査の目的と重要ポイント
- 1.1 監査の定義
- 1.2 内部監査の目的
- 1.3 内部監査の重要ポイント(内部監査の基本)
- 2. 内部監査のプロセスと計画
- 2.1 内部監査のプロセス
- 2.2 内部監査の計画
- 3. 内部監査の準備
- 3.1 内部監査員が準備すること
- 3.2 内部監査実施の通知と進捗管理
- 4. 内部監査の実施
- 4.1 監査前会議(初回会議、オープンミーティング)
- 4.2 内部監査で実施すること
- 4.3 監査後会議
- 5. 監査結果の評価と不適合の記述
- 5.1 内部監査の基準
- 5.2 内部監査結果の報告
- 5.3 不適合の記述
- 5.4 参考:内部監査責任者として悩むこと
- 6. 是正処置の報告とフォローアップ
- 6.1 是正処置内容の報告
- 6.2 是正処置の実施
- 6.3 是正処置のフォローアップ
- 6.4 是正処置の最終確認
- まとめ
はじめに:内部監査員教育の流れ
教育の流れは、次の通りです。
- 内部監査ハンドブック(これから説明する内部監査ガイドと同様の内容)を使い内部監査員に必要な基礎について説明する。
- 実際の内部監査に同席させ、チェックリストを埋めてみる。
- チェックリスト作成、監査の実施、是正処置、報告書作成まで体験させる。この際、監査責任者として全面的にバックアップするからまずはやってみてと、体験させることを重視しています。
ここまでやって、ようやく内部監査員としてスタート地点に立てたと判断しています。後は、内部監査員として自ら気づいた点を改善させるようにしています。
実際の内部監査を1部署1~2時間程度で終わらせているためでしょうか、監査員研修を受ければ内部監査ができると思っている方が少なくありません。中には研修を受けて即できる人もいるでしょうが、ISO9000の知識と業務内容に加えコミュニケーションも取れないと監査が成立しないため、事はそう簡単ではないのですが・・・。なかなか理解して頂けない悩みの一つです。
1. 監査の目的と重要ポイント
ここでは、監査の定義、内部監査の目的、及び、内部監査の重要ポイントについて説明します。
1.1 監査の定義
「監査」とは、「監査基準」が満たされているかどうかを確認することです。 「監査基準」を満たしていることを確認するために、「監査証拠」を収集します(集めます)。
- 【監査基準】
- 品質マニュアル、各種規定、手順書、規格要求事項、法的要求文書、顧客の契約文書(基本契約書)など
- 【監査証拠】
- 観察内容、ヒアリング内容、記録等
客観的証拠(objective evidence)
あるものの存在又は真実を裏付けるデータ(3.8.1)。
注記1
客観的証拠は、観察、測定(3.11.4)、試験(3.11.8)、又はその他の手段によって得ることができる。
注記2
監査(3.13.1)のための客観的証拠は、一般に、監査基準(3.13.7)に関連し、かつ、検証できる、記録(3.8.10)、事実の記述又はその他の情報(3.8.2)から成る。
「JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」より
1.2 内部監査の目的
内部監査の結果は、マネジメントレビューのインプット情報の1つで、マネジメントシステムの維持・改善のために活用します。
以下は、「内部監査規定」の記載例です(ほぼ要求事項通りです)。
品質マネジメントシステムについて以下の事項が満たされているか否かを明確にするため、管理責任者は内部監査規定に従い内部監査を実施する。
- 品質マネジメントシステムが、品質マニュアル(要求事項)に適合しているか。
- 品質マネジメントシステムがJIS Q 9001に適合している(適切に運用されている)か。
- 品質マネジメントシステムが有効に実施され維持されているか。
- 【参考】内部監査とは
- 品質マニュアル(4.1項)で決定した「品質マネジメントシステムの意図した成果」を達成するために、品質マネジメントシステムの「適合性」と「有効性」を自ら評価する重要な活動
1.3 内部監査の重要ポイント(内部監査の基本)
内部監査の基本
内部監査の基本を以下に列挙します。
- 独立性を保つために監査員自身の仕事は監査しない(できない)。客観性、公平性を保つため、自分の部署の内部監査をしてはいけないということです。
- できるだけ具体的な事柄を捉えるようにします。
- 先入観(思い込み)を持たず、客観的事実を確認します。
- 監査員の意見・推測は排除します。監査員個人の意見や推測を入れないということです。
- 監査で確認したことをありのまま記録する。監査員個人の知識や判断を入れずに、見たことは見たまま、できるだけそのまま記録します。
- 規格要求・マニュアル(規定、手順書など)のどの部分に合致していないか見極めます。例えば、マニュアルのどの部分に書かれている内容が、確認した事実と違っているかを明確にします。
- 通常の業務と離れた立場で、上下関係や利害関係を排除し(上下関係や利害関係を考慮することなく)、監査を行います。
内部監査での着眼(チェックポイント)
以下の①、②については第三者監査でも行いますが、③を行うのが内部監査の特徴です。
例えば、②のマニュアル通りに行われているかの確認に加え、特に協力会社を含めた外注・購買フロー、技術(設計・開発)を含めたフローについて、問題点や改善すべき点を見つけ出すようにします。単に「良い」、「悪い」だけでなく、「ルールは本当に役立つものか」、「ほかに方法はないか」とマニュアルそのものを審査するようにします。
「どこに問題があるのか」、「誰に責任があるのか」、「その問題点を解決するには何をすればよいのか」という具体的な答えまで引き出せると、内部監査の効果がより発揮されます。
ただし、実際の内部監査では時間が限られていますので、全体の時間配分の中でどこまで確認するかを考えて進める必要があります。チェックリストは、抜けや漏れを防ぐだけでなく、全体のバランスを把握するためにも使えます。
①ISOの規格要求事項に適合しているか?
- マニュアルがISOの要求事項に沿ってつくられているかをチェックします。
- ISO要求事項およびマニュアルどおり運用されているか、「適合性」を確認します。
- ISO19011に基づき、審査員と同じ視点で内部監査を行うため、要求事項が大幅に変わった場合などに行う「模擬監査」的な監査です。
②組織のマニュアルが運用されているか?
- マニュアルどおりに行われているかをチェックします。
- ISO要求事項およびマニュアルどおり運用されているか、「適合性」を確認します。
- ISO19011に基づき、審査員と同じ視点で内部監査を行います。内部監査では、品質マニュアルよりも、営業業務規定や設計・開発規定などの規定(ルール)についての確認が多くを占めます。
③マネジメントシステムは効果的に実施され、維持されているか?
- 「マニュアルは使いやすいものになっているか」、「きちんと成果が出るものになっているか」をチェックします。
- マネジメントシステムは効果があるか、「有効性」を確認します。
- 現場で困っていることを吸い上げる、全社的な最適化や業務改善につながることを見つけるなど、ここが内部監査の大切なポイントだと考えています。
2. 内部監査のプロセスと計画
2.1 内部監査のプロセス
内部監査のプロセスについて説明します。
内部監査計画作成
- チェックリストを準備します。
- 内部監査計画を通知します。内部監査スケジュールは、あまり早くても変更が多くなりがちですが、遅くとも1か月前には案内するようにしています。
内部監査実施
- チェックリストによる確認
- 慣れてきてもなかなか難しく、記録を残さないと報告書をまとめる時に困ることになります。
- エビデンス(客観的証拠)の収集
- 不適合内容の確認と指摘。「不適合あり」の場合、是正処置に進みます。
- 「不適合なし」の場合
- 実施した内部監査の結果を報告します。
- 内部監査報告書を作成し、監査責任者、管理責任者の承認を得ます。
- 内部監査報告書を送付します。
是正処置
- 是正処置報告書発行(内部監査時)
- 不適合内容を具体的に記載します。
- 是正処置検討
- 不適合の除去
- 不適合原因の特定
- 是正処置の決定
- 是正処置の実施
- フォローアップ
- 是正処置の実施状況などを確認します。ここでもエビデンスが必要になります。
- 最終確認
- 是正処置が有効か確認・評価します。ここでもエビデンスが必要になります。
内部監査報告書の作成
- 各部署の内部監査結果をまとめます。
- 社長への報告(マネジメントレビューのインプット)のため、全社の内部監査結果をまとめた報告書(総括)を作成します。
2.2 内部監査の計画
内部監査計画に含める内容を列挙します。
①監査目的
例えば、次の様なイメージになります。
品質マネジメントシステム(品質マニュアル)の運用状況について振り返り、今後の活動に資するため以下について確認する。
・外部審査指摘・観察事項、前回内部監査指摘事項に関する運用状況とその有効性
・各部署長の定めた品質目標についてのパフォーマンス(品質目標の進捗管理等)
②監査項目と対象部署
各部署が関係する品質マニュアルの項目の一覧表で明確にしています。
③監査スケジュール
④内部監査チームの編成
内部監査計画作成時の考慮事項
管理責任者は、内部監査を計画する際、以下について考慮します。
- 監査目的を明確にする。
- 各部署の業務プロセス
- 複数の監査員で監査する場合には、監査責任者を指名します。
内部監査チーム編成にあたっての注意点
- 内部監査員は、内部監査員の資格者であり、内部監査の客観性及び公平性を確保するため、被監査部署以外の者とします。
- 内部監査員は原則複数(2名以上)とします。
- 監査責任者は内部監査を取りまとめます。
監査計画の通知
被監査部署に、監査日時、場所、監査員等を連絡します。
3. 内部監査の準備
3.1 内部監査員が準備すること
被監査部署の仕事内容・業務フローを知ること
監査対象部署の会社全体での流れと仕事内容が分かっていないと的確な質問はできません。
とは正論ではあるのですが、すべてを知っているわけもなく、分からない・知らない場合には、素直に聞く・教えを乞うという姿勢(気持ち)が大切です。担当者に、「あなたの仕事は何ですか?」、「今、何の作業をしているのですか?」と聞いてみると、気付かされることが多いです。
事前に各業務の規程で業務フローを確認しておくと、内部監査で何を確認していくかといったストーリー、流れを作りやすくなります。質問される方も、業務フローの流れで聞かれると答えやすいものです。
マンネリ化を防ぐためにも、次のような自問、振り返りは有効です。
- 質問することが目的になっていないか?
- 何のための内部監査か?
- 監査目的は?
監査基準を知ること
マニュアルや規定・手順書等を事前に読み返します。
監査員としての回答、返答には、根拠、裏付けが必要です。監査を受ける側からすれば、監査員(あなた)の考えや思いは聞いていないし、関係ないことだからです。
質問リスト、チェックリストを見直す
質問リストやチェックリストは、漏れなく効率的に内部監査を進める、確認することの抜け漏れを防ぐためにも有効です。
なのですが、チェックリストに頼り過ぎないこともポイントです。監査員はもちろんのこと、監査責任者や管理責任者は、チェックリストを埋めればよい、形式的な内部監査になっていないか注意します。
また、当日使ったチェックリストは、内部監査のエビデンス(客観的証拠、記録)にもなります。確認した文書や記録については、後日確認できるように、文書番号、文書名、発行日などをメモします。
過去の内部監査結果を確認する
少なくとも前回の内部監査結果について、報告書やチェックリストなどを確認します。主な確認項目を列挙します。
- 不適合、観察事項のフォローアップなど
- 他部署を含む再発や類似の指摘など
主要業務の責任と権限の一例
内部監査を実施するにあたり、品質マニュアルの要求事項と主管部署について「品質マニュアル 8.運用」の例を紹介します。
●:主管部署 ○:関連部署
項目/部署 | 品証 | 技術 | 営業 | 製造 |
---|---|---|---|---|
8.1 運用の計画及び管理 | ○ | ● | ● | ● |
8.2 製品及びサービスに関する要求事項 | ○ | ○ | ● | ○ |
8.3 製品及びサービスの設計・開発 | ○ | ● | ○ | |
8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理 | ● | |||
8.5 製造及びサービス提供 | ● | |||
8.6 製品及びサービスのリリース | ● | ○ | ||
8.7 不適合なアウトプットの管理 | ● | ○ | ○ | ● |
3.2 内部監査実施の通知と進捗管理
管理責任者(監査責任者)は、原則として内部監査実施日の7日前までに被監査部署長に通知します。
監査責任者は、内部監査の進捗を管理し、管理責任者に報告します。
4. 内部監査の実施
4.1 監査前会議(初回会議、オープンミーティング)
監査前会議とは、初回会議、オープンミーティングとも呼ばれる、監査開始前に行う会議のことです。
内容(議題)は、内部監査チームのメンバー紹介や監査の進め方、実施方法についてであり、合わせてスムーズで実りある監査にするための協力を依頼します。
内部監査では、会議の形はとらない場合もありますが、以下の内容についての説明はします。
監査チーム、被監査部署のメンバー紹介
内部監査前、「監査」という言葉に緊張を覚える方もいるので、威圧的、高圧的にならないように注意します。
サーベイランス等の外部審査での審査チームリーダーの挨拶は参考になると思います。サンプリングなどの監査の説明は形式的ですが説明しなければならないことなのですが、2回目以降は聞き流している人が多いかと思います。
監査リーダーの「はかせ」です
監査員の「○○」です。
本日はよろしくお願いします。
監査の目的と対象範囲の確認
監査の目的と対象範囲について確認し、合意を得ます。
形式的と思うこともありますが、監査の前提なので重要です。
ISO9001のルールに基づき営業部の活動が適正に行われているかについて監査します。
監査基準、監査スケジュールの確認
監査基準、判断の基準について説明し、合意を得ます。
合わせて監査スケジュールを確認し、合意を得ます。監査の終了時間は厳守です。
品質マニュアル(最新版)及び規定などを監査基準として監査を行い、16時終了予定で進めます。
監査実施方法の説明
監査の実施方法を説明します。
監査はチェックリストを使用するほか、サンプリングで確認させて頂きます。
サンプリングと言うことは、不適合があるから業務全体が不適合というわけではない、不適合がないからといって業務のすべてが適合しているということでもないといった主旨の説明になるかと思います。
監査後会議(報告)の時間、報告書提出日等の連絡
内部監査では、会議の形をとらない場合もあります。監査終了時間、報告書等提出について説明します。
監査後会議は、本日の○○時に、この場所で行います。また、監査報告書は、2週間後に提出予定です。
会議の形式をとらない場合には、こんな感じです。
監査終了後、監査結果について報告します。報告書は、2週間以内に提出します。
協力の依頼
内部監査は相手の協力があってこそ成立します。形式的な監査や、被監査部署にとっても今後の改善に役立つような内容にするためにも、コミュニケーションは重要です。
監査時はできるだけ業務を妨げないように行いますのでご協力をよろしくお願いします。
内部監査とは言え、業務最優先と考えています。
4.2 内部監査で実施すること
品質マニュアル等による確認
内部監査員は、被監査部署の品質マネジメントシステムに関連する業務について、品質マニュアル通りに行われているかを確認します。
品質マネジメントシステムの各プロセス確認時の着眼点を列挙します。
- 被監査部署の業務だけでなく、それに関連する業務を含むプロセス
- 単に「良い」、「悪い」だけではなく、「ルールが役立っているか」、「他に方法はないか」など、品質マニュアルや規定等そのものを審査する視点
- 「どこに問題があるのか」、「誰に責任があるのか」、「その問題点を解決するには何をすればよいのか」など、具体的な答えを引き出そうとする視点
チェックリストによる確認
内部監査員は、内部監査計画に示された監査目的及びチェックリストを参考にしながら、以下の点に注意して内部監査を実施します。
- 監査報告書作成に必要なエビデンス(確認した文書や記録)の収集
- 文書名、文書番号、発行日等を記録すること
- 確認した文書や記録の識別に必要な部分のコピーなど
監査経験の浅い監査員の場合、確認したエビデンスを特定する「文書名」「文書番号」「発行日」をメモに残していないことがあります。個人差はありますが、監査員教育においては、チェックリストを実際に作らせてみて内容を確認することが有効です。
内部監査報告書にチェックリストを添付しておくと、フォローアップだけでなく、前回取り組んでいたことの進捗確認や変化などに気づきやすくなります。
不適合及び是正処置についての対応
内部監査において不適合がある場合、監査責任者は、不適合の内容について監査員、被監査部署立会者に確認し同意を得ます。
監査責任者は、確認した不適合について「是正処置要求・報告書」を作成し、被監査部署責任者に送付し是正を求めます。
内部監査の実施方法(面談、記録、事実確認)
【面談】
内部監査の面談には、観察、質問、検証があります。
- 観察する:
- よく観察し、客観的に判断できる証拠を得るようにします。
- 質問する(チェックリスト利用):
- チェックリストに基づき質問し、必要な情報を確実に得るようにします。
- 検証する(裏付資料の提示を求める):
- 回答内容について文書・記録等で確認します。
【記録】
- 監査記録(メモ)をとります。
- 結果を記録します。
【事実を確認する(不適合の確認をとる)】
- 不適合に対してその場で被監査者の確認を得ます。
監査員が面談で行ってはいけないこと
監査員は、自分が被監査者の立場になり、以下についてイメージし考えておくことがポイントです。まずは、自分が失敗しやすいことを認識することがポイントです。
- しゃべり過ぎないこと
- 監査員が話している間は、被監査者からの情報は入ってきません。
- 論争しないこと
- 議論しにきたのではなく、内部監査に来たことを忘れないこと。
- 知ったかぶりをしないこと
- 自分は有能であると慢心しない。
- かえって相手に知識の程度を知られ軽視されがちです。
- 時間に遅れないこと
- 遅刻は、相手に不快感を与えます。
- 相手を上司の面前で批判しないこと
- 同様に、部下の面前で上司を批判しないこと
- そもそも批判はしないこと
- 他部署の問題を引合いに出さないこと
- 逆に相手は自分(自部署)の問題点を他所で言われていると思い、口を閉ざしてしまいます。
- 監査員が行っている方法を引合いに出さないこと
- 自慢に聞こえ、相手に反発感を与えてしまいます。
- そもそもコンサル的なこと、提案はしないのが原則です。
- 社内規定に適合していれば、その活動を批判しないこと
- 被監査者の問題ではないので。
- 面談中に監査チームメンバー同士の意見の不一致を見せないこと
- 監査チームの信頼感がなくなります。
質問の仕方:Yes/Noと自由回答
質問の仕方を紹介します。ポイントは、より多くの情報を得るため、いかにして多くを話してもらえるかになります。
①Yes/Noの答えを求める質問
作業手順書はありますか?
②自由に答えてもらう質問
作業はどのような方法で実施していますか?
基本は「②自由に答えてもらう質問」です。
①のYes/Noの答えを求める質問を行う場合には、発展させていきます。
例1
作業手順はありますか?
(Yes/Noの答えを求める質問)
はい、あります。
それでは、作業手順書を見せてください
例2
作業手順はありますか?
(Yes/Noの答えを求める質問)
いいえ、ありません。
なぜ、手順書がなくても大丈夫なのか教えてください。
例3 見せて欲しい、教えて欲しいと質問する場合
- よく分からないから教えて欲しいと頼む謙虚な姿勢が望ましい。より多くの客観的な証拠(記録)を得られることがあります。
- 監査員は、被監査者よりもよく知っているのだという態度を示してはいけません。監査員が知っているのなら話す必要はないと考え、必要な最低限の情報さえ得られない結果となりがちです。
例4 同じ質問を異なる人にする
- 他の人と異なる回答があった場合は、調査をする必要があります。
例5 管理者と担当者を分けて質問する
- 担当者は管理者の目を気にして、実態を話したがらない傾向があります。
サンプリングによる質問
「購入先評価一覧表」を母集団とする場合
「購入先評価一覧表」を見せて頂けますか?
この「購入先評価一覧表」に記載されている購入先のうち、B社の評価資料(記録)を見せてください。
「外注への発注伝票」を母集団とする場合
A製品に関する昨年12月の外注への発注伝票を見せて頂けますか?
それでは、この発注伝票ファイルにある、C社の評価記録を見せてください。
悪い質問の例
仕入先業者の評価記録を見せてください。
はい、分かりました。
これが評価記録です。
この質問の仕方が悪い例である理由
- 担当者は、これまでに評価した仕入れ先の評価記録を提示するが、評価選定していない仕入れ先の記録は無いので提示しないで済んでしまいます。
- つまり、監査員は、発注しているにもかかわらず評価選定していない仕入れ先を検出することができない結果となるからです。
現場監査:実施状況の確認例
現場に行って担当者に仕事の内容を聞く
あなたの仕事は何ですか?
業務手順が決められているかを聞きます。
手順書等があればそれを確認します。
それはどのような手順で行うのですか?
担当者に質問している業務を見せてくれるように依頼します。
担当者の実作業を見て(観察して)、手順通り行われているかを確認します。
手順通りにやってみせてください 。
この際、記録があるか確認します。
作業記録を見せてください。
現場監査:識別状況の確認
例1 製品の識別
全過程で、製品が規定通りの識別がされているかを確認します。
例2 製品の状態の識別
全過程で、適合品・不適合品が規定通り識別されているかを確認します。
例3 不適合品の管理状態
不適合製品の識別が、ルール通りに行われているかを確認します。
現場監査:製造設備のメンテナンス
現場で製造設備のメンテナンス状態を見て(観察して)、定められた周期で点検が実施されているかを確認します。
また、メンテナンス方法や、異常時の対応などについて確認します。
4.3 監査後会議
監査後会議(最終会議、クロージングミーティング)とは、文字通り監査後の会議です。内部監査では会議の形をとらないこともあります。
監査後会議のポイントは、監査結果に対して被監査部署の合意を得ることです。合わせて、監査中の協力に感謝の気持ちを述べることを忘れないでください。
監査中の協力に対するお礼
監査に協力するのが当たり前との姿勢は誤りです。仮に非協力的であったと感じたとしても、監査が成立したことに感謝の意を表すことは当たり前だと思います。
お忙しいにもかかわらず、内部監査に積極的にご協力頂きましてありがとうございました。
監査結果の報告
監査結果について説明し、合意を得ます。特に不適合については、忘れずに合意を得ます。
監査の結果について、簡単にご説明します。不適合はありませんでした。観察事項については、・・・。
以上、説明させて頂いた内容についてご了承頂けますか?
是正処置の取扱い
是正処置要求は具体的に指摘・説明し、被監査部署の同意を得ることが重要です。
つきましては、不適合事項について是正をお願いします。いつまでに是正処置を完了頂けますか?
内部監査報告書の提出時期
内部監査結果の報告内容に同意を得た後、報告書提出時期を明示します。
ありがとうございます。それでは、内部監査報告書は、2週間後に提出します。
是正処置については、内部監査終了後速やかに着手します。
監査の制限の明示
今回の監査は、サンプリング方式で行いました。全体を観察したわけではありませんので、他にも不適合が存在する可能性があることもご承知ください。
監査の結論と締め
内部監査終了です。しっかり締めます。
皆様の積極的なご協力により、監査を滞りなく行うことができました。今後も引き続き改善に努めて頂きたいと思います。
以上で、内部監査を終了とさせて頂きます。ありがとうございました。
5. 監査結果の評価と不適合の記述
5.1 内部監査の基準
内部監査の基準の例を紹介します。
監査所見として、以下の判断基準を設けます。
適合
以下について満たしている場合には、適合として扱います。
- 【要求事項への適合】
- 品質マネジメントシステムがJIS Q 9001に適合している。
- 【適切な運用】
- 品質マネジメントシステムが、品質マニュアル通りに運用されている。
- 【有効性】
- 品質マネジメントシステムが有効である。
適合しているとは、
現在運用されている品質マネジメントシステムについて、
- 各プロセス(工程、業務)の手順が定められ、
- 各プロセスの相互関係が明確であり、
- ルール(品質マニュアル)通りプロセスを実施したことにより、
- 計画した結果(パフォーマンス)を達成している。
ことになります。
不適合
適合の基準を満たしていない場合には、不適合として扱います。
不適合は以下の区分とし、不適合に対しては是正処置を求めます。
- 【重大な不適合】
- 品質マネジメントシステムに必要なプロセスが欠落している。
- 各プロセスの相互関係が明確になっていない。
- 同じような不適合が度々起きているのに放置されている。
- 手順に全く従っていない。
- 【軽微な不適合】
- 手順と実施内容の一部に相違がある。
- ヒューマンエラー(個人の間違い、忘れ)など
観察事項
観察事項とは、そのまま放置しておくと、将来不適合となる恐れがあるような事象をいいます。
このような事象を発見した場合には、観察事項として内部監査報告書に記録し、次回監査の時に確認します。
5.2 内部監査結果の報告
監査責任者は内部監査の結果を、管理責任者と被監査部署に報告します。
内部監査報告書に含める内容は以下の通りです。
- 監査目的
- 監査対象部署
- 監査日時
- 監査対応者
- 監査員
- 監査結果
- 重大な不適合
- 軽微な不適合
- 観察事項
- フォローアップ(是正処置、観察事項)
- その他(必要に応じコメントなど)
監査責任者は、不適合があれば被監査部署責任者に是正処置を促し、「是正処置要求/報告」を回答期限内に提出するようフォローします。必要に応じ、管理責任者の指示を仰ぎます。
5.3 不適合の記述
不適合を指摘する場合のポイント
不適合を指摘する場合のポイントは次の通りです。
- 事実関係を的確に述べ、監査員の意見・推測は述べないこと
- 監査基準(不適合の根拠)を明確にすること
- 監査基準と事実との差(違い)を明確にすること
是正処置報告書には、不適合の3要件として次の事項を記載します。
- 【要求事項】
- 監査基準の該当する要求事項
- 【不適合の状態】
- 不適合が発生している状態
- 【監査証拠】
- 不適合を裏付ける証拠
この際、記録や業務の実施状況と、手順、手順書との差(違い)が明確になるよう具体的に記述します。
- 【良い例】
- QC工程図では、最終検査で限度見本を使用することになっているが、製品Aの最終検査において検査員D氏が限度見本を使用していなかった。
- 【悪い例】
- 最終検査で検査者が限度見本を使用していなかった。
不適合の記述例
実際は報告書への記述ですが、ここでは会話形式で説明します。
不適合の記述例 その1
悪い例
成型不良で社内不適合が発生していますが、作業日報にその内容が記入されていませんでした。
悪い点は、「監査基準が不明確」なことです。
良い例
製造規定には、成形不良で社内不適合が発生した場合には、作業日報にその内容を記入することになっていますが、すべての作業日報に記録されていませんでした。
不適合の記述例 その2
悪い例
不適合品と思われる製品に「不適合品識別票」が付いておらず、明確に分かれていませんでした。
悪い点は、「監査証拠が不明確(事実)」なことです。
良い例
不適合品処理規定には、不適合品については「不適合品識別票」を添付し、不適合品置き場に置くことになっています。
しかし、工場北側に置かれていた製品に不適合品と判定された「不適合品識別票」が添付されていませんでした。
また、工場内の不適合品置き場に置かれていませんでした。
不適合の記述例 その3
悪い例
モーター修理品の受入検査基準があいまいでした。
悪い点は、「あいまいと判断する根拠が不十分」なことです。
良い例
ISO9001要求事項の8.1c)2)では、その製品のための製品合否判定基準を明確にすることが要求されています。
修理品の受入検査基準を確認したところ、外観の検査項目についての合否判定基準が決められていませんでした。
不適合の記述例 その4
悪い例
・・・の処理が不十分でした。
悪い点は、「不十分」という言葉は監査員の意見であることです。うっかり使ってしまいがちなので十分な注意が必要です。
良い例
何が、どう不十分なのか、具体的な事実の指摘が必要です。
5.4 参考:内部監査責任者として悩むこと
内部監査責任者として、不適合にするか否かを決定する情報の1つに、不適合や観察事項の件数があります。
例えば、次の様なイメージになります。
軽微な不適合 2件 = 重大な不適合
観察事項 2件 = 軽微な不適合
各部署の品質マネジメントシステムの実行状況がほぼほぼ平均的であればそれほど悩まずに済むのですが、中小企業においては、部署間のレベル差(あえて力量さとは言いませんが)が大き過ぎるがために、次の様な悪魔の囁きが聞こえてくることがあります。
「指摘してもフォローアップが大変だぞ」
「外部審査対策なら形式的に済ませてしまえば」
そして、内部監査を利用して日々の業務を少しでも改善したいとの思いを自分自身に言い聞かせ、今よりもよくなる指摘を考えるのでした。
不適合については、内部監査時間中に被監査部署の同意を得る必要もあるので、結構ストレスがかかるのですが、当事者にならないとなかなかこの大変さは伝わらないようです。
ご参考までに、会社全体として何を改善するかについては、
- 前回の内部監査結果
- マネジメントレビューの結果
- 外部審査の結果
に加え、前回の内部監査までの約1年間を振り返り、ポイントを決めて内部監査に取り組むようにしています。
内部監査が始まってみると、予想外のことが普通に発生しますので、思惑通りにはいかないことが多いのですが、それでも内部監査責任者としての準備はしておくことをおすすめします。
事前に準備をしていれば予想していたことの修正で済みますが、何も準備をせず出たとこ勝負の対応をすると、複数部署の内部監査全体をまとめようとした際に初めて思わぬ不整合が出ていることに気付き、管理責任者に迷惑をかけてしまいます。
「内部監査責任者として配慮が足りませんでした(力量付則でした)」では謝られた方も困るのでしょうが。
6. 是正処置の報告とフォローアップ
6.1 是正処置内容の報告
被監査部署は、「是正処置報告書」に以下の事項を記入し、原則として発行日より4週間以内に監査責任者に報告します。
- 不適合を除去するための処置(修正)
- 特定した不適合の原因
- 不適合原因を除去するための処置(是正処置)
参考までに是正処置の定義を以下に引用します。注記が、ISO9000シリーズ(英語)とJIS版(日本語)との違いの一例です。
3.12.2 是正処置(corrective action)
不適合(3.6.9)の原因を除去し、再発を防止するための処置。
注記1
不適合には、複数の原因がある場合がある。
注記2
予防処置(3.12.1)は発生を未然に防止するためにとるのに対し、是正処置は再発を防止するためにとる。
注記3
この用語及び定義は、ISO/IEC 専門業務用指針-第1 部:統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISO マネジメントシステム規格の共通用語及び中核となる定義の一つを成す。元の定義にない注記1 及び注記2 を追加した。
「JIS Q 9000-2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」より
6.2 是正処置の実施
被監査部署は、以下の是正活動を行います。
- 不適合発生の原因を究明する。(なぜなぜ分析などにより、真の原因を見つけることがポイントです。)
- 不適合の影響を小さくする処置(応急処置、暫定処置)を行う。
- 不適合発生原因を解決する再発防止策(是正処置)を行う。
監査担当者は、監査責任者と密に連絡を取り助言を仰ぎ、自分の判断で勝手に進めないことが大切です。
また、ISO導入当初や被監査部署長が責任者になって日が浅い場合などには、適宜フォローが必要です。
6.3 是正処置のフォローアップ
監査責任者は、不適合について、是正処置報告を受けてから原則として3ヶ月以内にフォローアップを実施し、是正処置の確認をします。
対策が完了していない場合には完了確認予定日を決定し、再フォローアップを実施します。是正処置については、次回内部監査時に再発していないか確認します。
- 是正処置が満足であれば、フォローアップ完了となります。
- 是正処置が不十分な場合は、是正処置のやり直しを依頼します。
- 是正報告で評価できない場合は、フォローアップ監査を行います。
フォローアップには、ある意味忍耐力が求められます。どこまで是正させる、フォローするかも悩ましい問題です。時には、積極的にあきらめることもありました。
6.4 是正処置の最終確認
管理責任者は、最終的な是正処置の内容を確認します。
是正処置の結果は、内部監査結果にまとめて社長に報告、マネジメントレビューのインプット情報の1つになります。
まとめ
内部監査責任者として監査員を育てる必要に迫られたことが、「内部監査ガイド」を作るきっかけとなりました。
ISO9001の認証を維持するのであれば、私は内部監査とマネジメントレビューを積極的に活用することで会社がよりよくなれるのではないかと考えています。
「内部監査ガイド」は、以下のKindle本にもまとめています。