内部監査責任者として監査員を育て始めてみると、プレゼンやスピーチの様に人前で話をする時のメモの様な心の支えが、内部監査員にも必要だろうと思い「内部監査ガイド」としてまとめ始めました。
「内部監査ガイド」は、初めて内部監査を担当する監査員向けに、
- 内部監査とはどの様なものなのか
- 内部監査のために準備すること
- 内部監査の進め方
についてまとめており、実際に内部監査員教育の際には、「組織図」、「品質マネジメントシステム体系図」、「内部監査規定」を併用して、会社全体の大きな流れ(PDCA)、監査員自身の担当業務の位置づけをイメージできるようにしています。
ISO内部監査と品質マニュアルの作り方
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内部監査の経験を積んでいくと、監査報告書やそのエビデンスでもあるチェックリストを作成するようになります。
無我夢中で内部監査をしている状態から、内部監査について振り返り、実際の監査現場での対応を内部監査報告書やチェックリストにまとめることで、新たな気づきを得て監査員としての課題や力量アップについて考え始める余裕が出てきます。
ここでは、内部監査をはじめたばかりの監査員を対象に、担当した内部監査報告書やチェックリストを作成する際のポイントについて説明します。
内部監査報告書作成の前に
品質マニュアルや規定類が各社各様であるように、内部監査をどうやっているかも会社により違いますし、同じ会社でも毎年同じというわけではありません。
この記事は、このブログで紹介している20名規模のモノづくりメーカーを想定しています。
内部監査の目的は、次の2つとしています。
- 業務改善に役立つ内部監査とする。
- 困っていることや要望などを聞き出す。
ISO規定類のルールを守っていないなど指摘をするための内部監査とならないようにしています。
チェックリストの役割と使い方
内部監査で確認する内容を列挙すると、
- 対象部署の組織構成(役割、人数)
- 対象部署にとっての社内外の環境の変化
- 対象部署のトピックス(大きな出来事、イベント、変化など)
- リスク
- 強味(組織の知識、会社のノウハウ)
- 品質目標実施計画の進捗(計画通り、計画通りでなければ理由など)
- 力量マップ、教育・訓練計画、教育・訓練記録
- 部署内のコミュニケーション(営業会議などの結果、定例ミーティング、日報、週報など)
上記の内容を確認することで、監査対象部署の業務内容を把握し、
- 対象業務の主な業務フロー(営業なら引き合いから受注から納品までの業務プロセス)と記録の確認をします。
例えば、文書管理について確認する場合、監査対象部署により監査の進め方(確認内容)が変わってきます。
- 規定通りの運用ができている部署であれば、記録の確認を含め短時間で済ませる。
- 規定通りの運用ができていない部署に対しては、業務フローを確認しながら、できないorやらない理由を聞いていく。
内部監査は、指摘することが目的ではなく、実態を知ることが重要だからです。
チェックリスト使用時の注意点
各部署共通で使えるチェックリストと営業や技術用のチェックリストを組み合わせて使っています。
チェックリストは、上記のことを漏れなく確認するためのツールです。
チェックリストがあると抜け漏れを防ぐことができるのですが、次の様なデメリットもあるので、監査前に注意喚起するようにしています。
- チェックリストにこだわり過ぎて、せっかく問題点や要望のきっかけを引き出しているのに、そのまま聞き逃してしまう。
- チェックリストを頭から読み上げて監査する。
前者は、監査目的である業務改善や困っていることや要望を聞き出すことの理解が不足していたり、チェックリストを埋めることに意識が偏ってしまっていることが多いです。
後者は、自分なりの監査の進め方のスタイルを持っていない場合が多い様で、経験値が高くても時間配分を考えて監査を進められない場合があります。
以下、内部監査時に記録(メモ)を残す際の注意点を列挙します。
- 説明の主語は誰なのか。(部署長として、部署の意見として、個人的な意見など)
- 「課題と考えている」のであれば、その課題に対して何をしているのか、何をしようと考えているのか。
- 「価格でしか評価されない」のであれば、そのために営業部署なら営業として何をしているのか、技術部署なら技術として何をしているのか。
- 「指示している」のであれば、指示した結果は実際にどうなのか。
- 「何々が難しい」のであれば、難しいけれども何をしているのか。
- 「見直しは考えていない」のであれば、その理由は何か。
- 「顧客からの製品についての感想(フィードバック)を、立会などで感触を確認している」のであれば、実際にどの様な要求や感触があったのか。
質問をして回答を得る。回答が具体的でなければ、さらに追加の質問をすることなのですが、「具体的に確認する」ことの意味が分かっていないと(ISO用語であれば認識していないと)気づかないようです。
対象としている内部監査員の力量
次の様な段階に進んだ(力量がある)と判断した内部監査員に対して、まずは、内部監査報告書とチェックリストの作成を最初からさせるようにしています。
- 内部監査に同席し、記録の確認や発言内容を記録に残せるようになった。
- チェックリストを使って監査を担当できる。
- 教えられたことや指示を実行することはできるようになった。
- 監査員としての力量を高めたいと思っている。
補足しておきます。
- チェックリストを実際に作成させる(初めは何をメモしていいかも、自分のメモした内容が分からないこともあります。)
- 完成した報告書やチェックリストと自分の記録(メモ)を比較して、差異を確認させる。
- 内部監査の場の雰囲気や対応者が管理職なので、緊張して舞い上がらないようになる。
- 内部監査員になるという本人の意思がある。(上長の指示で監査員教育を受けている場合は、これ以上の力量向上は見込めません。)
内部監査は、監査員2名でチームを組みます。
この際、
- リーダーを指名する。
- 進め方は、リーダーに一任する。
内部監査員候補者に、経験を積ませる(慣れてもらう)ために、最初は、補助的なことを支持します。
- 例えば、監査中に適時、記録の確認等を指示します。
慣れてきたら、簡単な質問(答えがYES/NOの質問や記録の有無の確認など)を分担したりします。
- 例えば、部署長はベテランの監査員、現場での記録確認を指示する。
この段階では、1人でやってみる経験をさせることが狙いなので、記録の確認を指示した場合には、監査中にその結果を確認し、できていなければ、より具体的な指示をします。
- 例えば、記録の確認では、文書名、文書番号、発行日をメモしてくることといったイメージです。
報告書とチェックリストの作成
最初は、完成した報告書とチェックリストと自分のメモ(記録)との相違点の確認からはじめ、慣れてきたら最初から作らせ、監査リーダーの作成したものと比べるといったように段階的に進めます。
「これではダメ」と言うのは簡単ですが、それではいつになっても作れるようになりません。改善点を具体的な理由をつけて説明し、段階的に進めていきます。
教えることは、諦めない気持ちも必要です。
報告書作成のポイント
ISO審査(サーベイランスや更新審査)で見られるかもしれませんので、その点は内部監査責任者や管理責任者は注意しないといけませんが、監査対象部署から見れば部外者から客観的に見た結果なので次の様なことを簡潔に書くようにしています。
- 改善されていたこと(事実)
- 改善を期待したいこと(観察事項)
- コメント(今後の活動の後押し、励ましの様なイメージ)
日本語の表現については、報告書とチェックリスト共に次のことに注意しています。
- 誤字、脱字など。
- 難しい日本語、ISO専門用語は極力使わない。
- 日本語(意味、表現)が正しいこと。
日本語が通じませんので要注意です。
チェックリスト作成のポイント
チェックリストは、監査報告書と合わせて監査対象部署長に送付しています。
次回の内部監査の参考資料にもなるので、内部監査時に気づいた点などをできるだけ記載するようにしています。
チェックリスト作成時のポイントを列挙します。
- 記録は、文書名、文書番号、発行日を記載する。
- 聞いたことを書く
- 発言から、一方踏み込んで確認しておくと、さらに役立つ(理由、原因、背景)
- 空欄は「-」を入れる。
- チェックリストの項目に対し、該当しないのか、今期はまだ事例がないのか明確にする。
- 気づいた点を記載する。(表現には注意が必要)
内部監査員が育ってきたら、報告書やチェックリストの書式だけでなく、記載方法もルール化して事前に教育します。
次回の内部監査に向けて
内部監査責任者としては、マネジメントレビューのインプット資料作成や次回の内部監査のために、監査期間中には次の様なことに配慮しています。
- 内部監査計画、実施についての反省や改善点
- チェックリストに追加すべき項目
- ISO規定類の見直しや改訂の必要性
まとめ
無我夢中で内部監査をしている状態から、内部監査について振り返り、実際の監査現場での対応を内部監査報告書やチェックリストにまとめることで、新たな気づきを得て監査員としての課題や力量アップについて考え始める余裕が出てきます。
ここでは、内部監査をはじめたばかりの監査員を対象に、担当した内部監査報告書やチェックリストを作成について、以下の項目で説明しました。
- 内部監査報告書作成の前に
- チェックリストの役割と使い方
- チェックリスト使用時の注意点
- 対象としている内部監査員の力量
- 報告書とチェックリストの作成
- 報告書作成のポイント
- チェックリスト作成のポイント
- 次回の内部監査に向けて