「モノづくりにおける品質とコストは、設計で8割決まる」と言われています。
設計現場では、設計ツール(3D CAD)が導入されていますが、図面作成の工数がかなり増えたデメリットばかりで、設計ツールの進歩によるCAE(シミュレーション)のメリットを設計・開発プロセスで活用できていないケースも少なくないようです。
ここでは設計ツールとして3D CADが導入されたことにより、設計者に求められた力量や教育・訓練について説明します。
設計ツールとしての3D CAD導入による変化
3D CADは、導入したからといって設計現場を一気に変える魔法のツールではありません。
2D CADから3D CADに移行した場合、次の様なデメリットがあります。
- 3D CADは効果(投資が必要)
- 図面作成だけを見れば3D CADの方が工数がかかる
- 3D CADはモデリングの考え方から違う
一方で3D CAD導入によるメリットには、次のようなものがあります。
- 3D CADのCAE(シミュレーション)機能を使うことで設計・開発期間全体の工数を削減できる。
- 図面作成工数の増加は、図面のモデルを管理することで短縮できる。
したがって、3D CADの導入によりプラスの成果を得るためには、
- 設計者には、図面作成に加え、CAEによるシミュレーションを使う力量
が必要だということになります。
設計現場ではOJTと称して自分で学べ?
これは私だけの印象かもしれませんが、モノづくりメーカーの設計現場において、モデラーと言う言葉について、「設計図面ではなく部品の形状を描く人」というマイナスのイメージを持っています。
モデラーが生まれてしまうしまう理由に、次の様なことがあると考えています。
- 3D CADの操作ができれば設計ができると思われている。
- 設計の教育・訓練(OJT)は、設計する類似形状の過去図面から図面を作ることになっている。
そもそもの話になってしまうのですが、
- 設計とは、ある部品について、材料を選び、加工方法を決め、求められた要求(強度)を満たし壊れないような図面を描くこと
ではなく、
- 過去の実績で問題がなかった(たまたま問題が表面化していない)から問題ないだろう。
としてきたことが背景にあるようです。
初めて設計をする人が、次の様なことを知らない場合どうしているのでしょうか?
- 材料をどうやって選んでいる?
- 要求された設計範囲内で壊れない設計とは具体的にどういうことか?
初めての設計をする技術者がせっかく疑問を持ったとしても、
- 類似の図面を参考にするように(コピペしろ)
では、前例が適切な設計だとしても劣化コピーが始まってしまいます。
次に、「コピペするだけではまずいのでは」と感づいた設計初心者が直面する別の問題について、説明します。
モノづくりをはじめる設計初心者が直面するもう1つの問題
「過去図面をコピペするのは設計ではない」と気づき、設計初心者は書籍やセミナーを調べ始めます。
ここでは別の問題が出てきます。
- 書籍もセミナーも専門的で難しすぎる。
ある程度基礎的な知識を身に着けた人にとっては、まさに常識や普通だと思っていることが、設計初心者にはどこか別の世界の話に聞こえます。
- 材料を選択しようとしたら鉄にも種類がある。
- 熱処理で材料の強度が変わる。
- 加工と熱処理は関係がある。
- 表面処理(めっきや塗装)にも様々な種類がある。
しかも、実際にモノと作るとなると、
- 自社と協力会社共通で、得意な加工、不得手な加工、できない加工がある。
- 加工費用や納期は、数量だけでなく会社によっても様々。
どこで作るかは、強度的な要求に加えて、コストや納期にも影響が大きい。
少々話を広げ過ぎてしまいました。設計初心者がここまで話を広げてしまうと収拾がつかなくなり、諦め、劣化コピーでいいかとなってしまうかもしれません。
最初に何を学べばよいかについて説明します。
なお、設計初心者向けの材料選択について以下の記事にまとめています。
モノづくり同様設計にもCAEにもノウハウがある
モノづくりでは、様々な加工技術があります。また、1つの加工方法でも、慣れていない人から職人技と呼ばれるものまで様々なレベルがあります。
このため、難しい加工であればベテラン職人が担当し、加工に慣れていない人は簡単な加工から様々なノウハウを学び身に着け、段階的にレベルアップしていくことになります。
いわゆるモノづくりのノウハウですが、CAE(シミュレーション)にもノウハウがあります。
CAEはコンピュータを使うせいか、「CAEの結果は正しい」というイメージをもつ方もいるようですが、CAEにもノウハウがあり正しく使う必要があります。
道具の使い手である人によりモノの仕上がりが変わる様に、CAEにおいては次の様なノウハウがあります。
- 解析モデルの作成
- 様々な解析条件の設定
- 解析結果の評価
さらに、これらを理解するためには、
- 工学的な知識
も必要です。
前述の設計初心者がモノづくりや設計について学ぶ際の一番大きな壁は、CAEでシミュレーションをするために使う、基礎的な工学知識だと考えています。
「FreeCADで始めるCAE入門」の紹介
モノづくりの設計で学ぶ内容は、
- 材料は金属と樹脂
- 加工は板金
からだと考えています。
そこで、これから設計を始める設計入門者の目線で次の様な基本的な知識についてKindle本にまとめました。
- 簡単な金属部品の設計と応力解析
- 材料特性や応力・歪(ひずみ)
- 有限要素法(FEM)の要素やメッシュ
私は「モノづくりの品質とコストの8割を決める設計には、改善の余地がまだまだある」と考えています。本書を読んでくださった皆様にとって、何らかの参考やヒントになれば幸いです。
まとめ
「モノづくりにおける品質とコストは、設計で8割決まる」と言われています。
設計ツールとして導入された3D CADはCAEによるシミュレーション機能も備え高機能となったものの、これを使うにはCAEのノウハウが必要です。
ここでは、設計初心者が設計で使うCAEシミュレーションとはどのようなものなのかについて、以下の項目で説明しました。
- 設計ツールとしての3D CAD導入による変化
- 設計現場ではOJTと称して自分で学べ?
- モノづくりをはじめる設計初心者が直面するもう1つの問題
- モノづくり同様設計にもCAEにもノウハウがある
- 「FreeCADで始めるCAE入門」の紹介