航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の中に、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。
ここでは、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」を参考にして、モノづくりの不具合の1つでありながら、非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーの防止についてまとめています。
ヒューマンエラー起因の不具合がどの様にして起きるのか、不具合防止のため再発防止と未然防止のアプローチなど、航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなりますし、航空・宇宙以外のモノづくりの参考やヒントにもなるのではないでしょうか。
ヒューマンエラーによる不具合発生の流れ
「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」では、「宇宙開発関連業務において、ヒューマンエラー防止のために、1人1人が知っておくべきこと」がまとめられています。
ヒューマンエラーが原因となる不具合発生についてモデル化されています。
「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」から下図を転載しました。
図1 ヒューマンエラー起因不具合の発生モデル
出典:JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトのJAXA共通技術文書「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」(p.21)より
上図は、ヒューマンエラーから不具合発生までの以下のプロセスを表しています。
様々な要因によりヒューマンエラーが発生する。
⇓
ヒューマンエラーの検出やリカバリーができない。
⇓
ヒューマンエラーによる影響を緩和できない。
⇓
不具合や事故等が発生する。
ヒューマンエラー起因の不具合を防ぐためには、下表に示す3つの段階があります。
段階 | 内容 |
---|---|
第1段階 |
①ヒューマンエラーの防止
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第2段階 |
②ヒューマンエラーの早期検出とリカバリー
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第3段階 |
③ヒューマンエラーの影響緩和
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これらの3つの段階について対策をしていくことで、各段階で不具合につながるのを防ぎ、ヒューマンエラー起因の不具合を防ぐことができます。
さらに、次の段階での取り組みには、以下のことがあります。
- 発生した不具合の再発防止からさらに一歩進めて、ヒューマンエラー起因の不具合から得られた教訓を活用して、さらなる改善を続けること。
- あらゆるヒューマンエラーを未然に防止することを目指す取り組みが重要です。
これまで述べてきた不具合防止のため、以下のアプローチについて説明をします。
- 再発防止のアプローチ:実際に起きてしまった不具合等に対し、不具合経緯やヒューマンエラーの要因などを分析して、要因を取り除いたり、その影響を緩和すること。
- 未然防止のアプローチ:不具合や事故が実際に起きる前に、つまり、事前にヒューマンエラー等を引き起こす要因を抽出し、要因を取り除いたり、その影響を緩和すること。
再発防止のアプローチ
再発防止は、実際に起きたヒューマンエラー起因の不具合について、分析し、再発防止策を行うことにより、類似の不具合を防止することです。
再発防止のための分析では、次のことを行います。
- ヒューマンエラーが発生する前の段階から、不具合に発生までの事象(起きたこと)の経緯を明らかにする。(具体的には、時系列で、事実を列挙することから始めるのがよいと考えています。)
- 経緯から、どの段階で気づけば、あるいは、手を打っていれば不具合を防げたかを明らかにします。また、なぜ気づかなかったか、手を打たなかった(手は打ったが防げなかった)のかといった問題点を明らかにします。
次に、ヒューマンエラーや問題点を引き起こした要因を洗い出します。この時、対策については含めず(考えず)、現実(実際に起きたこと)を列挙していくことが重要です。
洗い出した要因について、要因そのものを無くすこと(排除)や要因による影響の緩和策を検討します。
「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」には、再発防止の手法としていかのものが紹介されています。
詳細は、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の6章(分析手法編)および7 章(対策編)をご参照ください。
不具合に至った経緯の整理、問題点の識別の手法
- バリエーションツリー
- いきさつダイヤグラム
問題点に対する要因抽出の手法
- なぜなぜ分析
- PSF法
- その他の手法(ノタメニ分析等)
要因の排除・緩和対策の立案(対策)
要因を抽出した後は、要因を取り除いたり、その影響を緩和する対策を立てます。
未然防止のアプローチ
未然防止とは、ヒューマンエラーや問題を引き起こしそうな要因を事前に洗い出し、それらの要因を取り除いたり、その影響を緩和(小さく)することで、ヒューマンエラーが生じにくい、または早期に検出・リカバリーして不具合や事故にならないような環境や職場にしていくことです。
「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」には、未然防止として、以下のものが紹介されています。
詳細は、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の7 章(対策編)をご参照ください。
3H
3Hとは、「初めて」、「久しぶり」、「変更」の3つの頭文字をとったものです。
「初めて」、「久しぶり」、「変更」に当たる場合には、「ヒューマンエラーのリスクが発生しやすい(リスクが高い」と考え、再点検やチェックを行うことが有効です。
ヒヤリハット活動
ヒヤリハット活動とは、ヒューマンエラーの一歩手前で済んだ事象「ヒヤリハット」を集めて、分析し、対策を検討・実施することです。
一般的なヒヤリハットは、事故や作業者の命に関わる事象を対象としています。
宇宙開発においては、重大な不具合を引き起こすかもしれなかった事象を「品質ヒヤリハット」と定義しています。
作業工程管理チャート
作業(工程)の中で、どの時点でどの様なヒューマンエラーが起こりやすいかを正確につかみ、ヒューマンエラーを防止する具体策を反映させ、着実に実行できるようにしたものを「作業工程管理チャート」といいます。
「作業工程管理チャート」の詳細は、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」をご参照ください。
職場改善による未然防止活動
ヒヤリハットが起きる前の「潜在的なヒヤリハット」に着目し、「潜在的なヒヤリハット」引き起こされそうな要因、例えば、1人1人「やりにくい作業や環境等」を洗い出し、それらの要因を取り除いたり、影響を緩和する活動のことです。
まとめ
航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」を読んでいます。
航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなりますし、航空・宇宙以外のモノづくりの参考やヒントにもなるのではないでしょうか。
ここでは、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」を参考にして、モノづくりの非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーの防止について、以下の項目でまとめました。
- ヒューマンエラーによる不具合発生の流れ
- 再発防止のアプローチ
- 不具合に至った経緯の整理、問題点の識別の手法
- 問題点に対する要因抽出の手法
- 要因の排除・緩和対策の立案(対策)
- 未然防止のアプローチ
- 3H
- ヒヤリハット活動
- 作業工程管理チャート
- 職場改善による未然防止活動