2020年版の「ものづくり白書」が公開されています。(以下、モノづくり白書2020と呼びます。)
マネジメントレビューの参考になればと思い、まずは目次に目を通すことから始め、気になったところについてまとめています。
ここでは、ものづくり現場の環境変化と人材確保についてまとめています。
ものづくり現場が直面している経営課題
ものづくり企業が直面している経営課題は、下表の様に価格競争やコストと、人手不足(採用)と人材育成(教育・訓練)が課題となっています。
大企業 | 中小企業 |
---|---|
「価格競争の激化」 「人手不足」 「人材育成・能力開発が進まない」 |
「人材育成・能力開発が進まない」 「人手不足」 「原材料費や経費の増大」 |
ものづくり白書2020では、3年前と比較して人材育成・能力開発への取組がうまくいくと、労働生産性にも良い影響がみられるという分析をしています。
また、「労働生産性を上げる手段の1つとして、人材育成・能力開発(を3年程度続けること)は有効」とありますが、特に目新しいものではなく当たり前のことなので、それだけ課題として解決できていないことでもあると考えています。
事業環境・市場環境の状況認識
事業環境・市場環境の状況認識をみると、
- 「より顧客のニーズに対応した製品が求められている」
- 「製品の品質をめぐる競争が激しくなっている」
- 「原材料コストやエネルギーコストが大きくなっている」
- 「国際経済の先行きが不透明になっている」
といった経営課題に直結する、厳しい認識に基づいた回答が多数を占めており、
- 「同業他社の廃業が増えている」
- 「製品のライフサイクルが短くなっている」
を大きく上回っていると分析しています。
企業規模別では、下表のようになります。
大企業 | 中小企業 |
---|---|
「技術革新のスピードが速まっている」 「海外との競争の激しさが増している」 |
「税や社会保険料負担の経営への影響が大きくなっている」、 「同業他社の廃業が増えている」 |
一面的な見方になりますが、自分の業界・製品や同業他社よりも、自社のことで手一杯といった印象を受けました。
業種別に見ても以下の通り、ニュースとして報道されている内容と大きな違いはないようです。
- プラスチック製品製造業
- 「品質」
- 「原材料・エネルギーコスト」
- 「税・社会保険料」
- 鉄鋼業
- 「同業他社の廃業」
- 「市場規模縮小」
- 生産用機械器具製造業
- 「国際経済の不透明さ」
- 「短納期」
- 電子部品・デバイス・電子回路製造業
- 「値下げ圧力」
- 情報通信機械器具製造業
- 「技術革新」
- 「製品のライフサイクル短期化」
- 「差別的・独創的」
- 「顧客ニーズ」
- 輸送用機械器具製造業
- 「海外」
自社の「強み」の認識
自社の「強み」の認識については、
- 「柔軟に顧客のニーズに対応できる(多品種少量生産など)」
- 「高度な熟練技能を持っている」
- 「優良企業の下請企業の主力となっている」
- 「極めて短い納期に対応できる」
の順となっており、次のように分析しています。
- 事業環境認識にほぼ合致した強みを持っていると自己評価する企業が相当数に上る。
- 各課題対応共通の基盤となる「現場の高技能」を多数の企業が強みとして意識していることが認められる。
さらに競争力を高めるためのこれまでの取組
さらに競争力を高めるためのこれまでの取組としては、
- 「改善の積み重ねによるコストの削減」
- 「単品、小ロットへの対応」
- 「従来の製品やサービスに付加価値を付与した製品やサービスの提供」
- 「改善の積み重ねによる納期の短縮」
であり、今後さらに競争に勝ち抜いていくために重要となる取組として、
- 「改善の積み重ねによるコストの削減」
- 「営業力の強化」
- 「従来の製品やサービスに付加価値を付与した製品やサービスの提供」
- 「優良企業からの受注の獲得・拡大」
となっており、
- 売上向上に繋がる取組
- 高付加価値の取組
を重視している傾向があります。
また、今後より重要と思われる取組として次のことを重視しています・
- 「製造・生産等へのICT などデジタル技術の積極的な活用」
- 「これまでにない革新的な技術の開発」
主要製品の製造に当たり重要となる作業
主要製品の製造に当たり重要となる作業については、次の通りであり、
- 「測定・検査」
- 「切削」
- 「機械組立・仕上げ」
- 「製罐・溶接・板金」
これらについては、今後の見込みとして次のようになるのではなく、過半が今まで通り熟練技能を必要としていると分析しています。
- 「機械に代替される」
- 「工程自体がなくなる」
- 「海外調達に変わる」
しかし、今後の必要となる熟練技能について課題を感じている企業も多く、「技能継承に問題がある」という企業は増えていると分析しています。
中小企業というよりは小規模の会社において、高齢化と後継者不在で廃業するケースも珍しくはなく、1つの製品を作るための加工が、複数の企業に発注されている場合には、品質以前に加工先を探さなくてはならないといった問題もまた珍しいことではなくなっています。
主要製品の製造に当たり鍵となっている具体的な技能
主要製品の製造に当たり鍵となっている具体的な技能について、技術系社員については、次の通りで、この傾向は5年後の見通しと概ね一致すると分析されています。
- 「生産工程を改善する知識・技能」(57.0%)が最も多く、次いで
- 「多工程を処理する技能」(50.0%)、
- 「品質管理や検査・試験の知識・技能」(49.6%)
技術系社員の知識としては、
- 「工程管理に関する知識」
- 「複数の技術に関する幅広い知識」
- 「生産の最適化のための生産技術」
が挙げられていますが、5年後の見通しでは、
- 「複数の技術に関する幅広い知識」
- 「生産の最適化のための生産技術」
- 「設計・開発能力」
となっており、ここにきてようやく製造ではなく、設計が出てきています。
しかしながら、ものづくり企業が今後重要となってくる能力としては、次の通りであり、設計現場の改善や改革につながるようなことが見当たりませんでした。
- 「ICTなどのデジタル技術を組み込んだ設備・機器等を利用する知識」
- 「ICTなどのデジタル技術をものづくり現場等へ導入・活用していく能力」
ものづくり現場におけるデジタル技術の活用と人材育成
ものづくり白書2020では、
- 生産工程全般に精通した多能工などの人材の確保と育成が、最も重要な経営課題となっている。
ことを踏まえ、
- このような中で生産性の高い現場を構築するためには、「デジタルツールなどの利活用」が鍵を握ると考えられる。
としているのですが、内容は生産や製造に関するものが主であり、求める人材についても同様です。
例えば、
- デジタル技術の活用は企業の経営戦略であり、それを活用できる人材の育成においても、一歩先を見据えた人材育成が必要となっている様子がうかがえる。
としながらも、
ものづくり人材を育成するための環境整備については、
- 「改善提案の奨励」
- 「実力・能力重視の昇進・昇格」
- 「自社の技能マップの作製」
人材育成の取組の内容については、
- 「日常業務の中で上司や先輩が指導する」
- 「作業標準書や作業手順書の活用」
- 「仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させる」
となっており、生産・製造に着目しています。
ものづくり白書2020の人材についてのまとめ
ものづくり白書2020の人材についての分析をまとめると、次のようになります。
- 経営の中心的な課題
- 我が国の強みとされてきた「ものづくり現場」を、より生産性高く、強靱なものと出来るかはものづくり経営の中心的な課題である。
- これは、現場任せにすることなく、経営陣が主導して課題解決にあたるべき、まさに経営力が問われる課題だといえる。
- デジタル技術の活用
- デジタル技術を十分に活用していく上で、導入にかかるノウハウや、人材が不足している。
- OJTやOFF-JTを通じた自社ものづくり人材の育成が有効である。
確かに言っていることはそうなのだけれども、
- 品質とコストの8割が設計で決まる
ということについて、そろそろ取り組んでもよいのではないでしょうか。
まとめ
2020年のモノづくり白書からものづくり人財の確保と経営課題について、以下の項目でまとめています。
- ものづくり現場が直面している経営課題
- 事業環境・市場環境の状況認識
- 自社の「強み」の認識
- さらに競争力を高めるためのこれまでの取組
- 主要製品の製造に当たり重要となる作業
- 主要製品の製造に当たり鍵となっている具体的な技能
- ものづくり現場におけるデジタル技術の活用と人材育成
- ものづくり白書2020の人材についてのまとめ