「品質を向上させるため品質管理を始めよう。」と思い立ち、さて具体的に何をするかを考え始め、やりたいこと、やるべきことが具体的になり、実際に行動を始めると、何をどの順番で進めるかが新たな課題になってきます。
何を優先するか、何に重点をおくか、一度にすべてのことを実行することはできない以上、選択と集中が必要となってきます。重点指向というとちょっと難しそうな感じがしますが、複数あるやりたいこと(目標)の優先順位をつけるということです。
ここでは、これから初めて品質、そして品質管理について学ぶ人を想定して、目標達成に必要となる重点指向(優先順位)の考え方について説明します。
同時並行(マルチタスク)、本当にできるのでしょうか?
いくつも仕事を抱えているはずなのに、突発的な依頼にも対応しながら約束したことを約束通りに、しかも定時帰りで終えているマルチタスクな人がいます。
しかし、人は1度に1つのことしかできないのに、複数の仕事(タスク)を同時進行で進めているように見えるのは何故なのか、話を聞いたり、関連書籍を読んでみたり、短かにいるマルチタスクな人を観察してみると、次の様なことが分かります。
- これは、当たり前なのですが、1度に1つのことをしています。
- 別の作業を同時並行で進めずに、タスク(プロセス)毎完了させています。これは意外に重要です。
- 時間に追われているような時、複数のことを中途半端に手をつけていてどれも終わらないことがありませんか?
- 1つ1つの作業(タスク)が、小さな作業(タスク、プロセス)に分かれています。
- 短時間で終わるボリュームの作業(タスク、プロセス)に分割しています。
さらに、自分の時間の使い方に工夫があります。
1日や1週間という範囲で、自分の調子(力量を発揮できる、集中できる時間)には、波があります。
- 集中できる時間に頭を使いじっくり考えたいことには、集中できる時間帯を当てます。
- 作業は、ある程度疲れていてもできる時間帯や隙間時間に処理します。
私は、朝の方が集中できますし、午後や夕方になってくれば疲れも出てきますので、じっくり考えたい場合には、疲れているときはある程度のところで中断し、朝の静かな時間帯に対応するようにしています。
もう1つ工夫があります。それは、割り込みが入った際の中断の仕方です。
- 割り込みが入った際に、中断する作業を再開しやすいようにしてから割り込みに対応しています。その時間は、長くても1分かかっていないと思います。
- 中断作業に時間がかかる場合には、「3分待って」と伝えてから急いで中断処理を進めます。
たったこれだけのことで、割り込みを入れる側に不快感を与えることなく、中断した作業の再開が容易になります。
ここまで書いてみて、これはISOの品質マネジメントシステムの7原則の1つプロセスアプローチの良さだと考えています。
重要度と緊急度
会社勤めに慣れてくると、出社してからのルーティーンが人それぞれできてきます。
これは、仕事に限った話ではないと思いますが、今日やる仕事があります。
- 今日やることが1つだけなら、何時から始めるか考え実行します。
- 今日やることが2つ以上あると、どちらを先にやるか優先順位をつけます。
この優先順位をつけるときによく使われているのが、下図に示す重要度と緊急度による分類です。
図1 重要度と緊急度による分類イメージ
図1でポイントになるのは、分類Aは当然やることなので、分類Bをどうやって進めるかが重要です。
分類Aの「重要かつ緊急」である仕事には、お客様の注文(納期)やクレーム対応などがあり、今すぐ全力で取り組むべきことが誰にも分かりやすいものです。
難しいのが分類Bの「重要だが緊急ではない」ことです。
ISOの審査で言えば観察事項の放置しておくと不適合につながるおそれのあるものに当たります。
分類Bの仕事の難しさは、誰もが重要であることに同意はしているものの、それを今すぐやらなければならないこととして合意が得られず、結果的に先送りとなり、何事もなければよかったね、何事かあればやっておけばよかったと言い出す人はいてもすでに手遅れです。
分類Bの「重要だが緊急ではない」ことについて1例で考えてみます。
ここでは、次の目標を掲げたとします。
- 歩留まりよくする(ムダを減らす、ムリを減らす、ムラを小さくする)
次に、歩留まりをよくするための具体的な目標を設定することになるのですが、歩留まりをよくするためには、作業者個人だけでは力不足、自部署だけでも力不足、そもそも会社全体の利益につながるためには製造部署では何をすればよいかは、社長のトップダウン(意思表示)がないと決められないことかもしれません。
こうなると、次の様に様々な障害(悪魔のささやき)が聞こえてくるようになります。
- 自分たちだけでできることだけやろう。
- 毎日の業務で忙しいから、今は目先のことに注力しよう。
これは、「歩留まりをよくする」という目標が大き過ぎて、日々の業務に加えさらに大変になる忙しくなることは間違いないし、正直なところやりたくないという気持ちが目先のことで精一杯ですとアピールすることで先送りする理由付けを考えたくなる気持ちも分からないではありません。
新規事業や新製品開発のため何とかプロジェクトを立ち上げても、いつのまにか立ち消えになり何年かするとまた繰り返されているようなこともある様です。
何のためにという目的も不十分なのかもしれないのですが、分類Bの「重要だが緊急ではない」ことを進めることが難しいということでもあります。
それでも進めなければ、分類Bの「重要だが緊急ではない」ことが、分類Aの「重要で緊急」になることは明らかで、現在の様に変化の激しい時代にはある日突然分類Bから分類Aになることもないとは言い切れません。
分類Bの取り組みに期待する効果の大きさではなく、同じ様に重要な目標なのに、緊急性だけで判断してしまい。成果を得るために今やらなければいけないことを、目標の期限迄には時間があるからと、ある面自分の都合の良い解釈をして先送りしてしまう心理に原因があります。
目先のことをやることで現場には達成感があります。現場から自信満々で「目先の重要なことに注力しています」と言い切られると、その場での反論や「そうじゃないんだ、分類Bを今やらないと・・・。」という説明は空回りして伝わらないことも少なくないようです。
あるモノづくりの会社で、小さなミスがクレームとなることがなくならないため、
- 全社で、受注、製造、出荷という大きなプロセス、大きなプロセスの中の小さなプロセスを確実に行うこと
に取り組んでいたとしても、
- 現場では、急ぎだからと理由をつけて、定められた手順通りにやらないことがなくならない。
のであれば、ミスを防ぐ対策や取り組みが機能せず、結局、
- 小さなミスが大きなミスとなり、お客様や関係部署からは「またか」となり信頼を失う。
この信頼を得るためには長い時間が必要ですが、目の前のことに注力している現場には、「今は仕方ない」といった感じで信頼を失うことについて考えることをやめてしまいます。
少々話題が脱線してきましたので、元に戻します。
仕事の優先順位は個人より会社を優先する
仕事の現場での改善活動は、効果の大きさよりも、取りあえず目先のできることから改善していこうという傾向が強くなりがちです。
良い悪いではなく、変化を嫌う、変わるのが面倒という気持ちは、なかなかなくならないからです。
しかし、会社の社員数、資金や時間は有限であることを考えると、上述の分類Bの「重要だが緊急ではない」ことが解決が困難なものであっても会社に与える影響は大きいため、優先順位を上げて取り組むことが会社全体にとってはより効果的かつ効率的であると考えています。
以上説明してきたように、より重要なものに焦点を絞り活動していく考え方が重点指向というもので、言葉を変えれば、重要度と緊急度で優先順位をつけ、会社全体にとって重要だが緊急でないことに如何に取り組むかが重要だということです。
品質管理において不適合品の要因分析を行います。簡単に言えば検査で不良品となったものが、どうして作られたのか原因を探る活動です。
この際、不良品(不適合品)の個数や、原因による影響度合いをパレート図を使うことで、不良品が発生する主要な原因を見つけ、この原因に注力して対策に取り組みます。
このような分析をパレート分析と言います。また、少数の項目が大方の結果を支配するという経験的な法則をパレートの法則といいます。
このパレートの法則を職場の問題に適用することも、重点指向の考え方の一例となります。
まとめ
「品質を向上させるため品質管理を始めよう。」と思い立ち、さて具体的に何をするかを考え始め、やりたいこと、やるべきことが具体的になり、実際に行動を始めると、何をどの順番で進めるかが新たな課題になってきます。
何を優先するか、何に重点をおくか、一度にすべてのことを実行することはできない以上、選択と集中が必要となってきます。重点指向というとちょっと難しそうな感じがしますが、複数あるやりたいこと(目標)の優先順位をつけるということです。
ここでは、これから初めて品質、そして品質管理について学ぶ人を想定して、目標達成に必要となる重点指向(優先順位)の考え方について以下の項目で説明しました。
- 同時並行(マルチタスク)、本当にできるのでしょうか?
- 重要度と緊急度
- 仕事の優先順位は個人より会社を優先する