これまで、中小企業の建築業、建設業、技術系商社、モノづくりメーカーの品質マニュアルと関連規定を作ってきました。
ISO9001の2000年版の審査員研修から本格的に学び始め、中小企業のISO9001認証取得から品質マニュアルや関連規定のたたき台を作り、最近は100名規模のメーカーの品質マニュアルや規定類の全面改訂を進めています。
会社規模が大きくなると個人の力ではどうにも手をつけようがないのも事実でしょうが、中小企業の場合にはこつこつ進めれば何とかなることも多いのではないでしょうか。
形ばかりで使われない品質マニュアルや規定もあるようですが、せっかく作ったマニュアルや、品質マネジメントの仕組みを利用しないのはもったいないと考えています。
これまでの経験を振り返り、やさしい、使える品質マニュアルと規定の作り方について説明します。
このブログで紹介している品質マニュアルと関連規定
このブログで公開している品質マニュアルと関連規定は、製造業を対象に20名規模のモノづくりメーカーを想定して作成しています。
品質マニュアルと規定は、次の方針で作っています。
- ISO9001の要求事項の項目順に品質マニュアルを作成している。
- 品質マニュアルは、文書審査はパスするものになっていますが、詳細は各規定に記載する。
品質マニュアルと規定の内容については、次の通りです。
- ISOの要求を満たす最低限のレベルとする。
- 現在できているレベルに合わせたルールとする。
- こうありたいという願望は規定等に入れない。
- 運用ができるようになってから規定等に反映する。
それでは、実際に品質マニュアルや規定を作る際のポイントについて、次項で説明します。
品質マニュアル作成の前に決めておくこと
品質マニュアルを作成する前に決めておくことがあります。
それは、
- 社長がやることと管理責任者(ISO事務局)がやることを明確にする。
ことです。
「~だろう」で進めるしかない場合もありますが、ひっくり返された時への心の準備はしておいた方がよいと思います。
品質マニュアル作成の役割分担
社長と管理責任者(ISO事務局)とでは、やることが違います。
別の言い方をすると、社長にしかできないことがあるということです。
- 組織図は、社長しか作れません。
- ありたい組織ではなく、今の実力での組織にすることがポイントです。
- 品質方針、品質目標は、社長が決めます。
ISO9001の2000年版の導入をお手伝いした際には、
- 私が作成した品質マニュアルのサンプルを紙で渡し、管理責任者(候補者)が作る。
ことを求めました。
これには、次の様な理由があります。
- 審査の際には、社長は何とかしますが、実際に対応するのは管理責任者が主になる。
- 管理責任者は、社内でISOに関する質問や疑問などに対応することになるため、ISOを知らない、分からないではすまない。
実際にISOの認証取得の活動を始めると、管理責任者の理解がなかなか進まず、社長自ら品質マニュアルや規定を作ってしまうケースもあったのですが、それではいつまでたっても管理責任者は独り立ちできませんし、社内的にもISOだからと言うよりは社長が決めたことだからといった状況になってしまいます。
社長の事情としては何とかある入札案件に間に合わせたいといった思いもあったようですが、その頃の私にはそういった事情への配慮が足りず申し訳なかったと思っています。
その後、ISO導入が社内を良い方向に回し始めたということを聞いて内心ホッとしました。
ISO導入の進め方のコツやポイント
品質マニュアルや規定を作りながら、並行して社員へのISO教育を始めます。
この際、ISO事務局以外の社員への教育は、できるだけ専門用語を使わずに進めることがコツになります。ISO規格そのものについてはできるだけ少なく、実務上どうなるかやメリットを主に、新しくやることを入れ込んでいくのがよいと考えています。
ISO導入については、「ISO導入と見直しのヒント」にまとめています。
規定作成をよいチャンスと考え、社内ルール(責任、権限、役割など)があいまいな業務については、文書化により明確にし、実態との整合を取りながら引規定等を完成させていきます。
実際の活動については、PDCAのPに時間を取られ進まないのが普通なので、とりあえずやってみる、Doから始めるPDCAを小さく速く回して、PDCAがどんなものなのか体感させることがポイントになります。
規定作成においても、期限(納期)を明確にして、巧遅拙速を徹底します。
言葉が少々乱暴になりますが、100点目指しても完成しないのですから、期限までにできたのが50点でもいいから50点のアウトプットに対し次のPDCAを回し改善していけばよいという意味合いです。
品質マニュアルと規定作成については、次の様なイメージになります。
組織図とQMS体系図(業務フロー)を明確に
この段階では、
- きれいに作ることを重視しない。
- 業務フローは手書きでよい。
- QMS体系図は各業務フローができてから作る。
業務フローと既存ルールの洗い出し
業務フローを参考にして、既存のルールの洗い出しを行います。
洗い出しの際には、次の様な視点でみていきます。
- 誰が何を決めているのか。
- 抜けているルールはないか。
品質マニュアルと規定を形にする
各業務フローをまとめて全社の大きな業務フローをまとめます。
この際、QMS体系図にきれいにまとめるのは後回しで構いません。
品質マニュアルは、本ブログで公開してい品質マニュアルを自社に適用してみます。
各規定は、本ブログで公開している各規定に当てはめて形にします。
品質マニュアルと規定の整合性を取る
品質マニュアルと各規定ができたら、これを基準にして実務との整合性を図ります。
整合性の取り方には2つあります。
- まずは、ISO事務局が白紙的に整合性を取る。
- 内部監査の練習も兼ねて実務との整合性を取る。
仕上げる
マネジメントレビューや内部監査を実施し、審査申し込み予定がいつ頃になるか見えるようになってきたら、品質マニュアルと各規定を仕上げていきます。
品質マニュアル作成のポイント
品質マニュアルを作る際のポイントについて説明します。
適用範囲:組織図と業務フロー
適用範囲は、組織と業務フローが明確にならないと決めるのが難しいです。
特に組織が決まらないと業務フローの説明も難しくなってしまいます。
小規模の会社で、製品開発の際には、営業、技術、製造などの担当者によるプロジェクトを立ち上げるような場合には、機能別の組織図とする方法もあります。
また、設計開発や製造の規定は、1枚の業務フローにまとめるところからはじめればよいと考えています。
ISO9000シリーズで優れていると言われる設計・開発のプロセスですが、ISO用語も多いので、要求事項に対し実務上どうするのかを明確にしていくことが必要になります。
既存の社内ルールを洗い出す
社内ルールはあっても明文化されていないため、責任や権限、役割などがあいまいなまま運用されていることもあります。
既存のルールを規定にまとめるということは、ISOの要求事項に対し、具体的にどうするかを考えていく作業の積み重ねになります。
ISO独自の要求への対応:マネジメントレビューと内部監査
ISO独自の要求は、マネジメントレビューと内部監査になると考えています。
では、マネジメントレビューと内部監査については、ISOの認証取得をしていない企業は一切何もやっていないかというとそんなことはありません。
マネジメントレビューは、社長がやっている経営判断の一部です。
内部監査は、社内ルール通りにやっているかを確認し、管理責任者がとりまとめて社長に報告し、指示を仰ぐことです。
決して特別なことではないのです。内部監査だけでなく日頃の業務においても、次のように説明しています。
- ISO(品質)は、ISOと言う特別なルールではありません。
- ISO(品質)は、会社のルールの一部です。
- 品質マニュアルと各規定は、ISOの要求事項に対し自社でこうすると決めたルールです。
ざっくり作る(形にすることを優先)
品質マニュアル、各規定と業務フローが具体的になってきたら、いよいよ文書化(形に)していきます。
この際、
- ルールと帳票は最小限にする。
ことが重要です。
審査準備
形ができたら内部監査の練習も兼ねて、規定等の整合性を確認してから、審査期間への相談を始めればよいと思います。
まとめ
せっかく作った品質マニュアルや関連規定が形ばかりで使われないのはもったいないと考えています。
自社で作った品質マニュアルや関連規定を見直す場合、会社規模が大きくなると個人の力では手のつけようがないかもしれません。しかし、中小企業ならこつこつと進めれば何とかなることも多いのではないでしょうか。
ここでは、これまでの経験を振り返り、使える品質マニュアルと規定の作り方について、以下の項目で説明しました。
- このブログで紹介している品質マニュアルと関連規定
- 品質マニュアル作成の前に決めておくこと
- 品質マニュアル作成の役割分担
- ISO導入の進め方のコツやポイント
- 組織図とQMS体系図(業務フロー)を明確に
- 業務フローと既存ルールの洗い出し
- 品質マニュアルと規定を形にする
- 品質マニュアルと規定の整合性を取る
- 仕上げる
- 品質マニュアル作成のポイント
- 適用範囲:組織図と業務フロー
- 既存の社内ルールを洗い出す
- ISO独自の要求への対応:マネジメントレビューと内部監査
- ざっくり作る(形にすることを優先)
- 審査準備