「品質マニュアル3.0」の関連規定の1つ、「品質文書管理規定」の一例です。
会社の文書管理規定があるなら、それを流用するのも1つの方法です。
その他考慮した方がよい事項を参考までに列挙します。電子化や作成・検討・承認の方法も紙にこだわらず運用しやすいやり方にすることをおすすめします。
- 基幹システムのデータを当該文書・記録の正とする。
- PDFなどにした文書・記録の保管期間の考え方を決めておく(電子化した場合、削除しなければ保管期間は事実上永久となるので)。
- 秘密文書管理について別規定とするのか、情報セキュリティとの関連性をどこまで考慮するか等
文書・記録の電子化の進め方と注意点について、以下にまとめています。
1. 目的
本規定は、品質文書及び記録の管理に係わる手順、方法等を定め、品質文書及び記録を的確かつ効率的に管理することを目的とする。
2. 適用範囲
当社の品質マネジメントシステムに関する文書(品質文書)及び記録(品質記録)に適用する。
3. 文書・記録の種類
3.1 文書の種類
(1)一次文書:品質マニュアル
全社の基本方針、全社的活動を取り決めた品質マネジメントシステムの概要を記述した文書
(2)二次文書:規定
全社及び複数の部署に関連する規定で、業務遂行上の基本的事項を定めた文書
規定は、次の2つに分類できる。
- ISO9001が要求する文書化した情報として維持する規定
- 品質文書管理規定
- 内部監査規定
- 不適合品処理規定
- 是正処置規定
- その他の業務規定
(3)三次文書:標準
二次文書を補足する文書、主に単独部門で使用する標準
(4)品質図書
図面、仕様書、品質工程図、作業手順書、検査記録など
(5)外部文書
- 法令
- 外部機関が発行するISO規格等の規格類
- 顧客より発行される仕様書・図面等業務上必要な文書
3.2 規格が要求する文書・記録、所管部署
規格JIS Q9001が要求する文書・記録を表1、表2に示す。
規定等の所管部署を表3に示す。
4. 規定等の制改訂
規定等を作成する場合は、「規定等作成要領」に定める様式に従い作成する。
(1)規定等の承認
規定等の制改訂は、当該文書の作成、検討、承認欄に各々権限を有する者が捺印することによる。
規定等の承認について下表に示す。
一次文書(品質マニュアル) | 管理責任者が立案し、社長が承認する。 |
二次文書(規定) | 担当部署が起案し、担当部署長が承認する。 複数部署に関する場合には、管理責任者が確認する。 |
三次文書(標準) | 担当部署が起案し、担当部署長が承認する。 |
(2)規定等の改訂箇所の識別
- 改訂する文書には、改訂年月日を記入し、改訂履歴に、版数、改訂内容を記載する。
- 改訂箇所は赤字とする。なお、全面改訂の場合は改訂箇所を赤字にしなくてもよいものとする。
(3)規定等の最新版管理
- 管理責任者は、制改訂された規定等を受理後、常に最新版を管理する。
- 制改訂された規定等については、通達により周知する。
(4)規定等の原紙の保管・管理
管理部が行う。
(5)規定等の解釈等に疑義を生じた場合
- 管理責任者は、規定等の解釈等に疑義が生じた場合、統一を図るため、通達を発行する。
- なお、当該規定等は、通達の内容を盛り込んで改訂し、その時点で通達文書を廃止とする。
5. 規定等のレビュー(文書レビュー)
(1)規定等の文書レビューは、所管部署が毎年実施する。ただし、所管部署長が必要と判断した場合には都度改訂できる。
(2)所管部署は、規定等のレビューを実施し、その進捗を管理する。改訂を行う場合は、「4. 規定等の制改訂」による。
6. 規定等の配布、管理
6.1 規定等制改訂の通達
(1)管理責任者は、規定等の制改訂について通達を出し、制改訂した規定等を各部署に配布する。
(2)管理部は、制改訂した規定等を社内共有サーバーに登録する。
6.2 最新版の管理
(1)管理部は、制改訂した規定等の最新版を、社内共有サーバーで管理する。
(2)配布文書を受領した部署長は、旧版と最新版の差替えを行い、旧版を破棄する。
(3)部署長は、通達で示された最新版について部署内に周知する。
6.3 旧版の利用等
旧版を業務の都合で使用する場合は、最新版と区別する。
7. 規定等の管理(文書・記録の承認、維持管理)
(1)品質文書は、発行番号、改訂履歴を残すことを基本とする。
(2)品質文書・記録は、作成(担当)、検討(審査)、承認の捺印をする。
8. 規定等の保管・廃棄
(1)各部署は、文書、記録を読みやすく、容易に検索できるように維持する。
例1 文書、記録のファイルの背表紙に文書、記録の名称等を明記する。
例2 同種のファイルが複数となる場合は、ファイル番号を背表紙に表示する。
(2)電子化している場合には、リストで改訂日や最新版がわかるようにする。
(3)各部署は、所属員が公平に利用できるように文書、記録の保管場所を定め、所定の場所に保管する。
(4)品質記録については、劣化、損傷、紛失等を防止できる保管場所を定めて管理する。
(5)品質文書、記録の保管部署、保管期間は「文書・記録保管期間標準」による。
(6)各部署は、保管期限を過ぎた品質文書、記録を廃棄する。
9. 規定等の廃止
(1)規定等を廃止する場合は、管理責任者より通達を発行する。
(2)各部署は、通達を受け当該規定等を廃棄する。
10. 原紙の管理、品質文書・記録の電子保管
(1)品質文書・記録は、紙を基本とするが、電子媒体でもよい。
(2)部署内文書は各部署で保管・管理する。
11. 外部文書の管理
(1)外部文書(原紙)の保管部署は次の通りとする。原紙保管部署が、最新版管理をする。
外部文書の種類 | 品質保証 | 技術 | 製造 |
---|---|---|---|
ISO等の規格 | ○ | ○ | ○ |
顧客の規格 | ○ | ||
顧客の仕様書・図面等 | ○ | ||
顧客の品質に関する文書等 | ○ |
(2)外部文書の配布は原紙保管部署が、本規定「6. 規定等の配布、管理」に準拠して管理する。
表1 文書化した情報として維持する文書
|
ISO 9001:2015 文書化した情報として維持(文書) |
文書 |
---|---|---|
1 |
4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定 組織の品質マネジメントシステムの適用範囲は,文書化した情報として利用可能な状態にし,維持しなければならない。 |
品質マニュアル |
2 |
4.4.2 組織は、必要な程度まで、次の事項を行わなければならない。 a)プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。 b)プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。 |
品質マニュアル 各規定 |
3 |
5.2.2 品質方針の伝達 a)文書化した情報として利用可能な状態にされ,維持される。 |
品質方針 |
4 |
6.2.1 品質目標及びそれを達成するための計画策定 組織は,品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない。 |
品質目標 品質目標計画 |
5 |
8.1 運用の計画及び管理 e)次の目的のために必要な程度の,文書化した情報の明確化、維持及び保持 1)プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつ。 2)製品及びサービスの要求事項への適合を実証する。 |
必要に応じて作成 規定(営業、外注・購買、設計・開発、製造) |
6 |
8.3.2 設計・開発の計画 j)設計・開発の要求事項を満たしていることを実証するために必要な文書化した情報 |
規定(設計・開発) |
7 |
8.5.1 製造及びサービス提供の管理 a)次の事項を定めた文書化した情報を利用できるようにする。 1)製造する製品,提供するサービス,又は実施する活動の特性。 2)達成すべき結果 |
規定(製造) |
表2 文書化した情報として保持する記録
|
ISO 9001:2015 文書化した情報として保持(記録) |
記録 |
---|---|---|
1 |
4.4.2 組織は、必要な程度まで,次の事項を行わなければならない。 b)プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。 |
規定(営業、外注・購買、設計・開発、製造) |
2 |
7.1.5.1 一般 組織は,監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。 |
規定(検査) |
3 |
7.1.5.2 測定のトレーサビリティ a)定められた間隔で又は使用前に,国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサブルである計量標準に照らして校正若しくは検証,又はそれらの両方を行う。そのような標準が存在しない場合には,校正又は検証に用いたよりどころを,文書化した情報として保持する。 |
検査設備台帳、 校正記録、校正に用いた基準の記録 過去の計測結果の妥当性評価の記録 校正及び検証結果の記録 |
4 |
7.2 力量 d)力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。 |
教育・訓練の記録など |
5 |
8.1 運用の計画及び管理 e)次の目的のために必要な程度の,文書化した情報の明確化、維持及び保持 1)プロセスが計画どおりに実施されたという確信をもつ。 2)製品及びサービスの要求事項への適合を実証する。 |
規定(設計・開発、製造、外注・購買) |
6 |
8.2.3.2 文書化した情報の保持 組織は,該当する場合には,必ず,次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。 a)レビューの結果 b)製品及びサービスに関する新たな要求事項 |
インプット情報書 規定(設計・開発、営業、外注・購買) |
7 |
8.3.3 設計・開発へのインプット 組織は,設計・開発へのインプットに関する文書化した情報を保持しなければならない。 |
インプット情報書 |
8 |
8.3.4 設計・開発の管理 f)これらの活動についての文書化した情報を保持する。 |
開発会議議事録、 試験結果報告書等 |
9 |
8.3.5 設計・開発からのアウトプット 組織は,設計・開発のアウトプットに関する文書化した情報を保持しなければならない。 |
規定(設計・開発) |
10 |
8.3.6 設計・開発の変更 組織は,次の事項に関する文書化した情報を保持しなければならない。 a)設計・開発の変更 b)レビューの結果 c)変更の許可 d)悪影響を防止するための処置 |
開発会議議事録 |
11 |
8.4.1 一般 組織は,これらの活動及びその評価によって生じる必要な処置について,文書化した情報を保持しなければならない。 |
新規購買取引先評価表、 継続取引先評価表 |
12 |
8.5.2 識別及びトレーサビリティ トレーサビリティが要求事項となっている場合には,組織は,アウトプットについて一意の識別を管理し,トレーサビリティを可能とするために必要な文書化した情報を保持しなければならない。 |
製造:工程内検査記録、日報 検査:検査記録 出荷:出荷記録など |
13 |
8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物 顧客若しくは外部提供者の所有物を紛失若しくは損傷した場合,又はその他これらが使用に適さないと判明した場合には,組織は,その旨を顧客又は外部提供者に報告し,発生した事柄について文書化した情報を保持しなければならない。 |
支給品不適合の記録 |
14 |
8.5.6 変更の管理 組織は,変更のレビューの結果,変更を正式に許可した人(又は人々)及びレビューから生じた必要な処置を記載した,文書化した情報を保持しなければならない。 |
規定(検査、設計・開発) |
15 |
8.6 製品及びサービスのリリース 組織は,製品及びサービスのリリースについて文書化した情報を保持しなければならない。これには,次の事項を含まなければならない。 a)合否判定基準への適合の証拠 b)リリースを正式に許可した人(又は人々)に対するトレーサビリティ |
検査記録 |
16 |
8.7.2 文書化した情報の保持 組織は次の事項を行った文書化した情報を保持しなければならない。 a)不適合が記載されている。 b)とった処置が記載されている。 c)取得した特別採用が記載されている。 d)不適合に関する処置について決定する権限をもつ者を特定している。 |
不適合品処理の記録、 不適合発生の記録、 特採申請書 |
17 |
9.1.1 一般 組織は,この結果の証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。 |
マネジメントレビュー実施結果 |
18 |
9.2.2 内部監査の実施 f)監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として,文書化した情報を保持する。 |
内部監査計画、 内部監査報告、 是正処置要求・報告(内部監査) |
19 |
9.3.3 マネジメントレビューからのアウトプット 組織は,マネジメントレビューの結果の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。 |
マネジメントレビュー実施結果 |
20 |
10.2.2 文書化した情報の保持 組織は,次に示す事項の証拠として,文書化した情報を保持しなければならない。 a)不適合の性質及びそれに対してとったあらゆる処置 b)是正処置の結果 |
是正処置報告書 |
表3 規定等の所管一覧
文書名 |
品証 |
営業 |
技術 |
購買 |
製造 |
管理 |
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品質マニュアル |
○ |
|
|
|
|
|
品質文書管理規定 |
○ |
|
|
|
|
|
内部監査規定 |
○ |
|
|
|
|
|
不適合品処理規定 |
○ |
|
|
|
|
|
是正処置規定 |
○ |
|
|
|
|
|
方針管理規定 |
○ |
|
|
|
|
|
教育・訓練規定 |
|
|
|
|
|
○ |
設計・開発管理規定 |
|
|
○ |
|
|
|
苦情処理規定 |
○ |
○ |
|
|
|
|
営業管理規定 |
|
○ |
|
|
|
|
外注・購買管理規定 |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
製造管理規定 |
|
|
|
○ |
○ |
|
検査業務規定 |
○ |
|
|
|
|
|
監視・測定機器管理規定 |
○ |
|
|
|
|
|
まとめ
ここでは、「品質マニュアル3.0」の関連規定の1つ、「品質文書管理規定」の一例について説明しました。