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苦情(クレーム)対応、不適合品処理、是正処置に関する規定の関係

品質マニュアルと規定

このブログで公開している苦情や不適合に関連するISO9001:2015版品質マニュアルの規定は、次の3つです。

苦情やクレームが起きた際に、クレーム関係者(窓口となる営業など)から、上記3つの規定の関係がよく分からないという声を聞きます。内部監査員からも3つの規定の関係性について同じ様な質問があります。

正直なところ、私自身も説明しにくいと思っていましたので、改めて苦情や不適合についてのISO9001の要求から、品質マニュアルと関連する規定について見直しました。また、苦情などの用語についても一緒に見直しました。

ここでは、苦情や不適合と是正の視点から、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の関係性と、苦情などの用語の見直しについて説明します。

社内で使っている苦情や是正に関する言葉を見直すことは、業務改善、顧客満足の向上につながる効果もあると考えています。

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苦情や不適合についてのISO9001の規格要求

まず、ISO9001:2015の要求事項から、苦情や不適合についての要求事項を振り返ります。

改めて見直した規格は、次の2つです。

JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語

JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項

不適合とは

不適合とは、要求事項を満たしていないことです。

「JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」から引用しますが、これだけでは分かりにくいです。

3.6.9 不適合(nonconformity)

要求事項(3.6.4)を満たしていないこと。

出典:「JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語」

ISO9001:2015の不適合及び是正処置

「JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」の不適合及び是正処置の要求事項を引用します。

10.2 不適合及び是正処置

10.2.1

苦情から生じたものを含め、不適合が発生した場合、組織は、次の事項を行わなければならない。

a)その不適合に対処し、該当する場合には、必ず、次の事項を行う。

1)その不適合を管理し、修正するための処置をとる。

2)その不適合によって起こった結果に対処する。

b)その不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため、次の事項によって、その不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価する。

1)その不適合をレビューし, 分析する。

2)その不適合の原因を明確にする。

3)類似の不適合の有無、又はそれが発生する可能性を明確にする。

c)必要な処置を実施する。

d)とった全ての是正処置の有効性をレビューする。

e)必要な場合には、計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。

f)必要な場合には、品質マネジメントシステムの変更を行う。

是正処置は、検出された不適合のもつ影響に応じたものでなければならない。

10.2.2

組織は、次に示す事項の証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。

a)不適合の性質及びそれに対してとったあらゆる処置

b)是正処置の結果

出典:「JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項」

上記の要求事項が求めていることをざっくりと意訳し、以下に列挙します。

  • 不適合が発生してしまった場合には、不適合に対応する(適切な処置をとる)。
  • 必要な場合には、再発防止策(是正処置)を取る。
  • 不適合の対応、再発防止策(是正処置)についての記録を残す。

なお、ここでいう不適合は、苦情や不適合(監視測定や内部監査で検出された不適合)のことです。

品質マニュアルに定めた不適合や是正対応

品質マニュアルには、上述の要求事項に対し、どのように対応するかが書かれています。

はかせ
はかせ

品質マニュアルで要求事項に対しどうするかは、各規定に定めることにしています。つまり、ISO9001野要求事項に対し、具体的にどの様に対応するかは、各規定に定めているということです。

このブログで紹介している品質マニュアルから、不適合や是正に関する部分を引用します。

8.7 不適合なアウトプットの管理(不適合品の管理)

8.7.1 不適合なアウトプットの識別・管理(不適合品の識別・管理)

要求事項に適合しないアウトプットが誤って使用される、又は提供されることを防ぐため、「不適合品処理規定」に従い、それらを識別し、管理する。

不適合の性質、並びにそれが製品及びサービスの適合に与える影響に基づき、適切な処置をとる。これは、製品の提供後、サービス提供中又は提供後に検出された、不適合な製品及びサービスにも適用する。

次の一つ以上の方法で、不適合なアウトプットを処理する。

a)修正(手直し) 修正後、要求事項への適合を検証する。

b)製品及びサービスの分離、散逸防止、返却又は提供停止

c)顧客への通知

d)特別採用による受入の正式な許可の取得

8.7.2 文書化した情報の保持(不適合品の記録)

「不適合品処理規定」に従い、不適合、とった処置、特別採用、及び不適合に関する処置について決定する権限をもつ人(又は人々)を特定している文書化した情報を保持する。

10.1 一般(改善の目的)

顧客要求事項を満たし、顧客満足を向上させるために、改善の機会を明確にし、選択し、また、必要な取組みを実施する。

これには、次の事項を含める。

a)要求事項を満たし将来のニーズ及び期待に取り組むための、製品及びサービスの改善

b)望ましくない影響の修正、防止又は低減

c)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性の改善

10.2 不適合及び是正処置(不適合の処理と再発防止対策)

10.2.1 不適合発生時の処置(対策の流れ)

苦情から生じたものを含め不適合が発生した場合、「不適合品処理規定」に従い対処し、修正するための処置をとる。

その不適合が再発又は他のところで発生しないようにするため、不適合をレビュー・分析し、原因、類似の不適合の有無、又はそれが発生する可能性を明確にし、不適合の原因を除去する処置をとる必要性を評価し、その処置を実施する。

是正処置は、検出された不適合のもつ影響に応じたものとし、「是正処置規定」に定める。

是正処置の有効性をレビューし、必要な場合には、計画の策定段階で決定したリスク及び機会の更新、品質マネジメントシステムの変更を行う。

10.2.2 文書化した情報の保持(対策の記録)

不適合の性質(特徴)及びそれに対してとったあらゆる処置、及び是正処置の結果について、文書化した情報を保持する。

10.3 継続的改善(継続的な改善活動)

品質方針、品質目標、監査結果、データの分析、是正処置及びマネジメントレビューを通じて、品質マネジメントシステムの適切性、妥当性及び有効性を継続的に改善する。

継続的改善の一環として取り組む必要性又は機会があるかを明確にするため、分析及び評価の結果、及びマネジメントレビューからのアウトプットを検討する。

規定に定めた不適合や是正対応を見直す

「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」にの内容を改めて見直してみると、下表の様になります。

規定名 内容
「苦情処理規定」 苦情やクレーム対応
「不適合品処理規定」 不適合品をどうするか(どのような処置をするか)
「是正処置規定」 不具合や不適合の対応手順
  • なお、内部監査規定は、是正処置を含んでいます。

3つの規定の文書に注目してみると、下表の様になります。

規定名 内容
「苦情処理規定」 不適合発生の報告、原因究明と対策
「不適合品処理規定」 苦情発生の報告、原因究明と対策、お客様への報告
「是正処置規定」 不適合や不具合の原因究明と対策、対策の有効性の評価(レビュー)結果

3つの規定の関係が分かりにくい理由

3つ規定、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の分かりにくい点について説明します。

不適合品の処理については、

  • 「不適合品処理規定」に従い実施し、是正処置については、「是正処置規定」を参照している。

苦情やクレームは、

  • 「苦情処理規定」に従い実施し、是正処置については、「是正処置規定」を参照している。

では、「是正処置規定」はどうなっているかというと、

  • クレーム処理と不適合対応が混在しいる。
  • 是正報告書はありきとなっている。

さらに実際の対応状況を考えて見ると、

  • 不適合品の原因究明や対策は、「不適合品処理規定」の帳票で対応できる。
  • 苦情やクレームの場合には、顧客への「不具合報告書」が必要な場合が多く、「是正処置報告書」との違いが分かりにくい。

ことになり、苦情やクレームに対して「是正処置報告書」の位置づけが分かりにくい原因ではないかと考えています。

不適合や是正に関する規定の見直し方

不適合や是正処置に関する規定の改訂について、次の様な方針(方向性)で進めたらよいと考えています。

「是正処置規定」は、

  • 苦情や不適合発生時の責任者、原因究明や対応手順を示したもの

です。

そこで、

  • 「是正処置規定」の内容を「苦情処理規定」と「不適合品処理規定」に盛り込む。
  • 「是正処置規定」は、廃止する。

のがよいと考えています。

ただし、「是正処置規定」を廃止するとなると、品質マニュアルと関連規定全体の見直しが必要となり、作業量が大きな改訂となります。

改訂作業を最小にする方向であれば、改訂方針として次の方法も考えられます。

  • 苦情やクレームの対応は、「苦情処理規定」で完結させる。
  • 不適合品の対応は、「不適合品処理規定」で完結させる。
  • 「是正処置規定」は残す。
    • 苦情や不適合の対応責任者、発生から、原因究明、対策、対策の有効性の評価(レビュー)の一般的な手順を示すのもとする。
    • 「是正処置報告書」は、「苦情処理規定」と「不適合品処理規定」に含める。

以上、不適合や是正処置に関する規定の改訂方法は、次の2つの方法があります。

  • A案
    • 「是正処置報告書」を廃止する。
    • 「是正処置規定」の内容を「苦情処理規定」と「不適合品処理規定」に盛り込みむ。
  • B案
    • 「是正処置規定」は残すが、内容は苦情や不適合が発生した場合の一般的な手順のみとする。
    • 具体的な是正処置(是正の進め方)については、「苦情処理規定」と「不適合品処理規定」に盛り込む。

しかし、せっかく改訂するのであれば、苦情などの用語や帳票名の見直しも併せて行うことをお勧めします。

苦情などの用語や帳票の見直し

ここまで、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の各規定の関係性について分かりにくいことについて説明してきました。

ここでは、苦情に関する言葉について気になっていることや対応(改善)方法について説明します。

以下の、規定名を見て何か違和感がありませんか?

  • 「苦情処理規定」
  • 「不適合品処理規定」
  • 「是正処置規定」

私だけでもないようですが、以下のことが気になります。

  • 「苦情処理」と言うけれど、苦情はお客様からが困っていたり、満足できていないからなのだから、処理ではなく対応の方がよいのではないか?
  • クレームについてお客様に報告する場合、不具合や不具合報告書といった言葉を使っている。
  • 起きてしまった不具合はどうにもならないので、再発防止が重要です。

改めて、苦情、クレーム、不適合の定義を意訳します。

  • 苦情とは、不具合や不適合になる恐れのあること。
  • クレームとは、不具合や不適合の結果。すぐに処置が必要なこと。
  • 不適合とは、要求事項(暗黙の了解や義務、ニーズや期待を含む)を満たしていないこと。

この様に言葉について見直してみると、少なくとも「苦情処理」には違和感を感じるのではないでしょうか?

3つの規定、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」に加え、用語まで見直すとなると、品質マニュアルを含め関連規定や帳票などの見直しも必要となり、作業的に大変です。

そこで、作業的に大変なことは、積極的に諦めて、3つの規定の改訂と用語の変更も併せて行ってみてはいかがでしょうか?

品質マニュアルも含みますので、2年計画で進める場合のイメージを列挙します。

はかせ
はかせ

いきなり改訂作業に入るのではなく、作業内容とボリュームを洗い出すことをお勧めします。

用語の見直しは、合意を得るのに時間がかかることが予想されますので、決め打ちで進めていき、最後にワードの置換で対応とするのもありと考えています。

  • 苦情と是正に関する3規定の見直し:
    • 「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の改訂。
    • この際、「是正処置規定」廃止も考慮する(まだ廃止はしない)。
    • 規定名の変更については、読み替えでの対応とする。
  • 用語の見直し:
    • クレーム → お客様の声
    • 苦情処理 → 不具合対応
    • 苦情 → ご指摘
    • 「苦情処理票」 → 「不具合レポート」
    • 「苦情・品質不良速報」 → 「不具合速報」
  • 品質マニュアルの改訂
  • 3規定以外の改訂
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まとめ

苦情やクレームが起きた際に、担当者から、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の関係がよく分からないという声を聞きます。内部監査員からも3つの規定の関係性について同じ様な質問があります。

正直なところ、私自身も説明しにくいと思っていましたので、改めて苦情や不適合についてのISO9001の要求から、品質マニュアルと関連する規定について見直しました。

ここでは、苦情や不適合と是正の視点から、「苦情処理規定」、「不適合品処理規定」及び「是正処置規定」の関係性と、苦情などの用語の見直しについて以下の項目で説明しました。

はかせ
はかせ

社内で使っている苦情や是正に関する言葉を見直すことは、業務改善、顧客満足の向上につながる効果もあると考えています。

  • 苦情や不適合についてのISO9001の規格要求
    • 不適合とは
    • ISO9001:2015の不適合及び是正処置
  • 品質マニュアルに定めた不適合や是正対応
    • 8.7 不適合なアウトプットの管理(不適合品の管理)
      • 8.7.1 不適合なアウトプットの識別・管理(不適合品の識別・管理)
      • 8.7.2 文書化した情報の保持(不適合品の記録)
    • 10.1 一般(改善の目的)
    • 10.2 不適合及び是正処置(不適合の処理と再発防止対策)
      • 10.2.1 不適合発生時の処置(対策の流れ)
      • 10.2.2 文書化した情報の保持(対策の記録)
    • 10.3 継続的改善(継続的な改善活動)
  • 規定に定めた不適合や是正対応を見直す
    • 3つの規定の関係が分かりにくい理由
  • 不適合や是正に関する規定の見直し方
    • 苦情などの用語や帳票の見直し
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