マネジメントシステムの要求規格の整合化が「附属書:共通テキスト」により図られ、2004年版の規格から逐次改訂されています。
2000年代初め頃になると思います。品質と環境の統合マネジメントシステム、統合マニュアルが話題になりました。私も調べてみましたが、次のように考え、最終的に品質と環境は分けた方がよいと考えています。
- マニュアルの維持管理という面では、統合マニュアルの方が容易
- 品質と環境マニュアルは分けた方が分かりやすく、使いやすい。
正直なところ品質と環境の要求事項を意識して統合マニュアル読むのは難しかったです。品質と環境とでは求めるものや運用も違いますし、マニュアルは実際に使うものなので分けた方がよいと考えています。
もっとも、2020年現在、マネジメントシステム要求規格の整合性が図られていますので、これから作るのであれば統合マニュアルもありなのかもしれません。
ここでは、「品質と環境の統合マニュアル」についてまとめておきます。
統合マニュアルについて考えるきっかけ
品質マニュアルと環境マニュアルの統合について考え始めるきっかけは、ISO9001:2000版品質マニュアル作成手伝いが終わり、認証取得も済んだ頃だったと思います。
博士(はかせ)、環境は必要だと思う?
当時(2000年前後)の私の回答は、次の様な内容でした。
環境(ISO14001)は、入札条件に含まれているようなこともないし、当面必要ないと思います。
とはいえ、品質マネジメントに加え、環境マネジメントの認証を取得する場合には、次の方法があります。
- 品質マネジメントシステムに加え環境マネジメントシステムを導入する。
- 品質マネジメントシステムに環境マネジメントシステムを加えた統合マネジメントシステムを導入する。
マニュアルと関連規定づくりからみると、
- 品質マニュアルと環境マニュアルの2本立てとする。
- 統合マニュアルに1本化する。
方法があります。
そこで、環境マネジメントの要求事項に加え、統合マネジメントシステムについて、関連書籍などで情報を集め勉強した覚えがあります。
統合マニュアルのメリット、デメリット
2015年版の要求事項に対応した「品質マニュアル」と「環境マニュアル」を実際に作ってみて、統合マニュアルについての私の結論は、
- 「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てとする。
- 「統合マニュアル」は、採用しない。
となります。
「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てのメリット
「品質マニュアル」と「環境マニュアル」とに分けた場合のメリットについて列挙します。
- 分かりやすい。
- マニュアルを作りやすい。
- つまり、その後の改訂もやりやすい。
つまり、品質に関する部分は「品質マニュアル」について考えればよいということにつきます。
環境についても同様です。
その理由を考えてみると、附属書によりマネジメントシステム要求事項の整合化が進んでいるものの、品質マネジメントと環境マネジメントとは、その目指すところは同じだとしても、実際にやることの差が大きいからです。
端的に言えば、
- 品質マネジメントは、自社で定めたルールを守る
- 環境マネジメントは、法令を守る
といった違いがあります。
「統合マニュアル」のデメリットとして考えられることを以下に列挙します。
- 要求事項の二重性(同じような要求なのに品質マニュアルと環境マニュアルとで完全一致は難しい。)
- 統合マニュアルの場合、品質と環境に合わせるため、どうしても記載内容があいまいになる。このため、多かれ少なかれ解釈が必要になってしまう。
- 管理責任者を含め説明が難しくなる。言葉を換えるとISOの要求事項という知識の勉強が必要になってしまう。
- これらの結果として、作った人にしか分からない、使えないマニュアルになってしまう。
「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てのデメリット
「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てにすると、当然のことながら文書量は増えてしまいます。
そのため、以下の方針で「環境マニュアル」と「関連規定」を作りました。
- 「環境マニュアル」の関連規定は極力作らず、「環境マニュアル」に含めてしまう。
- 「品質マニュアル」と共通化した規定についての補足事項等は、「環境マニュアル」に含めてしまう。
「統合マニュアル」にもメリットはあります。
文書管理上は、1つにまとまっている方が管理はしやすいのは明らかなのですが、それ以外に「統合マニュアル」のメリットが思いつきません。
品質(QMS)と環境(EMS)の違い
すでに触れている部分もありますが、品質(QMS)と環境(EMS)の違いについてまとめます。
品質マニュアルは、マネジメントシステムの基本ではあるが、モノづくりの仕組みについての仕組みです。
環境マニュアルは、製造だけでなくその会社の事業活動による、その地域における環境法令の順守や災害等による地域への悪影響防止などについての仕組みです。
附属書により、マネジメントシステム規格の整合化が図られるようになった背景には、極論になりますが「統合マニュアルは現実的には使いにくいものだった。」ということがあるのかもしれません。これは、審査側でも実際に使う側の双方においてということです。
「餅は餅屋」ということでしょうか。
まとめ
ここでは、2015年版の「品質マニュアル」に加え、「環境マニュアル」ができあがりましたので、改めて「品質と環境の統合マニュアル」について、以下の項目でまとめました。
- 統合マニュアルについて考えるきっかけ
- 統合マニュアルのメリット、デメリット
- 「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てのメリット
- 「品質マニュアル」と「環境マニュアル」の2本立てのデメリット
- 品質(QMS)と環境(EMS)の違い