航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の中に、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。
ここでは、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の紹介をしながら、モノづくりの不具合の1つでありながら、非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーについて考えていきます。
航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなりますし、航空・宇宙以外のモノづくりの参考やヒントにもなるのではないでしょうか。
ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトには、JAXA共通技術文書が公開されています。
JAXA共通技術文書の中から、「2.技術要求・ガイドライン文書」の「1.共通」の1つに文書に、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。
ここでは、モノづくりの不具合の1つでありながら、非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーについて考えていきます。
「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の目的
「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」のPDFは、153ページあります。
本文は半分ほどですが、それでもかなりの文書量になります。それだけ、ヒューマンエラー対策は重要だということでもあります。
ハンドブックながら表現が固いのですが、目的を引用します。(見やすくするため改行を追加しています。)
1.1 目的
本書は、宇宙開発において発生したヒューマンエラーに起因する不具合の再発防止および未然防止に向けて、ヒューマンエラーを引き起こす要因を明らかにし、対策を講じることを目的とした分析手法、対策の考え方、および必要な基礎知識を解説したハンドブックである。
宇宙開発におけるヒューマンエラーの要因例やよく使われる分析手法を調査、検討し、作成したものである。
特に、重大な不具合からヒューマンファクタを抽出して、より効果的な再発防止対策を立案したり、品質システムの抜本的な改善活動に本書を利用することが期待される。
出典:JAXA「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」より
「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の構成
「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」には、ヒューマンエラー防止活動として次の例が挙げられています。
- ヒューマンエラーによる設計不良の防止
- ヒューマンエラーによる検査漏れ、誤評価の防止
- ヒューマンエラーによる運用ミスの防止
ヒューマンエラー防止活動について、以下の構成となっています。
- ヒューマンエラー防止の考え方を理解する(5 基礎知識編)
- ヒューマンエラー起因不具合を分析する(6 分析手法編)
- 再発防止策を検討すると未然防止策を検討する(7 対策編)
以下、私が気になった、参考になった、もう少し勉強した方がよいと思ったことについて紹介します。
ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは人によるミスのことです。
ハンドブックのヒューマンエラーをオミッションエラーとコミッションエラーの2つに分類する方法が紹介されています。
さらに、ヒューマンエラーとは別に「違反」というものが定義されています。
オミッションエラーやコミッションエラーは、耳慣れない言葉でしたが、内容が分かれば何か特別なものではないということが分かります。
また、ヒューマンエラーとは違う「違反」の考え方も勉強になりました。
以下、オミッションエラー、コミッションエラー、及び、違反について説明します。
オミッションエラー(Omission Error)とは
オミッションエラー(Omission Error)とは、
ヒューマンエラーの原因が、「すべきことをしない(省略する)こと」により生じるエラーのことです。
オミッションエラーには、以下のエラーが含まれます。
- やるべきことをやらなかった。省いた(飛ばし、抜け:狭義のOmission Error)。
- やるべきことをしたが不完全(一部不足、不十分)だった。
コミッションエラー(Commission Error)とは
コミッションエラー(Commission Error)とは、
ヒューマンエラーの原因が、「してはいけないことをする(間違い)」により生じるエラーのことです。
コミッションエラーには、以下のエラーが含まれます。
- 要求されていることと違うことをした(やり間違い:狭義の Commission Error)。
- 要求されていない余計なことをした。
- すべきことの順序が違う。
- タイミング的に不当なことをした。
違反
オミッションエラーとコミッションエラーは、行ったこと(行為)が「わざとではない」、「意図してやったわけではない」といった、無意識のうちに行われたこと(意識してやったことではないこと)です。
一見するとヒューマンエラーの様に見えますが、原因を調べていくと、意識してやった結果エラーが発生したという場合があります。
例えば、「面倒だったので、・・・しました。」、「こうした方がよかれと思い・・・しました。」といった理由で行ったことが、結果的にエラーになってしまった場合のことです。
そこで、意識的に(意図的に)、自らやろうと判断して行った場合には、ヒューマンエラーと区別して「違反」と呼んでいます。
当事者は「もっと効率的に・・・。」、「自分が遅れて迷惑にならないように・・・。」といった善意や好奇心などから「違反」をしてしまいます。
この「違反」の背景には、「ルールを守る意識が薄れている」、「本来不要な作業や手順である。」、「手続きが面倒」などの様な、管理面やシステムとしての問題が隠れています。
このため、「違反」に対しては、組織的な問題としてとらえ、ヒューマンエラーと同様に原因トライ策を進める必要があります。
ヒューマンエラーにより不具合や事故が起きる理由
1つのヒューマンエラーにより、重大な不具合や事故につながるケースは多くありません。
ヒューマンエラーの前後のプロセスにおいて、様々な形で不適切なこと(事象)が重なった結果、重大な不具合や事故が発生しています。
航空機分野等では、このことが「事象のチェーン(エラーチェーン)」として知られています。
図の方が言葉よりイメージしやすいと思いますので、下図を「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」から転載しました。
図1 事象のチェーン
出典:JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトのJAXA共通技術文書「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」(p.7)より
まとめ
航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」を読んでいます。
航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなりますし、航空・宇宙以外のモノづくりの参考やヒントにもなるのではないでしょうか。
ここでは、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の紹介と、モノづくりの非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーについて、以下の項目でまとめました。
- ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
- 「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の目的
- 「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」の構成
- ヒューマンエラーとは
- オミッションエラー(Omission Error)とは
- コミッションエラー(Commission Error)とは
- 違反
- ヒューマンエラーにより不具合や事故が起きる理由