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JAXAに学ぶヒューマンエラー:ヒューマンエラーの対策

航空宇宙のモノづくり

「JAXAに学ぶヒューマンエラー」の記事も、いよいよ対策の説明まできました。

ISO9100や宇宙開発というと、ISO9001でモノづくりをやっていても少々敷居が高く、参考になることが本当にあるのかと思うこともありましたが、ここまでやってきました。

はじめてみると実行は難しいと思うこともあれば、参考になることもあり、品質マネジメントの継続的改善は、ここがゴールがあるようなものではないのだなと改めて感じています。

航空・宇宙のモノづくりにおいて、実際どのようなことが求められているのかを知るヒントとして、日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の中に、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。

ここでは、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」を参考にして、モノづくりの不具合の1つでありながら、非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーの対策についてまとめています。

ヒューマンエラー対策の基本的な考え方や対策はもちろんのこと、未然防止についても航空・宇宙のモノづくりにおける品質保証の一端を知るきっかけにもなりますし、航空・宇宙以外のモノづくりの参考やヒントにもなるのではないでしょうか。

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ヒューマンエラー対策の前に

ヒューマンエラーがきっかけで不具合が起きてしまった、あるいは、ヒューマンエラーが起きそうな要因が事前に分かった場合には、ヒューマンエラーの原因を調べ対策を検討します。

ヒューマンエラーの原因が分かると具体的な対策の検討を始めることができます。

ヒューマンエラーに限定したことではありませんが、不具合対応のプロセスは次の3つに分けることができます。

  • 不具合の要因(発生と流出の要因)の究明
  • 原因に対する対策(再発防止策)
  • 対策の実施と有効性の確認

実際に、不具合が発生して対応する時には、

暫定対策(応急処置)により不具合範囲を小さくする

ことが必要になりますので、不具合要因の究明、再発防止策、対策の実施は、各プロセスを段階的に進めると言うよりは、各プロセスを小さく速く繰り返していくイメージになります。

再発防止策の有効性の確認については、不具合対応の中で行った個別の対応を含めて再発防止策の有効性(不具合の再発がないかの確認)を振り返りまとめておくと、次の様な効果があります。

  • 類似の不具合発生の防止(未然防止)
  • 起きてしまった不具合に対する対応方法についてのノウハウ

不具合が落ち着いてから記録を整理して振り返りをしようと考えていると、結局記録が散逸してしまいがちです。

慣れるまで面倒かもしれませんが、時系列で記録を残しておくことを習慣づけることが重要です。

はかせ
はかせ

例えば、メールや写真はPDFにしておくと、調べたり、説明したりするときに便利です。

ヒューマンエラー起因の不具合の対策について、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」から紹介します。

ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは

JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトには、JAXA共通技術文書が公開されています。

JAXA共通技術文書の中から、「2.技術要求・ガイドライン文書」の「1.共通」の1つに文書に、「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」があります。

ヒューマンエラーの対策

ヒューマンエラーの対策について、基本的な考え方と対策例について説明します。

基本的な対策については、以下のことを説明します。

  • 対策立案の視点や防止対策のカテゴリー
  • 有効な対策を行うための基本的な事項
  • 対策の妥当性の確認
  • 対策実施に向けての注意事項

対策例については、未然防止についても説明します。

ヒューマンエラー対策の基本的な考え方

ヒューマンエラーに限ったことではありませんが、対策を立てる場合、次のことを考慮します。

  • 現実的な制約になること(制約条件)を考慮する。
  • 対策に優先順位をつける。
  • 対策実施に当たり注意すべきことがある。

対策を立てる際の視点

ヒューマンエラーを防ぐ対策を考える場合、次の2つの段階に分けて検討します。

  • ヒューマンエラーの発生防止
  • ヒューマンエラーの拡大防止

「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」から引用したヒューマンエラーの発生防止と拡大防止の概念図です。

戦略的エラー対策:4STEP/Mと3つのステップとの関係

戦略的エラー対策:4STEP/Mと3つのステップとの関係

図1 戦略的エラー対策:4STEP/Mと3つのステップとの関係

出典:JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトのJAXA共通技術文書「JERG-0-018 ヒューマンファクタ分析ハンドブック」(p.43)より

上図を使い、ヒューマンエラーの発生防止(4STEP)と拡大防止について説明します。

ヒューマンエラーの発生防止段階では、できるだけヒューマンエラーの数を少なくするため、第1ステップと第2ステップを実現できるような対策を検討します。

  • 第1ステップ:作業の数を減らす。(図1のSTEP I)
  • 第2ステップ:各作業でのエラーの発生率を減らす。(図1のSTEP II)

次の第3ステップ、第4ステップは、次のことを前提として(受け入れて)います。

  • どれほどヒューマンエラーの発生防止策をとったとしても、対策できることには限界があること
  • つまり、ヒューマンエラーは避けられないこと

この前提で、第3、第4ステップを実現できるような対策を検討します。

  • 第3ステップ:エラーを見つける(みつけて修正する)。(図1のSTEP III)
  • 第4ステップ:エラーによる被害(影響)を最小とするために備える。(図1のSTEP IV)

上述の第1から第4ステップの各段階について、図1には以下に示す11段階のヒューマンエラー対策の発想手順が示されています。また、図1には、合わせてヒューマンエラーの防止、早期検出とリカバリー、影響緩和との対応関係も示されています。

この手順に従うことで、ヒューマンエラー対策を考える助けとなります。

これらを表にすると下表のイメージになります。

    • 個人への対策は、下表の5~9(図1の5~9段階)になります。
1 やめる(なくす) STEP 1:作業の数を減らす。 ヒューマンエラーの防止
2 できないようにする STEP II:各作業でのエラーの発生率を減らす。
3 わかりやすくする
4 やりやすくする
5 知覚させる エラーをしない様に力量向上
6 認知・予測させる
7 安全を優先させる
8 能力をもたせる
9 自分できづかせる STEP III:エラーを見つける(みつけて修正する) ヒューマンエラーの検出・リカバリー
10 検出する
11 備える STEP IV:エラーによる被害(影響)を最小とするために備える ヒューマンエラーの影響緩和

対策を立てる際の考慮事項

ヒューマンエラー対策を立てる場合には、以下のことを考慮します。

  • 現場を無視した観念的対策(事実に即さないこと、机上の空論など)を取り除く。
  • 同じ作業をしている他の組織(チーム)について調べる。
  • これまでに発生した同種(場合によっては類似)の不具合対策が有効でなかったことを振り返る(対策が無効だったことの反省)。
  • 何のために対策しようとしているのか、その目的や作業そのものが不要なのかを含むブレーン・ストーミングを行う。
  • 現場作業者や設計からのグッド・アイデア(ヒント)を集める。
  • ハードウェア対策の工夫できることはないかを含める。

対策防止のカテゴリー

「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」には、対策立案のヒントとして、ヒューマンエラー防止対策のカテゴリーについても説明されています。

カテゴリー分けして、具体例、外的・内的要因、対策の種類についてまとめられていますので、詳細は、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」をご参照ください。

カテゴリーと対策の種類は、以下の通りです。

  • エラー防止
    • 意識の一般的強化・啓蒙
    • 意識の個別強化
    • 教育・訓練
    • 模擬体験的訓練
    • 隔離化
    • 人間工学的配慮
    • 作業改善
    • マニュアル類の改良・補完
    • 機械化・自動化

  • 検出・リカバリー
    • 規律化・習慣づけ
    • 冗長化
  • エラーの影響緩和

対策の妥当性検証

対策の妥当性を検証するのは、意外に難しいものです。

「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」では、以下の7つにカテゴリー分けしたヒューマンエラー対策の妥当性チェックリストが紹介されています。

  • 確実性
  • 永続性
  • 具体性
  • 整合性
  • 経済性
  • 転用可能性
  • 即効性

確実性の説明として「要因をきちんと潰せているか」をチェック項目としており、組織(チーム)や業務内容によって、確実性とはどういうことなのかを定義しておくことがポイントだと考えています。

はかせ
はかせ

内部監査員用のチェックリストにも通じるポイントです。

対策を実施する際の注意事項

ヒューマンエラー対策ができたら実施するわけですが、この際の注意事項について、説明します。

1つの対策でよしとせず、多重にとる。

二重三重の対策(バックアップ)を取るという意味合いだと考えていますが、やり過ぎない様に注意が必要です。

  • 何のためのヒューマンエラー対策なのか忘れないことがポイントです。
  • 個人の注意力に頼るのではなく、できるだけ環境への対策を優先することと多面的(多重的)に対策を取ることが重要です。

なお、対策内容によっては、ヒューマンエラー要因の緩和策など、即効性に欠けるものもありますが、漢方薬的な持続性や体質改善を期待できる効果もあります。「ヒューマンエラーへの対策は多重に」との意味合いは、この様なところにもあります。

対策実施に向けての具体化

決められた対策を実際にやろうとしてから、実施方法の具体性が不十分であることに気づく場合があります。

  • 対策について「誰が、いつまでに、どのように、誰に対して」等を洗い出し、「どうやって(どの様に)?」や「だからどうする?」といった視点で対策実施について、具体的に整理していきます。
  • 特に「誰が」やるのかと、責任者を明確にしておくことがポイントです。

対策実施状況のフォロー

対策の実施状況は、定期的な会議(例えば安全に関する会議)などでフォローすることが必要である。

その後、対策が的確に実施されたかどうかを確認し、効果について評価する。特に重要なことは、「(対策を実施したことにより)別の問題が発生していないか」ということである[11]。あるエラー防止対策を実施すると、その対策が別のヒューマンエラーやエラーを引き起こす可能性がある(例えば、作業のしやすさ改善のために照明を付けたが、そのコードでつまずく、等)。そのような問題は発生していないか確認する必要がある。

ヒューマンエラー対策の例

「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」には、ヒューマンエラー防止策のカテゴリーごとの具体的な対策例が説明されています。

ここでは、具体的な対策例の項目(目次タイトル)のみ紹介します。

7.2.1 意識の一般的強化・啓蒙

7.2.2 意識の個別強化

7.2.3 教育・訓練

7.2.4 規律化・習慣づけ

7.2.5 模擬体験的訓練

7.2.6 隔離化

7.2.7 冗長化

7.2.8 人間工学的配慮

7.2.9 作業改善

7.2.10 マニュアル類の改良・補完

7.2.11 エラーの影響緩和

7.2.12 機械化・自動化

未然防止に向けた対策例

ISO9001の2015版では、「未然防止」という言葉は使われなくなりましたが、未然防止がなくなったわけではありません。

ここでは、未然防止(ヒューマンエラーのリスク低減)に向けた対策について説明します。

3H:「初めて、久しぶり、変更」

未然防止(ヒューマンエラーのリスク低減)に有効な視点として、「初めて、久しぶり、変更」の3Hがあります。

「初めて」、「変更」、「久しぶり」に該当する場合には、「ヒューマンエラーが起きやすい(リスクが高い)」と考え、注意喚起、再点検、再確認などを行うことで、ヒューマンエラー発生を防止することができます。

毎日の朝礼などの機会を利用して3Hの視点で注意喚起を行うことも有効です。

ヒヤリハット活動

ヒューマンエラーの未然防止のポイントは、「兆候をつかんで、エラー(ミス)が小さいうちに適切な処置をする」ことです。

ヒヤリハットは、一般に事故や作業者の命(安全)に関わる事象を対象にしていますが、宇宙開発においては重要な不具合を引き起こすかもしれなかった事象を「品質ヒヤリハット」と定義しています。

ヒヤリハットとハインリッヒについては、以下の記事をご参照ください。

作業工程管理チャート

仕事をするときは、各工程において、工程作業を担当する1人1人が、作業の誤りの原因(要因)を取り除き、担当作業最初から正しく行うことが必要になります。

この時のポイントは、次の 3 点です。

  • できるだけ工程の上流で始末する(源流管理、自工程完結)。
  • 次の工程にエラーの要因を送らない(次工程はお客様)。
  • 必ず事前に検証する。

もう少し分かりやすい言葉にすると、次のことになります。

  • 欠陥品(不良品)は「入れない」、「つくらない」、「出さない」
  • 現物(品)、現場、現実の3現主義

こうすることで、ヒューマンエラーを防止し、改善を続けることができ、仕事を最初から正しく行うことができるようになります。

工程管理チャートとは、このような仕事の流れの中で、どの時点でどんなことが起こり易いかを正確につかみ、エラーを防止する具体策を反映させ、着実に実行できるかを表したものです。

工程管理チャートの詳細は、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」をご参照ください。

職場改善による未然防止活動

職場改善による未然防止活動とは、次のことです。

  • ヒヤリハットが起きる前の「潜在的なヒヤリハット(カモしれない)」に着目する。
  • そのような状態が引き起こされそうな要因、すなわち1人1人が「やりにくい作業、環境等」を洗い出し、その芽を摘み取る(=要因の排除・緩和策を実行する)。

「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」では、他産業(石油プラントメーカー)における活動が紹介されています。

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まとめ

「JAXAに学ぶヒューマンエラー」の記事も、いよいよ対策の説明まできました。

ISO9100や宇宙開発というと、ISO9001でモノづくりをやっていても少々敷居が高く、参考になることが本当にあるのかと思いつつ、はじめてみると実行は難しいかなと思うこともあれば、参考になることもあり、品質マネジメントの継続的改善には、ここがゴールがあるようなものではないのだなと感じています。

ここでは、「ヒューマンファクタ分析ハンドブック」を参考にして、モノづくりの不具合の1つでありながら、非常に悩ましい課題でもあるヒューマンエラーの対策について説明しました。

  • ヒューマンエラー対策の前に
    • ヒューマンファクタ分析ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
  • ヒューマンエラーの対策
  • ヒューマンエラー対策の基本的な考え方
    • 対策を立てる際の視点
    • 対策を立てる際の考慮事項
    • 対策防止のカテゴリー
    • 対策の妥当性検証
    • 対策を実施する際の注意事項
      • 1つの対策でよしとせず、多重にとる。
      • 対策実施に向けての具体化
      • 対策実施状況のフォロー
  • ヒューマンエラー対策の例
  • 未然防止に向けた対策例
    • 3H:「初めて、久しぶり、変更」
    • ヒヤリハット活動
    • 作業工程管理チャート
    • 職場改善による未然防止活動
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