ISO9001(JISQ9001)品質マニュアル類の改訂を進めたり、内部監査などを利用して会社全体の品質マネジメントシステムを改善するヒントになるのではと思い、JISQ9100を読み始め、現在「8 運用」まできました。
ISO9100(JISQ9100:2016)の「8 運用」は、ISO9001(JISQ9001:2015)と比べると、新規の要求事項もあり、文字数でざっと倍ほどのボリュームとなっていてほぼ別物と考えています。
ISO9100(日本語版はJISQ9100)は、航空、宇宙及び防衛分野向けの品質マネジメントシステム(ISO9001)のセクター規格です。
日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016
品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項
Quality management systems- Requirements for aviation, space and defense organizations
「8 運用」については、ISO9100(JISQ9100:2016)とISO9001(JISQ9001:2015)との違いが大きいため、複数回に分けて説明します。
ここでは、ISO9100の以下の「8 運用」のうち、「8.1 運用の計画及び管理」と「8.2 製品及びサービスに関する要求事項」について説明します。
8.1 運用の計画及び管理 ⇐ ここ
8.2 製品及びサービスに関する要求事項 ⇐ ここ
ISO9100の「8 運用」
QMSの主役といってよいのが「8 運用」で、要求されているのは次の事項です。
8.1 運用の計画及び管理
8.2 製品及びサービスに関する要求事項
8.3 製品及びサービスの設計・開発
8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理
8.5 製造及びサービス提供
8.6 製品及びサービスのリリース
8.7 不適合なアウトプットの管理
以下、「8.1 運用の計画及び管理」と「8.2 製品及びサービスに関する要求事項」について説明します。
8.1 運用の計画及び管理
ISO9100(JISQ9100:2016)の「8 運用」の「8.1 運用の計画及び管理」において、ISO9001(JISQ9001:2015)に追加されている内容を説明します。
「8.1 運用の計画及び管理」には、以下の4つの箇条がありますが、全ての新しい箇条です。
8.1.1 運用リスクマネジメント
8.1.2 形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)
8.1.3 製品安全
8.1.4 模倣品の防止
「8.1 運用の計画及び管理」に追加されている要求について、特に大きな変更となっている部分について説明します。
a) 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
「a) 製品及びサービスに関する要求事項の明確化」に追加されている注記を引用します。
製品やサービスに関する要求事項において、明確にすることが具体的に示されています。
注記 製品及びサービスに対する要求事項の明確化には、次の事項に関する考慮を含むことが望ましい。
− 人の安全及び製品安全
− 製造性及び検査性
− 信頼性、アベイラビリティ及び保全性(整備性)
− 製品に使用される部品及び材料の適切性
− 製品に組み込まれるソフトウェアの選定及び開発
− 製品の旧式化・枯渇(obsolescence)
− 異物の混入防止、検出及び除去
− 取扱い、包装及び保存
− 使用されなくなった際の製品のリサイクル又は最終廃棄
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
b) 次の事項に関する基準の設定
「b) 次の事項に関する基準の設定」に追加されている注記を引用します。
設計検証、工程管理、及び、故障モード・影響及び致命度解析(FMECA)に使える統計的手法についても具体的に示されています。
注記 製品の特性及び規定要求事項に応じて、次の事項の補助として、統計的手法を用いることができる。
− 設計検証[例えば、信頼性、保全性(整備性)、製品安全]
− 工程管理:
・ キー特性の選定及び検証
・ 工程能力の測定
・ 統計的な工程管理
・ 実験計画 − 検証
− 故障モード・影響及び致命度解析(FMECA)
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
その他の追加された要求事項
ISO9001のa)からe)に加え、以下に引用するf)からj)が追加されています。
f) クリティカルアイテムをマネジメントするために必要なプロセス及び管理の明確化。そのプロセスは、キー特性が識別されている場合の工程管理を含む。
g) 運用の計画及び管理に対して影響を受ける組織機能の代表者の参加
h) 製品及びサービスの使用及び保守(整備)を支援するためのプロセス及び資源の明確化
i) 外部提供者から取得する製品及びサービスの明確化
j) 不適合な製品及びサービスの顧客への納入を防止するために必要な管理の確立
注記 運用の計画及び管理を達成する一つの方法は、統合された段階的なプロセスを使用することによって実現可能である。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
さらに、条文としてプロジェクトマネジメントに相当する以下の内容が追加されています。
組織は、組織、顧客要求事項並びに製品及びサービスに応じて適切に、資源及びスケジュールの制約内で、要求事項を受容可能なリスクの下で満たすために、スケジュールどおり計画した順番で実施すべき事項を含め、体系化され、管理された方法で製品及びサービスの提供を計画し、マネジメントしなければならない。
注記 この活動は、通常、プロジェクト計画、プロジェクトマネジメント又はプログラムマネジメントと呼ばれる。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
プロジェクトマネジメントについては、「JIS Q 21500:2018(ISO 21500:2012)プロジェクトマネジメントの手引」を含め、以下のページにまとめていますのでご参照ください。
計画のアウトプットについても以下の注記が追加されています。
注記 この計画の一つのアウトプットとして、特定の製品、サービス、プロジェクト又は契約に適用される、品質マネジメントシステムのプロセス及び資源を規定する文書化した情報は、品質計画書と呼ばれる。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
さらに外部委託についてリスクマネジメントに関する内容が追加されています。
言葉通りに受け取るとなかなかのプレッシャーを感じますが、航空、宇宙や防衛産業の品質マネジメントと考えると納得のいく内容だと考えています。
要求事項に対する作業の継続的な適合を確実にするため、組織は、一時的又は恒久的な作業移管を計画及び管理するためのプロセスを確立し、実施し、維持しなければならない。そのプロセスによって、作業移管の影響及びリスクがマネジメントされることを確実にしなければならない。
注記 組織から外部提供者へ、又は外部提供者から他の外部提供者への作業移管については、8.4 を参照する。組織のある施設から他の施設へ、外部提供者から組織への作業移管の管理については、8.5 を参照する。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.1.1 運用リスクマネジメント:追加要求事項
「8.1.1 運用リスクマネジメント」の本文のみ引用します。
リスクマネジメントの基本的なことが要求されています。
組織は、適用される要求事項の達成に向けた運用リスクを管理するため、組織並びに製品及びサービスに応じて適切に、次の事項を含むプロセスを計画し、実施し、管理しなければならない。
a) 運用リスクマネジメントのための責任の割当て
b) リスクアセスメント基準(例えば、発生確率、影響の程度、リスクの受容)の決定
c) 運用(箇条 8)を通してリスクの特定、アセスメント及びコミュニケーション
d) 決定したリスク受容基準を超えるリスクを軽減する処置の特定、実施及び管理
e) 軽減処置を実施した後の残留リスクの受容
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.1.2 形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)
「8.1.2 形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)」について引用します。
形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)とは、耳慣れない言葉ではありますが、製品ライフサイクルにおいて形態(要求、設計、形状など)が変化することを前提にした管理について要求されています。
組織は、製品ライフサイクルを通じて、物理的及び機能的属性の識別及び管理を確実にするため、組織並びに製品及びサービスに応じて適切に、形態管理のプロセスを計画し、実施し、管理しなければならない。このプロセスは、次の事項を実施しなければならない。
a) 識別された変更の実施を含む、製品識別及び要求事項へのトレーサビリティを管理する。
b) 文書化した情報(例えば、要求事項、設計、検証、妥当性確認及び合否判定に関わる文書類)が、製品及びサービスの実際の属性に整合していることを確実にする。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.1.3 製品安全
「8.1.3 製品安全」について引用します。
航空、宇宙や防衛産業の製品安全について、例えば航空機を思い浮かべると製品安全に関する要求内容を理解しやすいと思います。
組織は、組織及び製品に応じて適切に、製品ライフサイクル全体で製品安全を保証するために必要なプロセスを計画し、実施し、管理しなければならない。
注記 これらのプロセスの例は、次の事項を含む。
− ハザード(hazards)の評価及び関連するリスクのマネジメント(8.1.1 参照)
− 安全クリティカルアイテムの管理
− 製品安全に影響を与える発生した事象の分析及び報告
− これらの事象の伝達及び人々の訓練
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.1.4 模倣品の防止
「8.1.4 模倣品の防止」について本文のみ引用します。
事実上の全数管理が部品レベルまで要求されていることだと考えています。
組織は、組織及び製品に応じて適切に、模倣品又は模倣品の疑いのある製品の使用、及びそれらが顧客へ納入する製品に混入することを防止するプロセスを、計画し、実施し、管理しなければならない。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
なお、模倣品の定義をISO9100の「3 用語及び定義」から引用します。
3.1 模倣品(counterfeit part)
正規製造業者又は承認された製造業者の純正指定品として、故意に偽られた無許可の複製品、偽物、代用品又は改造部品(例えば、材料、部品、コンポーネント)。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.2 製品及びサービスに関する要求事項
「8.2 製品及びサービスに関する要求事項」については、以下の箇条に追加があります。
8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー
8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
「8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化」に追加されているc)とe)を引用します。
特別要求事項や運用リスクについても具体的に要求されています。
c) 製品及びサービスに関わる特別要求事項が明確化されている。
d) 運用リスク(例えば、新技術、製造能力及び生産能力、短納期)が特定されている。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
なお、特別要求事項の定義をISO9100の「3 用語及び定義」から引用します。
3.5 特別要求事項(special requirements)
顧客によって識別された、又は組織によって明確化された要求事項であり、満たされないという高いリスクを伴うため、運用リスクマネジメントプロセスの対象としなければならない要求事項。特別要求事項の明確化に用いられる要素は、製品又はプロセスの複雑さ、過去の経験、及び製品又はプロセスの成熟度 を含む。特別要求事項の例には、顧客によって課せられた産業界の能力の限界にある性能要求事項、又は組織が自らの技術若しくはプロセス能力の限界にあると判定した要求事項が含まれる。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー
「8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー」の8.2.3.1に追加されている内容を引用します。
顧客要求事項を満たせないとレビューで判定する場合には、顧客と相互に受け入れ可能な交渉を行うことが求められています。
顧客要求事項を満足できないと判定しなければならない場合には、ではどうするかについて顧客との交渉をすることが求められています。
このレビューは、組織の該当する機能と調整しなければならない。
レビューにおいて、顧客要求事項が満たされない又は部分的にしか満たされないということを組織が判定する場合、組織は、相互に受入れ可能な要求事項を顧客と交渉しなければならない。
引用先:「日本工業規格(日本産業規格) JIS Q 9100:2016 品質マネジメントシステム− 航空,宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」より
参考:日本産業標準調査会の「JIS検索」
JIS規格は、ネットで見ることができます。
日本産業標準調査会(JISC)の「JIS検索」のリンク先を紹介します。
検索の仕方は、以下のリンク先を参照してください。
まとめ
ISO9001(JISQ9001)品質マニュアル類の改訂を進めたり、内部監査などを利用して会社全体の品質マネジメントシステムを改善するヒントになるのではと思い、JISQ9100を読み進めています。
ここでは、ISO9100の以下の「8 運用」のうち、「8.1 運用の計画及び管理」と「8.2 製品及びサービスに関する要求事項」について説明しました。
- ISO9100の「8 運用」
- 8.1 運用の計画及び管理
- a) 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
- b) 次の事項に関する基準の設定
- その他の追加された要求事項
- 8.1.1 運用リスクマネジメント:追加要求事項
- 8.1.2 形態管理(コンフィギュレーションマネジメント)
- 8.1.3 製品安全
- 8.1.4 模倣品の防止
- 8.2 製品及びサービスに関する要求事項
- 8.2.2 製品及びサービスに関する要求事項の明確化
- 8.2.3 製品及びサービスに関する要求事項のレビュー
- 8.1 運用の計画及び管理
- 参考:日本産業標準調査会の「JIS検索」