現在検討が進められているISO9001の改訂について、昨年実施されたユーザー調査結果が公開され、結論は「ISO9001:2015は現在のまま(改訂しない)」でした。
ISO9001:2015の要求事項の理解が浅いせいかもしれませんが、私は2015版の大きな改訂はないと考えていましたが、気になった点についてまとめています。
ユーザー調査結果については、英文を和訳しようかと考えていましたが、日本語訳も公開されていますので、JSAグループの当該Webページのリンクを張っておきます。
報告書(PDF)のタイトルは以下の通りです。著作権に関してISOへの文書による手続きが必要と判断しましたのでリンクと報告書のタイトルのみ紹介しておきます。
参考にしたWebサイトと報告書タイトル
International Organization for Standardization <www.iso.org>
「Public Report on the results of the ISO 9001 User Survey 2020」
「2020 年 ISO 9001 ユーザー調査結果に関する公開報告書」
ISO9001の改訂について
ISO9001は、ISO(国際標準化機構)に設置された技術専門委員会の一つであるTC176(品質管理及び品質保証)において作成されています。
詳細は、以下の記事をご参照ください。
2020年ISO9001ユーザー調査結果の概要
2020年7月29日から、ISO9001(品質マネジメントシステム-要求事項)について、現在及び詳細のユーザーニーズの理解に役立てるため、Webベースで世界規模のユーザー調査が開始されました。
全部で149ヶ国、8,397件の回答が得られ、回答を分析した結果、次の4点が報告されています。
- 「ISO9001:2015を確認する」とした回答者数は、「ISO9001:2015を改訂する」よりもわずかに多く、最多だった。
- 「ISO9001の要求事項への適合において困っている点はない」と答えた組織は比較的多く、特に中小企業(SMEs)で多かった。
- 今後のISO9001の改訂で対処される可能性のある新しいトピックについては、良い支持が得られた。
- 小規模組織及びISO9001を利用して20年以下の組織の方が、規格の利用によるメリットを若干強く感じていた。
ISO9000及びISO9001定期見直し結果(JSAグループWebサイトより引用)
少し分かりにくいので、JSAグループの当該Webページから引用します。
出典:JSAグループWebサイトの「ISO 9001及び ISO 9000定期見直し結果」より。
ISO9000:2015(品質マネジメントシステム-基本及び用語)
- 2020年7月15日~2020年12月3日 定期見直し投票実施
【投票結果:確認33、改訂28、棄権7、廃⽌0】 ⇒ 「確認(改訂しない)」を決定
ISO 9001:2015(品質マネジメントシステム-要求事項)
- 2020年7月15日~2020年12月2日 定期見直し投票の実施
- 【投票結果:確認36、改訂32、棄権10、廃⽌0】
- 2020年7月~2020年12月末 ユーザー調査の実施
- 2021年3月31日~5月1日 ISO/TC 176/SC 2 “Strategic Planning and Operations Task Group”で検討された次の二つの推奨事項に対する承認投票の実施
- ① ISO9001:2015を、定期⾒直し投票の結果に従い、「確認(改訂しない)」とする
- 【投票結果:賛成63、反対4、棄権11】 ⇒ 「確認(改訂しない)」を決定
- ② ISO9001の次期改訂作業を、通常の定期見直しよりも早期に開始する必要があるかを検討するために、改訂プロジェクトを予備業務項目段階で登録する。
- 【投票結果:賛成61、反対0、棄権17】 ⇒ 「予備業務段階としてのプロジェクト登録を決定
- ① ISO9001:2015を、定期⾒直し投票の結果に従い、「確認(改訂しない)」とする
調査結果のうち気になった問の回答について
以下、私が気になった調査結果について詳細を見ていきます。
問1:今後のISO9001について、次の選択肢のうち好ましいものはどれですか?
回答は複数選択が可能でしたが、「今後のISO9001について、次の選択肢のうち好ましいものはどれですか?」の回答において、ISO9001は現在のままとするが支配的だったわけではありません。
合計5,332件の回答が得られ、上位3つの回答は以下の通りです。
- 2,221件:ISO9001は現在のままとする(次回の見直しまで改訂しない)
- 1,950件:ISO9001を改訂する
- 1,824件:組織の習熟度レベルに応じた様々な規格を開発することを検討する。
ISO9001を改訂するかどうかについては、意見が割れていて今回は見送りになったと考えています。
3位の回答にある「組織の成熟度レベル」という言葉を見て、CMMIの成熟度モデルを思い出しました。
問2:貴組織の品質マネジメントシステムの活用状況について教えてください。
回答は、5:「非常に当てはまる」、1:「全く当てはまらない」となっています。
6,732件の回答があり、上位3位までの点数と質問は以下の結果となっています。
- 4.1:「プロセスの管理の改善」に役立っていますか?
- 4.0:「顧客満足の向上」に役立っていますか?
- 3.9:「事業の持続可能性を満たす」ために役立っていますか?
- 3.9:「市場のニーズを満たす」ために役立っていますか?
- 3.9:「製品やサービスに関連するリスク及び機会をマネジメントする」ために活用していますか?
- 3.9:「戦略的目的の達成」のために活用していますか?
- 3.9:「提供する製品やサービスに対する顧客の信頼性」を高めていますか?
Webでの調査に参加した組織(会社)ということで、ISO9001品質マネジメントシステムを利用している、さらに活用しているような意識のところが多く、当たり前の結果なのかと考えています。
見方を変えると「ISO9001品質マネジメントシステムを活用している」からではなく、「顧客満足の向上や改善を自らできる組織だからこそISO9001を活用できている」ということになると考えています。
問3:ISO9001の要求事項をよりよく理解するために、ISO/TS9002をどの程度利用していますか?
6,435件の回答があり、全く利用していないが35.3%で約2/3の回答者は、ISOTS/9002を利用したり活用していることになります。
今更ですが、最近「ISO/TS9002」を読んでみて、ISO審査機関による規格解釈とはまた別の意味で参考になると考えています。こちらについては、別途まとめてみようと思います。
問4:ISO9001の要求事項を貴組織に適用した結果、次の項目についてどの程度効果がありましたか?
回答は、5:「非常に効果があった」、1:「全く効果がなかった」となっています。
上位5つの点数と項目は次の通りです。
- 4.1:文書化した情報の改善
- 3.9:より効果的なマネジメントレビュー
- 3.9:顧客満足の向上
- 3.9:継続的改善の向上
- 3.8:効果的なリスク及び機会のマネジメント
推測になりますが、
- 文書化した情報の改善には、ICTの利用なども含まれている。
- マネジメントレビューについては、ISO9001:2015で要求されている経営との統合の影響がある。
- リスク及び機会については、改めて自社の社内外のリスクやチャンスについて考えるよい機会になっている。
問5:ISO9001:2015の実施により、貴組織での次の項目への取り組みは、どの程度促進されましたか?
回答は、5:「非常に促進された」、1:「全く促進されていない」となっています。
上位4つの点数と項目は次の通りです。
- 4.1:文書化した情報
- 4.0:プロセスアプローチ
- 3.9:測定及び監視
- 3.9:顧客重視
推測になりますが、
- 文書化した情報の改善には、ICTの利用なども含まれている。
- 品質マネジメントシステムを利用することで、PDCAがうまく回り、継続的改善につながり、顧客重視が浸透しやすくなっている。
品質マネジメントシステムの7原則の通りといったところでしょうか。
ISO9001の次期改訂で強化する概念についての問い
ISO9001の次期改訂に関する調査結果です。
問:ISO9001の次期改訂で次の概念を強化することは、どの程度重要だと思いますか?
回答は、5:「非常に重要」、1:「全く重要ではない」となっています。
全部で16項目ありますが、5,274件の回答があり、点数で上位3位までは次の4つになります。
- 3.9:変更マネジメント
- 3.9:事業継続計画
- 3.8:様々なマネジメントの統合(例えば、労働安全衛生、環境、情報セキュリティなど)
- 3.8:ナレッジマネジメント
推測になりますが、上記4つとも経営に直接関連しています。
- 変化が速く大きい時代背景もあり、変更管理や事業継続についてもISO9001品質マネジメントシステムに含めたいというニーズが強い。
- 労働安全衛生、環境、情報セキュリティは、各々マネジメントシステムもありますが、別個のマネジメントシステムではなく、ISO9001の品質マネジメントシステムの一部として取り込みたいというニーズが強い。
- ナレッジについては、守るだけでなく組織の強みを伸ばすためにも積極的に利用したいというニーズが強い。
最終質問:自由なコメントから見えてくるもの
最終質問では、自由なコメントを求めています。
全部で1,447件のコメントのうち、1,133件のコメントを分析しています。
広い視点での分析によりトピック(話題)で分類すると、次の様になります。
- 32%:その他のテーマ(後述します)
- 21%:不特定コメント
- 19%:”将来”の概念
- 18%:ISO9001:2015に関する決定
- 10%:特定の箇条に関する改善点
上記「その他のテーマ」には、ISO9001:2015について、次の様なコメントありました。
上位5テーマを列挙します。
- コンプライアンス/認証の課題
- 手引/実施の改善
- 規模、成熟度、活動等との関連性の改善
- 事業マネジメント、リーダーシップ及び目標
- リスク
この最後の問いについては、ISO9001の規格そのものについての要望のように感じています。
最後に、経営の経験がない私が言うのもおこがましいのですが、要求事項が提案するあるべき姿を目指す方向性も理解できなくはないですが、正解のない経営に悩み取り組んでいる中小規模の会社にとって、ISO9001:2015がモノやサービスの品質の範囲を超え経営品質を高めることができるマネジメントシステムとして使いやすく利用しやすいツールになっていくとよいと考えています。
まとめ
現在検討が進められているISO9001の改訂について、昨年実施されたユーザー調査結果が公開され、結論は「ISO9001:2015は現在のまま(改訂しない)」でした。
ISO(International Organization for Standardization)で公開された「2020 年 ISO 9001 ユーザー調査結果に関する公開報告書」について、以下の項目で説明しました。
- ISO9001の改訂について
- 2020年ISO9001ユーザー調査結果の概要
- ISO9000及びISO9001定期見直し結果(JSAグループWebサイトより引用)
- ISO9000:2015(品質マネジメントシステム-基本及び用語)
- ISO 9001:2015(品質マネジメントシステム-要求事項)
- ISO9000及びISO9001定期見直し結果(JSAグループWebサイトより引用)
- 調査結果のうち気になった問の回答について
- 問1:今後のISO9001について、次の選択肢のうち好ましいものはどれですか?
- 問2:貴組織の品質マネジメントシステムの活用状況について教えてください。
- 問3:ISO9001の要求事項をよりよく理解するために、ISO/TS9002をどの程度利用していますか?
- 問4:ISO9001の要求事項を貴組織に適用した結果、次の項目についてどの程度効果がありましたか?
- 問5:ISO9001:2015の実施により、貴組織での次の項目への取り組みは、どの程度促進されましたか?
- ISO9001の次期改訂で強化する概念についての問い
- 最終質問:自由なコメントから見えてくるもの