品質や品質管理(QC: Quality Control)、ISO9001なら品質マネジメントなど、普段何気なく使う言葉ですが、「品質って何ですか?」、「品質管理について教えてください。」と聞かれると、答えにつまってしまいます。
例えば、「品質」について説明しようと考え始めると、JISやISOの要求事項など難しい言葉の定義は出てきますが、これをそのまま説明しようにも、補足を加えようと試みようとも、おそらく「伝わらないな」と思考停止となり、考えるのをやめてしまった経験のある人は少なくないような気がします。
そこで、一度品質や品質管理の言葉の説明から離れて、何のための品質や品質管理なのか考えてみました。
品質や品質管理というとモノづくりの話、モノの品質と考えがちです。しかし、品質や品質管理の考え方は、モノづくりに限らず、様々な業界や会社で仕事をする場合にも役に立ちますし、必要だと考えています。
ここでは、これから初めて品質、そして品質管理について学ぶ人を想定して、品質管理の基本的なことについて説明します。
製品(モノ)やサービスの品質について
ISO9001品質マネジメントシステムの品質は、形のあるモノに限ったものではなく、形のない様々なサービスを含みます。さらにISO9001:2015では、品質マネジメントシステムと経営との統合が進み、品質を経営と置き換えても大きな間違いではありません。
これは、最終的にお客様に提供する製品やサービスについて、お客様が満足する(顧客満足を高めていく)ためには、品質マネジメントが経営と一体化して運用されることが必要だという考え方からくるものだと考えています。
例えば、お客様が満足するために良品、良いサービスを提供するということは、良い品質の製品やサービスを作ることでもあります。
それでは良い品質の製品やサービスとは何でしょうか?
QCDで見てみると、
- 製品(サービス)のばらつきがない。
- 価格に見合った製品(サービス)である。
- その製品(サービス)が必要な時に入手できる。
といったことになります。
このため、モノづくり(サービス提供)側は、次のような製品(サービス)を提供(販売)するために、日々努力していることになります。
- 仕様(保証)範囲内のばらつきのない製品(サービス)
- ビジネスとして継続できる価格設定
- 安定供給
この様に、製品(サービス)の品質と言っても様々な意味合いがありますので、次項で品質についてより具体的な説明をします。
製品(サービス)の品質の例
ISO9001品質マネジメントであれば、製品(サービス)の品質とは、お客様の要求を満足させる程度と考えることができます。
例えば、モノづくりの代表例でもある自動車を例に品質について考えていきます。
まずは、自動車に何を求めるかは、次のように用途によって変わってきます。
- F1やラリーのようなレースでは、静かであるより高出力
- 乗用車、タクシー、バスのような移動手段としては、燃費や乗り心地
- スポーツカーであれば、運転を楽しめるようエンジンを聴かせるとか
- トラック、トレーラーのような輸送手段では、騒音や長時間運転のための対策
ここでは、自動車の中でも自家用の自動車とします。
お客様が求める(買いたい)自動車には、次のような様々な要求や期待が含まれます。
- 使いやすさ
- 燃費
- 価格
- デザイン
使いやすさについて掘り下げてみると、
- 運転者の力量(ベテラン、ペーパードライバー)
- 運転者の身長(車体の大きさ、運転席からの視認性)
- 運転時間(短時間、長距離)
- 道路状況(狭い道、一般道、高速道路)
コストについて堀利下げてみると、
- 燃費(長距離重視、短距離重視)
- 維持費(車体の大きさで駐車場代も変わる)
- トータルコスト(初期費用、ガソリン代、保険、車検)
結局のところ、お客様にとって良い品質の自動車とは、お客様が何を優先するかで変わってきます。
最初のうちは、軽自動車、小型車、トランク付き、ワゴン、ワンボックスと様々ですが、自分で運転することを具体的に考え始めると自動車メーカーや車種が絞り込まれていきます。
そして最終的には、私の場合なら、ホンダで、予算の範囲内で、よく乗る人が使いやすい自動車で今ならフィットを選ぶことになります。
好みのメーカーなども入ってくるので、本当にお客様の要求はさまざまです。すべてを満足させるのは難しいというか無理があります。だからこそ、狙って成功した自動車は、コンセプトが絞り込まれていて分かりやすいのではないかと考えています。
この様に、お客様を満足させる品質要求と言っても、具体的な要求はさまざまであるため、各要求を満足させる場合に、どの程度の品質でモノづくりを進めるかを決めることになります。
そして、その自動車がヒットするかしないか、売れるか売れないかは、お客様に提供する自動車だけでなくアフターサービスも含まれることになります。マーケティングの難しさやおもしろさは、この辺にあるのではないかと考えています。
モノづくりのおける3つの品質
モノづくりの品質について調べると、設計品質、製造品質、顧客品質といった言葉が出てきます。この記事で述べているのは、顧客の品質が主になります。
- 設計の品質(ねらいの品質、いわゆる設計図)
- 製造の品質(できばえの品質、できあがった物)
- 顧客の品質(お客様にとっての品質)
詳細については、以下の記事をご参照ください。
品質の定義
品質や品質管理に関連する用語の定義について紹介します。
下手に解説を加えていませんので、これを自社や対象者に合わせて分かりやすく説明するにはどうするか考えてみてください。
良いことが書いてあると思うのですが、自分で理解するのと説明するのとではだいぶ難しさが違います。
担当者の業務(やっていること)を聞きながら、品質とか品質管理に相当することを実際にやっていることに当てはめて説明するようにしています。
「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き」の定義
以下、「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」から引用します。
「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き」は、以下にあります。
社会人になり仕事を始めたばかりの方に、QC検定4級合格を目標にすることに反対ではありません。
しかし、その前に、モノづくりや会社についての説明や教育・訓練(体験)を実施しないと、何も知らない人にとってはやらされ感などマイナスのイメージばかりが定着してしまうと考えています。
製品(製品やサービス、製品・サービス)
製品(製品やサービス、製品・サービス)
「プロセスの結果であり、顧客に提供され価値を生み出すもの。」
製品には、ハードウェア、素材、ソフトウェア、サービス、エネルギー、情報など、さまざまな形態があります。
私たちが日ごろ手にする製品は、これらの形態が一つだけのものは少なく、多くは複数の形態が混在しています。
製品の一つであるサービスは、お客様(顧客)と組織(供給者)との間でお客様のために行われる活動であり、お客様にとって便益があるものをいいます。この手引きでは、サービスを明示的に示したい場合は、「製品やサービス」又は「製品・サービス」というように、サービスを併記してあります。
引用文献:「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」より
品質(質)
品質(質)
「製品・サービス、プロセス、システム、経営、組織風土など、関心の対象となるものが明示された又は暗黙のニーズを満たす程度。」1 )
多様化して成熟した市場では、お客様から、はっきりと明示されたニーズを満たすだけではなく、積極的にお客様に潜在しているニーズを掘り起こして満たし、顧客感動を引き起こすような顧客満足を得ることが重要です。ニーズは、お客様のニーズに限定する場合や、お客様に加えて社会などのニーズを含む場合がありますので注意してください。
品質の要素である機能、性能、使用性、入手性、経済性、信頼性、安全性、環境保全性などを、単に品質ということもあります。また、サービス業などで、品質という用語がなじまないものや、有形ではない無形のものは、品質の同義語として“質”(例えば、仕事の質、医療の質、サービスの質。)を用いる場合があります。
引用文献:「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」より
お客様(顧客)
お客様(顧客)
「製品・サービスを受け取る組織又は人。」1 )
お客様は“顧客”ともいいます。
品質管理は、製品やサービスの受け取り手であるお客様を極めて重視しています。お客様は、組織が提供する製品やサービスに料金を支払う直接の購入者だけの狭い意味でなく、消費者、エンドユーザー、依頼人、小売業者、受益者、潜在的なお客様などの広範な人々を含みます。
また、組織外部のお客様だけでなく、組織内部で自部門の後工程(次工程)となる部門や人々も“後工程はお客様”と考えます。この考え方に基づいて組織全体が品質管理活動を進めることによって、効果的で効率的にお客様のニーズを満たす製品・サービスを実現し、提供できるようになります。
引用文献:「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」より
お客様の声( VOC )
お客様の声( VOC )
「顧客の、製品に対する要求事項。」
品質面を含む製品・サービスに対する顧客の多岐にわたるニーズを把握するために収集したお客様の生の声(使いやすい、きれいなど)のことです。
これを分析して要求品質(携帯性、鮮明さなど)に変換し製品・サービスが実現すべき品質を明らかにしたり、品質保証上の問題点や課題を発見したりする際に活用していきます。お客様の声は、voice of customerの頭文字をとりVOCと略記され、原始情報、 原始データ、言語情報ということもあります。
引用文献:「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」より
品質管理
品質管理
「顧客・社会のニーズを満たす、製品・サービスの品質/質を効果的かつ効率的に達成する活動。」
品質管理の目的は、製品・サービスの安全性、操作性、信頼性、経済性、環境保全性などの多岐にわたるニーズを満たすことです。そのためには、目標とする品質を明確にし、実現するためのプロセス(工程)に対して管理を確実に実施することが重要になります。
品質は、 使用者、 見込み客、 ターゲット市場、 社会などを考慮して明確にします。
また、管理は、 PDCAを回すこと、すなわち経営目的に沿って、人、もの、金、情報などの経営資源を最適に計画し、 運用し、継続的かつ効率的に目的を達成するためのすべての活動をいいます。
引用文献:「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き Ver.3.1」より
ISO9001品質マネジメントシステムの定義
以下、「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」から引用します。
JIS規格は原文を見ることができます。以下をご参照ください。
QMS:品質(quality)
3.6.2 品質(quality)
対象(3.6.1)に本来備わっている特性(3.10.1)の集まりが,要求事項(3.6.4)を満たす程度。
注記1 “品質”という用語は,悪い,良い,優れたなどの形容詞とともに使われることがある。
注記2 “本来備わっている”とは,“付与された”とは異なり,対象(3.6.1)の中に存在していることを意味する。
引用文献:「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」より
QMS:要求事項(requirement)
3.6.4 要求事項(requirement)
明示されている,通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている,ニーズ又は期待。
注記1 “通常暗黙のうちに了解されている”とは,対象となるニーズ又は期待が暗黙のうちに了解されていることが,組織(3.2.1)及び利害関係者(3.2.3)にとって,慣習又は慣行であることを意味する。
注記2 規定要求事項とは,例えば,文書化した情報(3.8.6)の中で明示されている要求事項をいう。
注記3 特定の種類の要求事項であることを示すために,修飾語を用いることがある。
例 製品(3.7.6)要求事項,品質マネジメント(3.3.4)要求事項,顧客(3.2.4)要求事項,品質要求事項(3.6.5)注記4 要求事項は,異なる利害関係者又は組織自身から出されることがある。
注記5 顧客の期待が明示されていない,暗黙のうちに了解されていない又は義務として要求されていない場合でも,高い顧客満足(3.9.2)を達成するために顧客の期待を満たすことが必要なことがある。
注記6 この用語及び定義は,ISO/IEC 専門業務用指針-第1 部:統合版ISO 補足指針の附属書SLに示されたISOマネジメントシステム規格の共通用語及び中核となる定義の一つを成す。元の定義にない注記3~注記5を追加した。
引用文献:「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」より
QMS:対象(object),実体(entity),項目(item)
3.6.1 対象(object),実体(entity),項目(item)
認識できるもの又は考えられるもの全て。
例 製品(3.7.6),サービス(3.7.7),プロセス(3.4.1),人,組織(3.2.1),システム(3.5.1),資源
注記 対象は,物質的なもの(例 エンジン,一枚の紙,ダイヤモンド),非物質的なもの(例 変換率,プロジェクト計画),又は想像上のもの(例 組織の将来の状態)の場合がある。(ISO 1087-1:2000の3.1.1を変更。)
引用文献:「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」より
QMS:特性(characteristic)
3.10.1 特性(characteristic)
特徴付けている性質。
注記1 特性は,本来備わっているもの又は付与されたもののいずれでもあり得る。
注記2 特性は,定性的又は定量的のいずれでもあり得る。
注記3 特性には,次に示すように様々な種類がある。
a) 物質的(例 機械的,電気的,化学的,生物学的)
b) 感覚的(例 嗅覚,触覚,味覚,視覚,聴覚などに関するもの)
c) 行動的(例 礼儀正しさ,正直さ,誠実さ)
d) 時間的(例 時間厳守の度合い,信頼性,アベイラビリティ,継続性)
e) 人間工学的(例 生理学上の特性,人の安全に関するもの)
f) 機能的(例 飛行機の最高速度)
引用文献:「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」より
QMS:品質特性(quality characteristic)
3.10.2 品質特性(quality characteristic)
要求事項(3.6.4)に関連する,対象(3.6.1)に本来備わっている特性(3.10.1)。
注記1 “本来備わっている”とは,あるものに内在していること,特に,永久不変の特性として内在していることを意味する。
注記2 対象に付与された特性(例 対象の価格)は,その対象の品質特性ではない。
引用文献:「JIS Q 9000 品質マネジメントシステム−基本及び用語」より
まとめ
品質や品質管理(QC: Quality Control)、ISO9001なら品質マネジメントなど、普段何気なく使う言葉ですが、「品質って何ですか?」、「品質管理について教えてください。」と聞かれると、答えにつまってしまいます。
これから初めて品質、そして品質管理について学ぶ人を想定して、品質管理の基本的なことについて以下の項目で説明しました。
- 製品(モノ)やサービスの品質について
- 製品(サービス)の品質の例
- モノづくりのおける3つの品質
- 品質の定義「品質管理検定(QC検定) 4級の手引き」の定義
- 製品(製品やサービス、製品・サービス)
- 品質(質)
- お客様(顧客)
- お客様の声( VOC )
- 品質管理
- ISO9001品質マネジメントシステムの定義
- QMS:品質(quality)
- QMS:要求事項(requirement)
- QMS:対象(object),実体(entity),項目(item)
- QMS:特性(characteristic)
- QMS:品質特性(quality characteristic)