教育・訓練というと計画を作って、講師(先生)を決めて、実施・評価・報告と面倒なイメージがあるかもしれません。しかし、あなたの会社でも、教育・訓練と呼んでいないだけで、例えば新入社員研修、技術トレーニングなど何らかの教育・訓練を実施しているはずです。
研修やトレーニングは、メンバーの力量アップにつながっていますし、期待したレベルに達していれば次の段階へ、技量等が不足していれば再度トレーニングをしていませんか?
品質マネジメントだから何か特別なことをするのではなく、やっていることをISO9000シリーズの要求事項に当てはめてみてください。メンバーの力量を向上させ、教育・訓練のレベルを上げるために、PDCAを回して教育・訓練を改善していけばよいのです。その結果が、チームや部署の品質目標達成となり、会社の品質目標達成につながるのです。
「品質」という言葉にこだわり過ぎず、会社の目標を達成するために、チームの目標を達成する。チームの目標を達成するため、メンバー一人一人が各自の目標を達成する。そのために必要な力量と現在の力量(知識や技術など)を比較し、不足する力量を教育・訓練で身に着けていくということです。
ここでは、品質目標と教育・訓練の関係、教育・訓練について感じてきたことを紹介します。
品質マネジメントにおける品質目標と教育・訓練
品質目標と教育・訓練の関係について質問され説明する機会が多かったので、新人営業を例に紹介します。 ここでは、営業予算達成が顧客満足の向上にもつながると考え、予算達成を品質目標としています。
まずは、新人営業Aさんの力量評価です。個人の力量については、分からない点も多々ありますので、初めての力量評価は仮に行い、3か月後に再度評価します。
Aさんの年間営業予算(目標)を達成するため、月ごとの目標予算として品質目標実施計画に落とし込みます。 品質目標実施計画の進捗管理は、毎月の予算を達成した、しないを上長と確認します。未達の場合は、原因と対策について相談し、必要な指示を受けます。四半期、半期ごとに全体を振り返ります。
予算達成のためには、自社製品の知識とお客様の注文を理解するための専門用語が必要になります。 どちらも一朝一夕には身に着きませんので、次の2つの目標を設定します。
- 3か月後に標準的なカタログ品30種について説明できるようになる。
- 専門用語については、社内外を問わず分からない言葉についてメモに残して、同じことを2度聞かないようにする。
1.については、教育・訓練計画として進めます。 教育・訓練項目として製品知識の習得とし、「3か月後にカタログの標準品30品目についてカタログを使って説明できる」を目標とします。
2.については、個人目標として進めることにします。 毎週上長がどのような言葉を知ったか確認する。
教育・訓練の進捗管理(目標管理)のポイントを以下に列挙します。
- 毎週、毎日何をするかを具体的にする。
- 実際にやったこと、できなかったときはその理由を記録する。
- 評価は自己評価と上司の評価の2つ行い、ギャップを明確にする。
- ギャップを記録し、月末のタイミングで、今後どうするかを話し合い決める。
品質目標を個人に落とし込み教育・訓練の視点からまとめたものが、教育・訓練計画であり、教育・訓練の進捗を確認し記録を残すことが重要です。
研修やトレーニングをしてもその内容と評価(期待する知識を理解できたか、技量を習得したかなど)を残しておけば、次回あるいは別のメンバーへの研修やトレーニングに利用することができます。記録がなければ、またゼロから計画・実施となり、折角の改善のチャンスを失うことになりもったいないと思います。
ここまで説明してきたことは、おそらくどの会社でもやっていることではないでしょうか?
意識してはいないかもしれませんが、すでにPDCAを回しているのではないでしょうか?
実際にやっていることを少し整理して、計画、実行し、記録を残せばよいのです。ISOの教育・訓練だから何か特別なことをしなければならないということではないのです。
品質マニュアルを使って新入社員教育
マニュアルや規定(社内ルール)を作る時、教育・訓練の視点も必要になってきます。
マニュアルについて分かっているのは作った人だけ、作った人しか教えられない状況になっていませんか?
これは、何かちょっと違う、ずれていると感じていませんか?
社員が守るルールが書いてあるのに、読んでも分からないのであれば、そのマニュアルは形だけということになってしまいます。せっかく、手間、暇かけて作ったのにもったいないとは思いませんか?
ならば、教えやすいマニュアルを作るのもありだと思いませんか?
ここでもPDCAと継続的改善です。まずは自分が説明できる内容にして、少しづつ分かりやすいマニュアルにしていきます。マニュアルの改定は、当然するべきことなので、改定手続きが面倒だから改定しないと言うのであれば、面倒な改定手続き、手順を変えればよいのです。
例えば、新入社員教育で自社のISO、品質マネジメントシステムについて教育する場合、以下のものがあれば十分教育できます。事前に準備する資料もありませんし、会社の概要説明としては十分だと考えています。
- 経営理念、ビジョン
- これは社長からのお話(訓話)
- 品質方針・品質目標
- できれば所属部署の目標とからめて説明する。
- 組織図
- 自社の拠点、各部署の役割
- 品質マネジメントシステム体系図
- 営業、技術、製造、品質保証についての概要を説明する
教える立場になり痛感してきたこといろいろ
教育・訓練に限らず、何かを教えるときに痛感してきたこと、考えさせられたことを紹介します。
かつて、「普通(ふつう)は、人によって最も大きな違いのある言葉だ。」と話してくれた先輩がいました。
「分かってます。」という根拠のないすごい自信
「分かってます。」と、(直接口にするか心の中かは別にして)、思わず言いたくなることがあります。言った人と言われた人の「分かっている。」の意味する内容が違うのです。はたから見ているとよく分かるように思います。そもそも、聞いていない、聞こえていない。伝わっていないこともありますし。
同じ様な経験のある方なら薄々感じているのでしょうが、こんな時は、そう、確認するしかないのです。
根拠のない絶対的な自信というのもあります。
身近なところでは、子供の根拠がないのに言い切る、絶対的な自信。試験の結果を見て話しているのに、それでも崩れない自信(本人は試験の結果よりかなり上の進学先に合格できると言い切っている)。「口だけでは恥ずかしいよ。」と言っても、気にしている様子もなく説得力はないようです。
そう言えば、根拠のない自信について思い当たることがありました。商品企画時代、「何でそんなに自信があるの?」と聞かれたことがあります。本人は売れるとしか考えていない。売れるまでにある程度時間がかかることはあっても、売れないなどとは思いもしていない。どうしてかと理由を聞かれても、「売れると思っているから。」と、禅問答のようになってしまう。
独特の考え方と言われる所以かもしれません。本人は、いたって普通、当たり前だと思っているのですが。
売れるまでは、何やかやと言われていたらしいが、売れたら何も言われなくなりました。企画した商品が売れて嬉しかったのは確かですが、それを自慢することもなく、勝って兜の緒を締めよのような気負いもなく、それまで通り変わりなく仕事をしていたように思います。
「自分のために何かしたいことはないの?」と聞かれて、たどり着いた答えが、「人の喜ぶ顔、笑顔が好きなんだよなぁ。」。自分のために何かを主張した覚えは記憶にないと言い切れそうです。
「知っていること」と「教えること」
「知っていること」と「教えること」とは、全く別のことです。有償セミナーでのことですが、知りたい、分かりたいという方には、何となく伝わったかなという感触があるのですが、「よく知らない、初めてなので勉強しにきました。」みたいな方の場合には、何も伝わっていない、受け取れていないような感じを受け、無力感を感じることもありました。
「名選手は名監督とは限らない」と言いますが、超一流の世界では、何か感じるとか伝わるとかいった感覚のようなものでないと伝わらないのかもしれません。
「伝える」と「伝わる」は大違い
「知っていること」と「教えること」とも関係ありますが、「伝える」と「伝わる」とは大違いです。
「伝えてます」と言う場合、本人はそう思っていても、全く伝わっていないことはそう珍しいことではないと思います。
自戒を込めて言いますが、「伝わらないのは、伝える側に問題がある」と考えています。 私は教えることについて考える時、山本五十六の次の言葉を見て、「ああ、そうだったな。」と思い返し、気を取り直しています。
やってみせ
言って聞かせて
させてみて
ほめてやらねば
人は動かじ
ここでは職人、プロフェッショナルな人の技術伝承の話をしているわけではありませんので、基本を教えてできるようにする、基本のキからの場合、教える側の心構えとしては、これが一番かと思います。
蛇足ですが、くじけそうな時、我慢の限界を迎えそうな時、山本五十六の名言「男の修行」で気持ちを切り替えるこがあります。自分を責めすぎては本末転倒なので、私はあまり深刻にならないよう受け取っています。
苦しいこともあるだろう
云い度いこともあるだろう
不満なこともあるだろう
腹の立つこともあるだろう
泣き度いこともあるだろう
これらをじっとこらえてゆくのが 男の修行である
まとめ
教育・訓練も品質マネジメントだから何か特別なことをするのではなく、実際にやっている研修やトレーニングをISO9000シリーズの要求事項に当てはめてみてください。 メンバーの力量を向上させ、教育・訓練のレベルを上げるために、PDCAを回して教育・訓練を改善していけばよいのです。その結果が、チームや部署の目標達成となり、会社の品質目標達成につながるのです。
「品質」という言葉にこだわり過ぎず、会社の目標を達成するために、チームの目標を達成する。チームの目標を達成するため、メンバー一人一人が各自の目標を達成する。そのために必要な力量と現在の力量(知識や技術など)を比較し、不足する力量を教育・訓練で身に着けていくということです。
ここでは、以下について説明しました。
- 品質マネジメントにおける品質目標と教育・訓練
- 品質マニュアルを使って新入社員教育
- 教える立場になり痛感してきたこと