内部監査員教育のためにハンドブックを作成しました。
2020年11月、複数のページに分かれていた内部監査ガイドを1つにまとめました。Kindle版内部監査ガイドもあります。
ここでは、内部監査の基準と不適合の記述例について説明します。
内部監査ガイドは、教科書的な内容も含め以下の項目となっています。
内部監査の基準
内部監査の基準の例を紹介します。
監査所見として、以下の判断基準を設けます。
適合
以下について満たしている場合には、適合として扱います。
- 【要求事項への適合】
- 品質マネジメントシステムがJIS Q 9001に適合している。
- 【適切な運用】
- 品質マネジメントシステムが、品質マニュアル通りに運用されている。
- 【有効性】
- 品質マネジメントシステムが有効である。
適合しているとは、
現在運用されている品質マネジメントシステムについて、
- 各プロセス(工程、業務)の手順が定められ、
- 各プロセスの相互関係が明確であり、
- ルール(品質マニュアル)通りプロセスを実施したことにより、
- 計画した結果(パフォーマンス)を達成している。
ことになります。
不適合
適合の基準を満たしていない場合には、不適合として扱います。
不適合は以下の区分とし、不適合に対しては是正処置を求めます。
- 【重大な不適合】
- 品質マネジメントシステムに必要なプロセスが欠落している。
- 各プロセスの相互関係が明確になっていない。
- 同じような不適合が度々起きているのに放置されている。
- 手順に全く従っていない。
- 【軽微な不適合】
- 手順と実施内容の一部に相違がある。
- ヒューマンエラー(個人の間違い、忘れ)など
観察事項
観察事項とは、そのまま放置しておくと、将来不適合となる恐れがあるような事象をいいます。
このような事象を発見した場合には、観察事項として内部監査報告書に記録し、次回監査の時に確認します。
内部監査結果の報告
監査責任者は内部監査の結果を、管理責任者と被監査部署に報告します。
内部監査報告書に含める内容は以下の通りです。
- 監査目的
- 監査対象部署
- 監査日時
- 監査対応者
- 監査員
- 監査結果
- 重大な不適合
- 軽微な不適合
- 観察事項
- フォローアップ(是正処置、観察事項)
- その他(必要に応じコメントなど)
監査責任者は、不適合があれば被監査部署責任者に是正処置を促し、「是正処置要求/報告」を回答期限内に提出するようフォローします。必要に応じ、管理責任者の指示を仰ぎます。
不適合の記述
不適合を指摘する場合のポイント
不適合を指摘する場合のポイントは次の通りです。
- 事実関係を的確に述べ、監査員の意見・推測は述べないこと
- 監査基準(不適合の根拠)を明確にすること
- 監査基準と事実との差(違い)を明確にすること
是正処置報告書には、不適合の3要件として次の事項を記載します。
- 【要求事項】
- 監査基準の該当する要求事項
- 【不適合の状態】
- 不適合が発生している状態
- 【監査証拠】
- 不適合を裏付ける証拠
この際、記録や業務の実施状況と、手順、手順書との差(違い)が明確になるよう具体的に記述します。
- 【良い例】
- QC工程図では、最終検査で限度見本を使用することになっているが、製品Aの最終検査において検査員D氏が限度見本を使用していなかった。
- 【悪い例】
- 最終検査で検査者が限度見本を使用していなかった。
不適合の記述例
実際は報告書への記述ですが、ここでは会話形式で説明します。
不適合の記述例 その1
悪い例
成型不良で社内不適合が発生していますが、作業日報にその内容が記入されていませんでした。
悪い点は、「監査基準が不明確」なことです。
良い例
製造規定には、成形不良で社内不適合が発生した場合には、作業日報にその内容を記入することになっていますが、すべての作業日報に記録されていませんでした。
不適合の記述例 その2
悪い例
不適合品と思われる製品に「不適合品識別票」が付いておらず、明確に分かれていませんでした。
悪い点は、「監査証拠が不明確(事実)」なことです。
良い例
不適合品処理規定には、不適合品については「不適合品識別票」を添付し、不適合品置き場に置くことになっています。
しかし、工場北側に置かれていた製品に不適合品と判定された「不適合品識別票」が添付されていませんでした。
また、工場内の不適合品置き場に置かれていませんでした。
不適合の記述例 その3
悪い例
モーター修理品の受入検査基準があいまいでした。
悪い点は、「あいまいと判断する根拠が不十分」なことです。
良い例
ISO9001要求事項の8.1c)2)では、その製品のための製品合否判定基準を明確にすることが要求されています。
修理品の受入検査基準を確認したところ、外観の検査項目についての合否判定基準が決められていませんでした。
不適合の記述例 その4
悪い例
・・・の処理が不十分でした。
悪い点は、「不十分」という言葉は監査員の意見であることです。うっかり使ってしまいがちなので十分な注意が必要です。
良い例
何が、どう不十分なのか、具体的な事実の指摘が必要です。
参考:内部監査責任者として悩むこと
内部監査責任者として、不適合にするか否かを決定する情報の1つに、不適合や観察事項の件数があります。
例えば、次の様なイメージになります。
軽微な不適合 2件 = 重大な不適合
観察事項 2件 = 軽微な不適合
各部署の品質マネジメントシステムの実行状況がほぼほぼ平均的であればそれほど悩まずに済むのですが、中小企業においては、部署間のレベル差(あえて力量さとは言いませんが)が大き過ぎるがために、次の様な悪魔の囁きが聞こえてくることがあります。
「指摘してもフォローアップが大変だぞ」
「外部審査対策なら形式的に済ませてしまえば」
そして、内部監査を利用して日々の業務を少しでも改善したいとの思いを自分自身に言い聞かせ、今よりもよくなる指摘を考えるのでした。
不適合については、内部監査時間中に被監査部署の同意を得る必要もあるので、結構ストレスがかかるのですが、当事者にならないとなかなかこの大変さは伝わらないようです。
ご参考までに、会社全体として何を改善するかについては、
- 前回の内部監査結果
- マネジメントレビューの結果
- 外部審査の結果
に加え、前回の内部監査までの約1年間を振り返り、ポイントを決めて内部監査に取り組むようにしています。
内部監査が始まってみると、予想外のことが普通に発生しますので、思惑通りにはいかないことが多いのですが、それでも内部監査責任者としての準備はしておくことをおすすめします。
事前に準備をしていれば予想していたことの修正で済みますが、何も準備をせず出たとこ勝負の対応をすると、複数部署の内部監査全体をまとめようとした際に初めて思わぬ不整合が出ていることに気付き、管理責任者に迷惑をかけてしまいます。
「内部監査責任者として配慮が足りませんでした(力量付則でした)」では謝られた方も困るのでしょうが。
まとめ
ここでは、内部監査の基準と不適合の記述について、以下の説明をしました。
- 内部監査の基準
- 適合
- 不適合
- 観察事項
- 内部監査結果報告書の不適合の記述例
- 不適合を指摘する場合のポイント
- 不適合の記述例
- 参考:内部監査責任者として悩んだこと
内部監査ガイドは、続きます。