技術系の内部監査員候補の教育を始め、意欲や力量に問題も見られなかったので内部監査でのOJTを実施したのですが、まさかOJTの場で事前教育の不足に気づくことになるとは思いもしませんでした。
この時は、OJTを任せた内部監査員に助けられました。
技術系の内部監査員教育については、「技術系内部監査員の育て方」の他には、「知らなければ聞けばよい。聞くことも内部監査員に必要な力量の1つだから」と考えていたため、結果的に監査員候補者の力量(基礎知識)の確認をしなかったことが盲点だったと考えています。
内部監査員候補者の力量(営業業務の知識)を事前に確認しなかった私のミス、手抜きと言われても致し方ないかと思うほどの失敗でした。
今後のために営業業務を知らない内部監査員候補者に対する監査員教育について振り返りまとめたことを説明します。
内部監査員教育のOJTで失敗に気づく
内部監査前の教育では、次の2点を指示しOJTを実施しました。
- 営業業務規程の営業フローを使って質問し、エビデンスを確認していくこと
- 分からないことは、聞きながら教えてもらいながら進めること
ところが、内部監査のOJTに同席して様子を見ていると、
- そもそも営業業務の用語、営業が使っている言葉について知らない。
ということに気づきました。
監査後、OJTについて感想を聞いてみると、
- 営業用語については分からないので、ネットで調べましたがよく分かりませんでした。
- 今回内部監査(OJT)をやってみて、どんなことをしているのか分かりました。
とのこと、これは内部監査員に対する営業業務の基本的な教育をしなかったためだと反省したのでした。
そういえば、内部監査の2、3ヵ月前だったと思いますが、OJTを任せた内部監査員から、
「営業業務の基本的な用語や業務内容について、事前に教育しなくて大丈夫ですか?」
と聞かれていたのでした。
後悔先に立たず、今更ですが「そういうことだったのか。」と気づき、営業業務について基本的な教育の必要性を再認識しました。
内部監査で出てくる営業業務については、社会人として常識だと思い込んでいたようで、私の思い込みでした。
営業系以外の内部監査員のための営業業務の基礎知識
営業が日々行っている業務プロセス(受注~入金確認)と記録等を下表に示します。
まずは、下表について、
- 営業はこんなことをしている。
- 営業の記録にはこの様なものがある。
ということを教育します。
下表以外の営業業務に関することについては、次節で説明します。
プロセス |
内容 |
書類等 |
---|---|---|
受注 |
注文書が届く |
注文書 |
注文内容(注文書)と見積書を(品名、数量、納期などを)確認する。 |
注文書、見積書 |
|
受注手配 |
基幹システムに受注登録をする。 |
- |
基幹システムの登録内容を確認する。 |
ダブルチェック |
|
売上 |
出荷後、納品書を基幹システムから出力(印刷)する。 |
納品書 |
納品書(控)を注文書と一緒にファイリングする。 |
納品書(控) |
|
請求 |
基幹システムから請求書を発行する。 |
請求書 |
支払い条件は、月末締め翌々月10日支払い等、顧客により様々 |
- |
|
入金確認 |
請求書と入金を確認し、基幹システムに回収入力をする。(入金消込) |
(経理担当) |
表1 営業の業務プロセス(受注~入金確認)と書類等
営業業務についての補足
営業業務(営業の仕事)には、関係者が多いという特徴があります。
次の様な関係者との調整役の他、社内や外注先との価格交渉も営業の重要な仕事の1つです。
- お客様
- 外注先(購買部門に依頼や営業自ら対応する場合もある)
- 営業事務(営業アシスタント)
- 経理
表1にないことや補足を含め営業について説明します。
引き合い(顧客対応)
引き合いとは、お客様とのやりとりのことです。
問い合わせ対応の他にも価格や納期回答などが含まれます。
- お客様からの問い合わせ(Web、電話、メールなど)
- 問い合わせ内容の確認
- 納期確認
見積書の作成・提出
引き合いがあれば、見積書を提出までは事務的に処理される場合が多いのですが、受注の見込みが高くなってくると価格交渉や納期調整が本格化します。
価格や納期は、お客様だけでなく、自社工場や外注先との交渉も必要になってきます。
出荷
出荷・納品では、いつ・どこから出荷するか、納品場所を指定します。
商品の輸送では、
- 運送会社
を使うのが一般的ですが、出荷~納品先までの事故や製品の損傷については、
- 運送中の事故(破損)に対する保険
をかける場合もあります。
納品・検収
検収はお客様が注文した製品を受け取ることです。
検収を上げて頂かないと請求できませんので、検収時にトラブルがあると特に営業は大変です。
なお、売上の処理は、出荷基準で計上する場合と、検収基準の場合とがあります。
請求書発行
納品後忘れずに請求書を発行します。
支払い条件は、「月末締め翌月10日支払い」等、会社により様々です。
請求書がなければ、お客様の支払い処理ができませんし、請求書が遅れれば支払いも遅れます。
支払い・入金消込
営業の仕事は、納品し、(出荷基準や検収基準で)売上を計上しただけでは終わりません。支払いを受けてようやく完了です。
入金消込は、お客様からは当月分の支払いがまとめて入金されるのですが、これがどの請求書の分なのか紐づける処理です。
参考:取引証憑(とりひきしょうひょう)の保管期間
取引証憑(とりひきしょうひょう)とは、取引の証拠となる書類のことで、ISOの文書管理対象ではなく、法律(法人税)で定められているものです。
取引証憑(請求書、注文請書、契約書、見積書、仕入伝票等)の保管期間は、
- 法人税法施行規則 第五十九条、第六十七条
に定められており保管期間は7年です。
見積書以外は、基幹システムで管理されている場合が多いかと思います。
なお、そこそこの規模の会社であっても見積書が個人で管理されており、担当営業によっては発行した原本を保管していない場合もあるようで、これを内部監査で是正していくのは難しいです。
内部監査員としての目標
最後に、私が考えている内部監査員としての目標について説明します。
内部監査員の教育・訓練の目標を以下の2つとしていますが、コミュニケーションが取れるかといった側面もあり、一朝一夕にはいかないのが現実です。
- 内部監査において、ISO(ISO9000シリーズ)について質問されたときに説明できること
- 内部監査員として、内部監査の準備から実施、是正、報告書作成まで担当できること
この後は、次の様なことを目標に自学研鑽して欲しいところですが、当人の考え方も関係しますし、ケースバイケースで見守りなが育てていくようなイメージです。
- 内部監査員としての自らの力量を高めていく。
- ISOの基礎知識、他業務の知識、ISO規定類の理解を深める。
- 業務改善のために何をみるか、どのように指摘するかについて考える。
まとめ
ここでは、営業業務を知らない内部監査員候補者に対し、営業が日々やっていることと専門用語について、以下の項目で説明しました。
- 内部監査員教育のOJTで失敗に気づく
- 営業系以外の内部監査員のための営業業務の基礎知識
- 営業業務についての補足
- 引き合い(顧客対応)
- 見積書作成・提出
- 出荷
- 納品・検収
- 請求書発行
- 支払い・入金消込
- 参考:取引証憑(とりひきしょうひょう)の保管期間
- 内部監査員としての目標